はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2019-01-01から1年間の記事一覧

自分のものだと思った相手には平気で不義理をはたらく モーパッサン「わたしたちの心」後半戦

こんにちは。 前半戦の続き、いっきまーす! dandelion-67513.hateblo.jp パリに戻り愛人関係となった二人は、秋、そして冬を迎えます。冷え切っていく心と季節の描写の対比が素晴らしい。 モーパッサンの自然の描写は本当に美しいです。絵を見ているよう。…

2019年に出会えてよかった本BEST10

こんにちは。 今年の総まとめに、2019年に出会えてよかったなーと感じている本を紹介します。2019年に”出会えて”なので、必ずしも2019年刊行ではありません(というかほとんど違うかも… 最も印象に残った本をもとに、連想ゲームのように紹介していこうかなと…

【最新刊】中だるみ?とりあえず零ちゃんが将棋に集中できますように… 「三月のライオン」15巻(ネタバレ)

こんにちは。 本日(12/26)発売ということで、お財布握りしめて本屋さん行ってきました! 三月のライオン15巻です。既に前回号からモヤモヤ~っとしていましたが、どうなるかな? 今回は、Chapter 154~166、 ①星のふる夜に(1、2) ②あづさ1号(1~5) ③道…

好きになっちゃダメだと思った時点で惚れているし、あの人のことが好きなのかしらと考える相手のことは好きじゃない。モーパッサン「われわれの心」前半戦

こんにちは。 モーパッサン「わたしたちの心」です。 4、5年前に一度読んだきりだったのですが、9月に新訳が出たので改めて。「女の一生」や「脂肪の塊」、「ベラミ」等は現在も入手可能ですが、「わたしたちの心」は入手困難だったため、新訳が出るのはすご…

マジかよ!こんなオチありかよ!!! チェスタトン「木曜日だった男」

こんにちは。 チェスタトン「木曜日だった男」です。タイトルに惹かれて手に取り、「この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩…それは、幾重にも張り巡らされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まり…日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結…

漱石の倫敦時代を勝手に補完してくれるありがたい小説 島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」

こんにちは。 好きな作家TOP5には入るであろう夏目漱石。 故人ですから、もちろん新作が発表される見込みはない。漱石の作品を読破してしまうのが惜しくて細々と読み進めていましたが、5年ほど前に虎の子の「明暗」(未完)を読んで以来、漱石の新作に触れる…

やっぱり作者は主人公を助けてしまうのか。救いの光ほとばしるラストがちょーーーっと微妙な「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~B面~(ネタバレ)

こんにちは。 前回、ベンの成長、ベンとエイミーの関係の修復という面からレビューした「ロボット・イン・ザ・ガーデン」A面。今日はB面です。(もはやA面/B面は死語でしょうか。私とてMD世代w でも、A面とB面以上にぴったりくる言葉が見つからない) dand…

結末は読めているんだけどページをめくる手が止まらない。英国版ドラえもんの実力やいかに? デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~A面~

こんにちは。 最近話題になっていて、本屋さんでも平積みされているコレ。 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」です。英国版ドラえもんと書かれて絶賛されていましたが、さてさて。 舞台はイギリス。無職男のベンは、有能な弁護士である妻…

若い頃の熱狂が失われて用心深い私生活に入った中年男。実は氷の上に立っていた。新潮クレスト「アムステルダム」

こんにちは。 イアン・マキューアン(私の中で)3作目。新潮クレスト「アムステルダム」 一言でまとめると、物語の筋は星新一のショートショートを見ている感じで、無駄が少なくまとまりが良い。ちょいちょい老いることのエッセンスみたいなものを織り交ぜて…

どうしても戻りたい“あの時”がある人と、そうではない人 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」

こんにちは。 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」 事故によって寝たきりになってしまった兄と崩壊する家族を、弟目線で描いた話。自分の体験に基づいた作品のようです。こういう救いのない系は、実はすごく苦手。得られる教訓も少なく、読後にやるせなさが…

知らないという恐怖。理由を失えば、それだけ恐怖は怪物的になる カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦です。息を吐くようにネタバレしていこうと思います。 前半戦はこちら。 dandelion-67513.hateblo.jp ウィスタン、エドウィンと旅をすることになった老夫婦は、ガウェイン卿なる老騎士と親しくなり、…

どうせお前ホラ語ってんだろという目線で読み解く カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」前半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」です。 カズオ・イシグロ作品は、「私を離さないで」、「日の名残り」に続き3作目。彼の作品は、文章が超絶難解というわけでも、世界観がぶっ飛んでいるというわけでもないのですが、何となく読みづらい。た…

子どもを優しい子に育てるメリットなんてどこにもない 「ギルティクラウン レクイエムスコア」

こんにちは。 「コードギアス反逆のルルーシュ」を見て、ルルーシュの生き様に惚れ込んだ私。コードギアス好きならこれ!と薦められたギルティクラウンを読んでみました。制作スタッフが同じらしく、世界観や設定がかなり似ているようです。 舞台は十数年後…

ナンバーワンを目指す気楽さとオンリーワンであれない地獄 朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」後半戦(ネタバレ)

こんにちは。 朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」後半戦。螺旋プロジェクトの肝である「戦う理由」についてです。 前半戦はこちら dandelion-67513.hateblo.jp 今回いつでもどこでも誰とでも戦いまくっているのは、堀北です。彼は、目に見える/見…

皆誰かの生き方を必死になって真似ている 朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」前半戦(ネタバレ)

こんにちは。 螺旋プロジェクト、ついに最後になりました! 螺旋プロジェクト平成編。朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」 朝井リョウの名前は初めて聞いたのですが、「桐島、部活~」とか、「何者」とか作品のほうは知っていました。映画は見たこと…

照れやの女より恥ずかしがり屋の女のほうが100倍お得である コレット「青い麦」

こんにちは。 「シェリ」で有名なコレットの「青い麦」。新訳が出たので読んでみました。 「シェリ」は、元高級娼婦のレアと、シェリ(わたしのかわいい子)と呼ばれる青年フレッドの長い交際を描いたもので、心理描写や当時の風俗の描写が巧みで高い評価を…

面白いんだけど非現実演出のための小道具が過剰すぎて集中できないミステリ 恩田陸「黄昏の百合の骨」

こんにちは。 もともと知名度は高かったものの、蜜蜂と遠雷で一気に大御所感が出た恩田陸初期の作品「黄昏の百合の骨」。「三月は深き紅の淵を」「麦の海に沈む果実」「黒と茶の幻想」三部作の関連作品。不思議な雰囲気が漂っています。 女子高生の理瀬は、…

夜中に目が覚めたとき襲われる猛烈な不安を一日中抱き続けた土曜日 新潮クレスト「土曜日」

こんにちは。 ある脳神経外科医の一日をつぶさに書いた作品。夜中に目が覚めたとき、そして寝付けない夜、私たちの心を支配するのはネガティブな感情です。怒り、不安、孤独感、混乱… 土曜日の朝4時に目覚めた脳神経外科医の主人公は、床につくまでの間、実…

自分が作り出した妄想の人物ですら、自分の人生を彩る存在だと考える 新潮クレスト「ディビザデロ通り」

こんにちは。 新潮クレスト「ディビザデロ通り」 結論から言うと、「人生はコラージュ。それまで出会ってきた人たちを抱えて人は生きている」というテーマの話です。連続短編集の趣で、前半はクレア、アンナ、クーペという三人の若者の半生が切れ切れに。後…

決して結ばれることはない海族・山族の恋の行方は? 薬丸岳「蒼色の大地」

こんにちは。 螺旋プロジェクトも残り2作品となりました。明治の巻。薬丸岳「蒼色の大地」です。 時は明治。日本に海軍が創設されて間もなくの頃です。呉とか横須賀とか、そういう港町が舞台。時代はもう少し先ですが、「この世界の片隅で」で見た風景を思い…

じいちゃんの補正された思い出話を延々聞かされるという苦行 新潮クレスト「海に帰る日」

こんにちは。 2005年ブッカー賞受賞作、新潮クレスト「海に帰る日」です。 年老いた男マックスが、人生を回顧する物語。彼の心の中には、亡くしたばかりの妻アンナと、初恋の相手クロエの二人がいましたが、妻を失った今、彼の心はクロエとの思い出の地に引…

無軌道にポジティブ思考を発動する奴に気をつけろ ヴォルテール「カンディード」

こんにちは。 思想家として超有名なヴォルテールの「カンディード」という作品です。風刺作家との一面も持っていたヴォルテールの幕間劇みたいなものでしょうか。 世界の100冊に選ばれておきながら何度も断念していましたが、新訳が出たとのことで何度目の正…

田舎町で起きる奇怪な殺人事件。全ての動機ある容疑者と大きな秘密。王道・Classic・本格ミステリ ヘレン・マクロイ「あなたは誰?」

こんにちは。 ヘレン・マクロイ「あなたは誰?」を紹介します。海外ミステリは一つ読むとどんどん他のを読みたくなるので、慎重に避けている私です。 あるものが好きで好きでたまらなくて、抜け出せない状態に達することを「沼にはまる人」と呼ぶそうです。…

価値観・将来展望のすり合わせを怠ったまま結婚した若い二人が直面する初夜という現実 新潮クレスト「初夜」

こんにちは。 衝撃の作品と紹介されていましたが、その名に恥じぬ衝撃っぷり。新潮クレスト「初夜」です。タイトル通り初夜の話。初夜の大失敗により離婚に至る夫婦の話です。 舞台はイギリス。第二次世界大戦後の混乱から立ち直り、国が豊かになっていく時…

未来を救うのは過去の記録。面白い本を大切に。 吉田篤弘「天使も怪物も眠る夜」

こんにちは。 螺旋プロジェクト未来編 吉田篤弘「天使も怪物も眠る夜」です。 約60年後の東京の話。東京は大きな壁で二つに分断されています。東京には不眠症が蔓延し、睡眠導入にふさわしい本、いわゆる全く面白くない本が流行し、 夜を徹して読んでしまう…

未来を望めないとわかったとき、人が求めるのは時計の針を過去の幸せな日々に戻すことなのかもしれない。ユーディト・W・タシュラー「国語教師」(集英社)

こんにちは。 今年6月に発売されたユーディト・W・タシュラー「国語教師」。2014年のフリードリヒ・グラウザー賞(ドイツ推理作家協会賞)の長編章を受賞した作品。江戸川乱歩賞みたいなものかな? 推理小説の分類に入ってはいますが、手掛かりを得て、推理…

「不幸な兄が人生を懸けて追い続けた妹」が、絵に描いたようなヒロインじゃなかった時… ダニエル・ウォレス「ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話」

こんにちは。 「ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話」です。あのビッグフィッシュの作者が書いた作品。そして「トリック(DER TRICK)」風味の表紙につられて読んでみました。 ある手紙からはじまるこの小説。「”彼”の最期を調べることにした…

混沌の時代の中で生きる人たちの小さな小さな物語 アリソン・マクラウド「すべての愛しい幽霊たち」

こんにちは。 ちょっと不思議な短編集です。アリソン・マクラウド「すべての愛しい幽霊たち」 作品紹介をちらっと見て「老女の、家にいる幽霊たちへの優しいまなざし」というような文章を発見し(たような気が)ました。お!これは!老い先短い老女が、古い…

撃たれる覚悟もないのに撃ってる奴 キラ・ヤマト。漫画「ガンダムSEED Destiny THE EDGE」後半戦

こんにちは。 前半戦に続いて、アスラン以外の人の尊厳も回復していこうと思います。キラの陰でひっそりと泣いていた人の誤解も解いてあげたい。 dandelion-67513.hateblo.jp 最初からシャアと同じ声のためにラスボス視されていたデュランダル議長です。彼は…

よみがえれ!アスランとアスランの尊厳!! 漫画「ガンダムSEED Destiny THE EDGE」前半戦

こんにちは。 今更(十年以上前のアニメ?)のガンダムSEED Destinyです。 アスラン視点で描かれたもう一つのSEED Destiny。アスランの行動が不可解過ぎて、「キラのケツおっかけて全部失ったいっちばん可哀想な人」認定していましたが、おそらくアスラン推…