はらぺこあおむしのぼうけん

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聖武天皇の人柄をめぐる短編集。天平ロマンの香りを添えて 澤田瞳子「月人壮士」

こんにちは。

 

螺旋プロジェクト天平ロマン編。澤田瞳子「月人壮士」です。これは面白かった!

月人壮士 (単行本)

 

聖武天皇崩御の際に遺された、皇太子を指名した「遺詔」をめぐる物語。本を開いてすぐ、天皇家・藤原家略系図が掲載されているので、そこに書き込んでいきましょう。

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橘諸兄氏が「年寄の道楽じゃ、本当に皇太子を道祖王に指名したのか、真偽を確かめよ」と道鏡らに依頼する。彼らが関係者に聞き取りをしていく中で、聖武天皇の本当の姿が明らかになる。一つの真実を求めて聞き取りする系の小説だと、恩田陸のQ&Aが好きです。おすすめ。

Q&A

Q&A

 

聖武天皇に関する基礎知識ってどれくらいありますか?中高生だったころは覚えていたのかもしれないけど、私は、この本を読み始めた時にはすでにあやふやです。

奈良の大仏の建設

・いっぱい遷都

・仏教に傾倒

国分寺国分尼寺の造立を指示

・藤原家の台頭(親類縁者にを天皇家に嫁がせる)

などなど。あと、この本を読むうちには、

・好色(ただのスケベなのか、ストレスから女を求めてしまうのかは不明)

・母親との確執

・独善的

の設定が追加されていきます。こちらはどれくらい根拠があるのかは不明。各自ググってくださいw

 

証言1 古くからの友人 橘諸兄

「遺詔」探しの依頼者。聖武天皇とは母へ憎しみという点で互いにシンパシーを感じていた。聖武天皇はずっと母の宮子を憎んでいたというが…?

証言2 侍女 円方女王

最後までずっと身の回りの世話をしていた侍女。幼い聖武天皇が、母宮子の御殿で精神を病んでしまった宮子を目撃し、それ以来母の御殿には近づかなくなったことを知っている。母との確執の原因である。

証言3 妻 光明子

聖武天皇に嫁いだのは、自分と県犬養広刀自の二人。藤原家の生まれであること、なかなか子宝に恵まれないことを病み、焦燥感を覚えていた。そんなとき、側室として新たに姪が送り込まれ、さらに追い込まれる。

証言4 僧 栄訓

仏教に傾倒する天皇は、鑑真をはじめとする渡来僧を重用し、日本の僧をないがしろにしはじめる。天皇としての自覚から日本の僧には本心を見せられず、母への愛と憎しみ入り混じった気持ちを吐露できるのは、渡来の僧の前だけであった。

証言5 「遺詔」により皇太子に指定された道祖王の兄 塩焼王

恭仁(くに)京、紫香楽京、難波京と3度の遷都をした聖武天皇。遷都の度に大仏を作ったり、市が移ったり、混乱を極める。旧都に戻りたいと懇願する下女を奈良に返す手伝いをしたことで流刑になった。自分にはもったいないほど出来すぎた弟との思い出の数々。自分には頼れる弟がいたが、天皇に頼れる人はいたのか?

証言6 中臣継麻呂

長屋王謀殺の思い出。聖武天皇亡き後、また長屋王謀殺の時と同じような空気が流れていると危惧する。今、藤原氏に対立している橘氏は…?

証言7 僧 道鏡

宮子は、玄昉という僧をそばにおいて離さなかった。精神を病んだ彼女が唯一心を許せる存在。ある時玄昉が遠くに左遷される。全てを任せ孤独を分かち合える存在をもつ母親に激しい嫉妬をした聖武天皇は、強引に二人を引き離したのか?

証言8 造東大寺司長官 佐伯今毛人

20代の頃から春日野で暮らしている彼の、15年前ほどの思い出。金光明寺造立の当初、寺地と決めた土地内で獣の血がまき散らされたり材木に火が放たれたりする事件が多発した。犯人を捕らえるために寝ずの番をしていた彼は、狩りをしている少女を見つけ、代々この土地で暮らしてきた娘であると知る。彼は「狩りをするのは構わないが、二度と寺地に入るな」と約束させ彼女を逃がしてやるが、ある時視察に訪れた聖武天皇の列と、血まみれの彼女が遭遇してしまう。

証言9 藤原仲麻呂

阿部(聖武天皇の娘)の、父親との確執。本当は遺詔などなく、藤原家の出自であることを憎んでいた聖武天皇は、藤原家と縁もゆかりもない道祖王を指名したのだろうと考えている。

 

と、聖武天皇をめぐる短編集の趣。全章にまたがって、海山の物語が語られています。 山たる天皇家を突き崩そうとする藤原家(海)。途中で聖武天皇の目が蒼い=海族、ということが明かされるのですが、海族である自分が天皇であってはいけないという重圧、そして海族として自分を産んだ母への憎しみが物語の底にはあります。

ただ、憎しみとか重圧とかは共感できません。みんな少なからずそういうのはあるし…それが仏教への傾倒や度重なる遷都、圧政の言い訳にはならない気がします。藤原家への思いとか、どれくらいあったんだろう?

ていうか、海と山では子を成せないという設定どこにいった??

 

内容、構成ともにすごく面白い。この時代の記録は多くないので、ほとんど想像の世界なのですが、文字でしか見たことなかった登場人物みんなイキイキしているんですね。何度も「歴史ものが嫌い」と書いている私ですが、これを歴史ものと言っていいかはおいといて、すごく好き!

ただ、身も蓋もないことを言うと、山と海のアレコレを交えずに読みたかったなぁという。天皇家を山、そしてそれを切り崩そうと策略巡らす藤原家が海。そして山が海に突き崩されていく危機感が書かれるのですが、海とか山とかに絡めずそういう陰謀を書いてくれたほうが面白そう。そして、螺旋プロジェクトおなじみのカタツムリ状のお守りも出てくるのですが、別にいいかな。

海山の話を交えると「昔は海族と山族の対立がな…」みたいな語りや、俺が山であいつが海でという設定が登場してきてしまうので、叶うならば、このしがらみにとらわれずに書いたものが読みたかった。まぁ、螺旋プロジェクトをしがらみと表現してしまう時点で、コンプリート癖から読んでみたものの、面白くなくないのでそろそろ疲れてきた感が伝わると思うのですが。澤田瞳子さんの他の作品も読んでみたいです。

 

ということで、螺旋プロジェクトは残り3冊。

おわり。

 

dandelion-67513.hateblo.jp

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