はらぺこあおむしのぼうけん

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ナンバーワンを目指す気楽さとオンリーワンであれない地獄 朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」後半戦(ネタバレ)

こんにちは。

朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」後半戦。螺旋プロジェクトの肝である「戦う理由」についてです。

前半戦はこちら

 

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死にがいを求めて生きているの

今回いつでもどこでも誰とでも戦いまくっているのは、堀北です。彼は、目に見える/見えない敵と常に戦っている好戦的な人間。堀北をいつもそばで見ている智也は堀北が争いを求めている姿を見て、嫌悪感を通り越して呆れています。高校まではまだいいけど、大学に入ってからの堀北の行動は異常。古い友人にも「あいつ、汚い権力に立ち向かうのに命注ぎます!みたいなこと言い始めて、なんか、ドリンクバーぐらいすぐ命注ぐんすよ!」と馬鹿にされています。ドリンクバーw なぜ、わざわざ戦いに行くのか?そこには堀北なりの理由がありました。

高校までの堀北は、ナンバーワンになることを目指していました。しかし、運動でも勉強でも競わせることをやめていった時代、ナンバーワンになった自分を誇示できずにフラストレーションを抱えていました。そして大学に入学。彼はそこで、壁にぶち当たります。ナンバーワンになれる場所がない、と。高校までは、自分たちがやるべきことは決まっているから、与えられたミッションをクリアしていけば自分の優秀さを確認することができる。しかし、大学になったら皆に平等に与えらえたミッションがないことに気が付きました。そして、ルールが変わった世界にいち早く順応した、自分よりも偏差値が低い奴らが、どんどん自分を抜いていく。社会に出ると、自分が優れている分野を探し、そこで個性を出さないといけない。そしてその上で一位にならないといけないんです。つまり、オンリーワンを目指す必要がある。(まぁ、それで取り組んだのがジンパ復活とかださい。というのはおいといて)

実はナンバーワンとオンリーワン、オンリーワンになるほうが断然難しいんです。こんなことが書いてありました。「人間は、自分の物差しだけで自分自身を確認できるほど強くはない。ナンバーワンよりオンリーワンは素晴らしいけれど、それはつまり、今まで誰かがやってくれた順位付けを、自分で行わなければないということ。見知らぬ誰かに、『お前は劣っている』と言われる苦痛の代償に、自ら自分自身に、『あの人より劣っている』と言い聞かせる悲しみが続くという意味でもある」と。これ、ぐさっと刺さる。

ネット社会になったおかげで、「あの人」という幅がすごく広がりました。今まではせいぜい学校の友人の間レベルだったものが、全国(世界)の幅広い年齢層の人に公開でき、いいね!で評価しあうこともできる。刺激にもなるけど、今までは自己満足で済ませられたものに評価がついてしまう困惑。自分より10個も下の中学生のほうがめっちゃすごいことしている…なんてショックを受けることもしばしば。わざわざ公開する必要はない、自分の中に秘めておけ!って言われるかもしれないけど、そこは、「人間は、自分の物差しだけで自分自身を確認できるほど強くはない」わけですから、それも難しい。

さて、この小説に出てきた与志樹という少年も、高校に進学し、同じ壁にぶち当たりました。中学では国語の教師に気に入られ、全校生徒の前で表彰された経験も。教師からの評価が生徒の中の順位に大きく影響する中学という世界で彼は、自分がヒーローになったように感じていました。しかし、高校に上がり自分と似たような成績の人間が集まり、ルールが変わります。自分と同じレベルなのは当たり前で、その中で個性を出さなければ誰にも見向きされない。同じ高校に進学した中学の同級生がいました。与志樹は彼をネクラと馬鹿にしていましたが、実はすごい物知りであることを知ります。彼の含蓄に富んだ一言は同級生に受け、皆は彼を尊敬するように。彼に「お前変わったな」と、高校での変化を揶揄した与志樹は、「お前は全然変わらないな」と言い返されます。幼い、と。

「年齢を重ねる中で求心力となりうる要素は変わっていく。自分が持ち合わせていた要素が有効な時代が終わってしまったなら、自分の中身を更新していかなければならない。」という言葉も、刺さる!要領の良さって大切ですよね。いい大学に入るのはすごく簡単なんです。しかし、大学に入学してからは、勉強の出来不出来は全く意味がなくなる。どれだけ要領良くできるかが重要ですと、いきなりゲームチェンジされるわけです。個人的には、卒業する程度に勉強して、あとは就職の準備をしろという大学の在り方はすごく問題と思いますが。

堀北が戦いを求める姿を冷めた目で見ていたのは智也ですが、前半戦で触れたように、智也が堀北を追っていたのは、争いをやめさせるため。しかし智也もふと思い当たります。「堀北に争いをやめさせようと画策していたことは、自分なりの争いではなかったか。争いに意味はないと言いながら、自分は戦う堀北と間接的に争うことで自分を維持してきたのではないか」と。智也も智也で、堀北を止める戦いに生きがいを感じていたのです。

海VS山の単純な争いではなく、この世で生きる中で誰もが直面する戦いを取り上げたうえで、しっかり海と山の対立も中に入れ込む。すごい!他にも、2つにわけようとしたら、線より1cmずれている人も、1kmずれている人も一緒くたに、ざざざっと分けられてしまう危うさ、や、戦いは複数対複数になった時点で核を失うとか、ついつい頷いてしまう言葉も。

 

朝井リョウさんは、SNSや若者の特性、社会の構造を本当によく理解してるんだと思います。本の中には、「うわ~」ってなるものも多いのですが、彼?彼女?の論は現在の日本で起こっていることに裏打ちされた納得感があり、勉強になります。

印象に残った言葉をあれこれ。

「祭りのとき、みこしをかつぐ男は男らしい。祭りのとき、ご飯を作って応援する女は女らしい。祭りのとき、みこしをかつぐ女は男よりももっと男らしい。しかし、祭りのとき料理を作る男は、気持ち悪い」

うん、わからんでもない。弓削といううだつの上がらないサラリーマンはこういいます「みこしを担ぐことに向いていない男は、行き場がない。みこしも担げる女に抜かされて、でも料理を作ったらキモいと言われる。女むかつく。」みこしは社会や会社のメタファーでもあると思うわけですが、女にも言い分があります「この理論でいくと、みこしを担がせてもらえるようになったのがざっと30年前?しかしその時は『男であれ』と要求された上で。今はやっと女としてみこしをかつぐ(出産等女性のイベントも許容される)ようになったけど、制度は穴だらけだし、飯作るのはまだまだ女の領分だし。しかも、みこしの上から年寄りに、女はフォローにまわったほうがいいんじゃないか!と公然とヤジられるけどね?」と。

よくよく考えてみると、みこしをかつぐ女も、かつげなくてあえいでいる男も、実はみこしの上に載っている古い価値観や制度が共通の敵なわけですが、弓削みたいな男は、なぜか頑張ってみこしをかついでいる女を敵だと思っています。男に負けるのは許容できるけど、女に負けるのは許せない。ずるい、となる。弓削なんて、最後は気に食わない女上司と後輩への腹いせに、会社に火を放つんですよ。

まぁ、弓削の言い分もわかりるんです。女の生き方は広がったけれど、男の生き方は古いまま変わらず。専業主婦はOKだけど、家に男がいるのはヒモと呼ばれる。何度も言うけど、敵は古い価値観です。しかし日本人は、共闘せずにずっと男女でいがみあったままなんでしょう。

 

また、

Facebookは若者が見向きもしなくなった。喧伝したいことが両手いっぱいの中年しか残っていない」

最近、Facebookみてます?中年の長文投稿は置いといて、日経とか新聞社のFacebookのコメント欄はかなり気持ち悪いです。おそらく時間と承認欲求を持て余した老人がうろついているので、コメントも過激だし、「俺たちは日本を作ってきた(ダメにしたの間違いでは?)。今の若者はなっとらん!」という老害の見本市みたいになってますよ。本名なのに。絶対見てはいけません。

 

最後にイマイチポイント。

・シーソーモンスターで出てきた嫁姑は絵本作家になり、「アイムマイマイ」という絵本を出します。この本でその内容が少し語られるんですが、アンパンマンみたいなことを言うんですよ。元スパイの二人組だったら、もっと毒あること言ってくれてもいいのに、なんて少し残念。

・最後の最後の3ページ、たたみかけるように戦いの本質が語られるんですが、すっごーくくどいんです。同じこと何回も言うから、だれてきます。セリフも長まわしで、そこだけ超残念!!

 

さて、話は前半戦に戻りますが、堀北はあの事故をきっかけに改心したのでしょうか?堀北が智也の病室に毎日現れるのは反省した証拠なの?そうなんだよねぇ?と思っているあなた。最後の最後にどんでん返しが待っているのでお楽しみに!私は本気でぞっとして、再読しました。と、ミステリー要素もちょっとあり、大満足。

 

これを螺旋プロジェクト最後にするのもおすすめです。今までのご先祖様の出来事も『海山伝説のすべて』という本を引用する形で軽く触れてくれるし、「壁」がどうして必要なのかも語られます。おさらいする形でこれを最後に読むのも良いと思います。

 

おわり。

螺旋プロジェクトもおわり。

 

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