はらぺこあおむしのぼうけん

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母の過去を強引に知ろうとした結果出会った切なすぎる真実 「秘密」ケイト・モートン

こんにちは。

先日大絶賛したばかりの「湖畔荘」作者の、ひとつ前の作品です。

「秘密」ケイト・モートン

 

秘密〈下〉 (創元推理文庫)

秘密〈上〉 (創元推理文庫)

 

ある夏の日ツリーハウスの上から母が男を殺すのを目撃したローレル。その事件は強盗未遂事件として片づけられ、母は正当防衛を認められたが、ローレルは被害者の男が「やあ、ドロシー」と母の名を呼ぶのを覚えていた。母とその男は何でつながっていたのか、今まで知ろうとしなかった結婚する前の母の秘密を探ろうとする話。

 

親の過去ってあんまり知りたくないんだよねぇ…っていう人が多いと思うけど、人の親の過去なら知りたいです!それも特大に重いやつ!!っていうデリカシーのない私は、作品紹介を読むだけで興味津々。認知症も進み過去と今とがわからなくなってきた母ドロシー・スミザムが、「二度目の人生をくれてありがとう」なんて口走るものだから、「え!?なになになになに!?」ってめっちゃ気になってくる。

主人公は事件を目撃したローレル。彼女は娘として、母の過去に接するのに戸惑いとか覚えるのかと思いきや、前作(時系列的には最新作)の「湖畔荘」のアリスを彷彿とさせる肝っ玉の太さを誇るローレル。死にかけの母の耳元で「ねぇママ聞いてる??…ねぇ!?」と大きい声で過去を問い質すなど、アリスばりのせっかちわがままババァです。

 

鳴り物入りで(我が家に)やってきた「秘密」でしたが、のっけからdisらせてもらうと、まず、似たような設定・展開が頻出してデジャヴなところがちょっとだけ微妙でした。親切で話好き、事件に関わる重大なヒントを与えてくれる司書だったり、カギを握る人やその家族が存命でわざわざ訪ねて行って想像できないくらい良い関係を築くところ。

また、主人公も「湖畔荘」の主人公、アガサクリスティ風超売れっ子ミステリ作家に比肩するすごい人で、なりたい顔ランキング2位の女優という石田ゆり子的な…?

ローレルの妹の一人ローズは田舎のオバサンなんだけど、他の2人の妹は超やり手だし、末弟のジェラルドはスゴイ大学のスゴイ研究者で、こういうの好きなんだろうなぁっていうのはわかるけど、趣味全開!!!って感じで、弁護士とか誰もが認める美人とか影のある男子とか全寮制の学校とか、そういう過剰な小道具を愛用する恩田陸に見えてくる。ローレル姉妹もその母も皆御多分に漏れずすごい美人、そんなにすごい人間を登場させる必要はどこにあるんだろうなんて思ったりするけれど、まぁ内容が面白いので許します。笑

 

謎解きする現代の話、真相がちょっとずつ語れる過去の話。交互に読んでいるうちに「そういうことか!!」とひとり早合点し、最後の最後で誤りを正される快・感…!!笑 前回は捨て伏線なる荒業に舌を巻いたけど、今回も引き続き練りに練られてんな、って感じ。「あの役どころに超イケメンを採用する必要ってなくない…?」なんて余計な事考えず、不思議な世界に没入して騙されましょう!!

 

「湖畔荘」と同じ、時代設定は戦時中と現代。「湖畔荘」は戦争神経症がカギでしたが、今回はナルシシズムがカギを握ります。単純なミステリに見せてある一つの普遍的なテーマを中心に据えて深掘りするところも、この作家の魅力の一つかと思います。

ナルシシズムはアニメなどのせいで、いつも鏡を見ているようなものを想像させますが、実はそういうんじゃなくて、過剰な承認欲求、空想の世界を作り上げる、自分を大きく見せるなどのことを指します。生まれた家の身分の低さ(今と違って当時はどうにもできないまま子に引き継いでいくようなものだった)、戦争の不条理など、もともとそのけはあったんだろうし、そのものに罪はないけれど、いろいろ不運やすれ違いが重なった末、事件が起きてしまいました。

最後まで読んでみてドロシーの隠し続けてきた「秘密」の大きさに改めて気づかされ、どれほど心の休まらない日々だったろうと胸を痛めてしまう。親の秘密を知るのには躊躇してしまいますが、告白したい秘密を抱えたまま生きるのもそれまた辛いこと。ドロシーは秘密をやっと告白して安らかに逝けたのでしょうか。

「湖畔荘」と同じく秘密や疑念が心を蝕んでいき、人間関係をいびつにしてしまう恐ろしさにぞっとしました。

「湖畔荘」ほどハラハラドキドキはしないんだけど、プロット・構成・登場人物・裏テーマなどなどの作りこみはスゴイ。こちらもオススメ!と胸を張って言える作品。

最新作からさかのぼっていく感じなってしまったけど、次は「忘れられた花園」を読んでみたいと思います。

 

おわり。

 

dandelion-67513.hateblo.jp