はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2020-01-01から1年間の記事一覧

2020年に出会った印象深い本10選

こんにちは。 今年も早いものであと数日。2020年も素晴らしい本と出会うことができました。 ▼2019年の10冊はこちら dandelion-67513.hateblo.jp #良作ノンフィクション 1.「荒野へ」ジョン・クラカワー 山中で遺体となって見つかったエリート青年。彼の日記…

軽妙なタッチで戦争の悲しみを余すことなく伝えてくる良作 デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

こんにちは。 デイヴィッド・ベニオフ著 「卵をめぐる祖父の戦争」 こちら、このミス2011年版[海外編]で第3位!(うーん、微妙っ!笑) 他には、ミステリが読みたい2011年版[海外編]第6位、 「本の雑誌」が選ぶ2010年ノンジャンルベストテン第4位・・・ …

人が人に命を預ける意味、人が人を命がけで助ける意味 コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」

こんにちは。 コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」 2020年10月に文庫化されたばかりのこの作品。 ある奴隷少女コーラの逃亡劇を克明に記した小説なのですが、コーラの行く手を阻む残虐な追っ手の影がちらつき、ドキドキが止まらない!! また、その逃亡劇…

濃密な白い闇の中に引きずり込まれたような不快感と疲労感がクセになる カズオ・イシグロ「充たされざる者」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「充たされざる者」 「遠い山なみの光」、「浮世の作家」で名を上げた彼が、「ブッカー賞」という周囲の期待からも自由になってやっと書いたのがこの作品。文庫本ながら厚さは約5センチ、900ページにも及ぶ超超超大作。手首が…

あの銀英伝が帰ってきた!!!「銀河英雄伝説列伝1」

こんにちは。 10月30日発売のこちら、「銀河英雄伝説列伝1」 ずっと前から予約して楽しみにしていました。予想通り数日で読み終わってしまい、再度銀英伝ロスに陥っている今日この頃。2はいつ出るのかな… 「列伝」は、銀英伝を愛する作家が、思い思いに銀英…

モスクワの伯爵

「モスクワの伯爵」 こんにちは。 サマーリーディングリストに入れておきながら、秋の夜長まで積ん読していました「モスクワの伯爵」 「チャーミングな伯爵のステイホーム生活」なんていう触れ込みでしたが、そんなに明るくはなくて、悲しい気持ちになります…

忘れられたいと思う事柄ほど忘れてもらえず、覚えていてほしい人には覚えていてもらえない ジョゼ・エドゥバルド・アグアルーザ「忘却についての一般論」

こんにちは。 9月発売の白水エクス・リブリス。 「忘却についての一般論」 一見すると哲学論か?と思われますが、れっきとした小説です。 原題は”Teoria Geral do Esquecimento”で、何語かはわかりませんが、 Teoria=Theory、Geral=General と容易に推測さ…

驚くべき完成度、魅力的な登場人物…もし自分が小説家なら、こんな小説を書いてみたい!エリフ・シャハク「レイラの最後の10分38秒」(早川書房)

こんにちは。 9月発売のこちら。 エリフ・シャハク「レイラ最後の10分18秒」 読み終わった瞬間、「完璧だ!!!」と声が出てしまった完成度。予想以上に素晴らしかったです。彼女、「トルコで最も読まれている女性作家」だとか。 2018年のブッカー賞最終候補…

ラーラ・プレスコット「あの本は読まれているか」

こんにちは。 ラーラ・プレスコット「あの本は読まれているか」 2020年3月発売。 書物が人の意識を変え、ついには世界を変える!そういう夢のようなコンセプトの「ドクトル・ジバゴ」作戦を成功に導いたCIAスパイのお話。ただ、出てくるのは「堅実なスパイ」…

ジョン・クラカワー「空へ」

こんにちは。 ジョン・クラカワー「空へ」 数年前に「エベレスト」という、1996年にエベレストで起きた大量遭難事件について取り上げた映画がありました。当時映画館でも見て、映像の美しさ、極限状態での人間ドラマに圧倒された記憶があります。極寒の登頂…

カズオ・イシグロのジョークの才能にただただ驚かされる カズオ・イシグロ短編集「夜想曲集」

こんにちは。 カズオ・イシグロの最新作「クララとお日さま」の発売(2021年3月)が地味に楽しみな今日この頃、短編集「夜想曲集」を読みました。 老歌手:離婚を前に最後の旅行する元スター歌手とその妻。「結婚によって成り上がかった」妻と、「若い女と結…

「世界は良い方向に向かっている」という大いなる勘違い ジョージ・オーウェル「動物農場」

こんにちは。 ジョージ・オーウェル「動物農場」。あの有名な「一九八四年」の著者であります。 数年前までは古書でないと手に入らなかった本作。最近(といっても2017年)新訳されたそうで、多くの書店で平積みされているのを見かけます。いろんな出版社か…

超難解ではあるけど、格闘する価値はアリ。231ページからが本番です!「ソロモンの歌」トニ・モリスン

こんにちは。 …100ページ弱まで読んでおもしろくなかった本、捨てるべきか、おもしろくなるのを待って読み続けるべきか、それが問題だ。 それっぽく言ってみましたが、格言でも何でもなく、私の日々の悩み事です。笑 本の虫あるあるかもしれませんが、みなさ…

流し読み「ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短編29」ジェイ・ルービン著 村上春樹序文

こんにちは。 最近半沢直樹が流行りすぎていて、担当者会議なんかしようもんなら、とりあえず「タスクフォース」って言いたがるなどする今日この頃です。笑 個人的には前作のほうが好きでした。今作は視聴者サービスなのか、1話1倍返しを毎度入れ込むお祭り…

世の中で最も強いのは、自分に恥じるところのない者である。ジョン・スタインベック「エデンの東」後半戦

こんにちは。 ジョン・スタインベック「エデンの東」後半戦。 dandelion-67513.hateblo.jp 悪女と呼ばれたキャシーについて。 キャシー:前半はサイコ女。しかし、最後の最後「カワイソウな私」を武器に読者にトドメを刺す食えない女。キャシーは私の中では…

主人公夫婦以外はみんな好き!読み終わるのを切なく感じた超大作。 ジョン・スタインベック「エデンの東」前半戦

こんにちは。 ジョン・スタインベック『エデンの東』 映画も超有名だけど、おそらく原作も有名。BEST AMERICAN BOOKSにもランクインしております。本人は構想に25年をかけた超大作(全4巻)であり自身のライフワークと称しているそうですが、同じくスタイン…

自分の価値を認めてくれる人のそばで生きたいというすごく単純なこと 万城目学「とっぴんぱらりの風太郎」

こんにちは。 久々の万城目学です。「プリンセス・トヨトミ」も待機中。実は、「バベル九朔」で受けた衝撃が忘れられず、「はずれだったらどうしよう、こんなページ数…」なんてヒヨっていましたが、こちらはアタリ! ただ、めっちゃ長いのだけど… 万城目学「…

「オオタカを飼うと自分が何を期待しているかがわかるぞ」 ヘレン・マクドナルド「オはオオタカのオ」

こんにちは。 ポパイのサマーリーディング3冊目。 dandelion-67513.hateblo.jp ヘレン・マクドナルド『オはオオタカのオ』 期待以上の内容で超~満足。雌のオオタカにまっすぐな愛を注ぐ中で、父を失った主人公の女性が救いを得ていく過程を描いています。た…

無念のリタイアをした本たち。2020夏

こんにちは。 夏の風物詩ということでリタイアした本みっつ。 ベル・カント 実際にペルーであった、日本大使公邸占拠事件に着想を得た小説。映画化もされています。オビに映画のポスターがついてたから、ホソカワ=渡辺謙に脳内変換されてしまい、冒頭に出て…

幸福は、分かち合えるものだけが、ほんものである。 ジョン・クラカワー「荒野へ」

こんにちは。 ジョン・クラカワー「荒野へ」 ポパイのサマーリーディング1冊目です。 dandelion-67513.hateblo.jp カポーティの「冷血」と同じようなものを期待して。 「冷血」がある程度時系列に事件を追っているのに対して「荒野へ」は「死」からの逆算で…

自分が思っていた「自分」と、自分が唯一愛した女からみた「自分」が真逆だったら? エリック・マコーマック「雲」

こんにちは。 エリック・マコーマック「雲」 日本にも多数のファンを抱えるこの著者。「変わった話が好きならコレ」と紹介されて読んでみました。トイレの花子さんを読み漁ったあの頃の幸せな記憶がよみがえってきました…! 主人公ハリー(60代)は、メキシ…

★保存版★ POPEYEのサマーリーディングリスト POPEYE 2020年8月号

こんにちは。 駆け込み購入したPOPEYE。 2020年8月号ですからおそらくあと数日でコンビニではお目にかかれなくなりそうな。POPEYEのコンセプトは、シティボーイのファッション&カルチャーということですが、シティ派でもボーイでもない私も時々読みます。 …

親の言う「あなたのため」ほどアテにならないものはない 「春にして君を離れ」メアリ・ウェストマコット

こんにちは。 メアリ・ウェストマコット…初めて聞く方も多いかと思いますが、こちら、アガサ・クリスティがロマンス小説を発表した時に使用していたセカンドネームです。アガサ・クリスティは、メアリ名義で計6作を発表しました。「アガサ・クリスティの名前…

この夏に読みたい良作ミステリ3作

こんにちは。 通勤中に読むのはミステリと決めています。線を引く個所もないし付箋も必要ない。眠くても、立っていても読める…2時間サスペンスを見るような気軽さで読めるので、大変重宝しています。ぼちぼち通勤地獄が始まったため、ここ数日で読んだ良作ミ…

「何かを変えれば何かが変わるはず」というどこまでも他力本願な「救済」を求めた一家の悲劇と再生の物語 ハヤカワ・ミステリ文庫「エヴァンズ家の娘」

こんにちは。 ハヤカワ・ミステリ文庫「エヴァンズ家の娘」。 いろいろな賞を受賞しているだけあって、構成も、盛り込まれたテーマも素晴らしい!女系家族×さびれた湖畔の家(別荘)×何十年も前に起きた失踪事件という組み合わせに興味を惹かれないひとはい…

人が生きるということは、誰かにとっての何者かになるための道のりなのかもしれない。叶うならばその道を誰かと共に歩みたい。「Giv:その犬の歩むところ」

こんにちは。 2018年の本屋大賞で翻訳小説部門第3位の「Giv:その犬の歩むところ」。(1位は「カラヴァル」) 「犬」小説ということで、開始5分で泣かされる。泣きどおしの作品でした。 子ども・動物・ラーメン(グルメ)は、数字の取れる特集だということは…

親との不仲は子どもに厳しい生を強いることとなる。12歳少女の壊れやすい気持ちを描いた透明感あふれる小説。 村上柴田翻訳堂「結婚式のメンバー」(村上春樹訳)

こんにちは。 カーソン・マッカラーズ「結婚式のメンバー」。(村上春樹訳・村上柴田翻訳堂) 裏表紙の内容紹介には、「南部の田舎町に暮らし、日々の生活に倦む12歳の少女フランキーが、兄の結婚式で人生が変わることを夢見て奇矯な行動に出る」というよう…

ブルックリンのありふれた日常の中、パワフルな老人が人生の悲哀を掬い取ろうとする等身大のおとぎ話 ポール・オースター「ブルックリン・フォリーズ」

こんにちは。 ポール・オースター「ブルックリン・フォリーズ」 「サンセット・パーク」で目の覚める体験をし、「インビジブル」でう~んとなったポール・オースター3作目。すっごい期待して読み始めたんだけど、「サンセット・パーク」ほどの感動はなく、普…

ありのままの自分を認められない大人たちが、信仰の原点に立ち返る ハヤカワ・ミステリ文庫「ありふれた祈り」

こんにちは。 「ザリガニの鳴くところ」に続き、泣けるミステリ第2弾!(最近アタリが続いており、コチラも2020年で5本指に入りそうだけども…笑) ウィリアム・ケント・クルーガー「ありふれた祈り」です。 「あの夏の全ての死は、ひとりの子供の死ではじま…

原文に触れて初めて、私はシャーロック・ホームズに恋をした「MONKEY 探偵の1ダース」

こんにちは。 柴田元幸氏責任編集「MONKEY」第20号「探偵の1ダース」です。 私にとって雑誌とマスキングテープは集めるものという認識がありまして、こちらもややインテリアになりつつあるのですが(インテリアとしてもめちゃくちゃ優秀です)、ハズレもない…