はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

歴史解釈・歴史ミステリーはおなかいっぱい 天野純希「もののふの国」

こんにちは。

 

螺旋プロジェクト、源平~幕末編。天野純希「もののふの国」です。

もののふの国 (単行本)

 

源平、南北朝、戦国、幕末維新の4部に分かれています。

保元の乱本能寺の変鳥羽伏見の戦い西南戦争などの有名な戦。六波羅探題、宋銭…「ああこんなのあったなぁ」という言葉。知識不足が甚だしく、山川出版の小説日本史図録を握りしめながらいろいろ確認して読みました。歴史を学んでいる中高生が読むと良いのでは。

八百年ほどの歴史をまとめているので、扱っている範囲が広すぎて、概略のみですから、誰かに感情移入したり、何か教訓を得たりというのは難しい。全体的に単調で、何度かリタイアしかけました…笑

 

螺旋プロジェクトのメインは海と山の対立ですが、以前書いた通り、日本の中枢を担ってきたのは山族という設定になっています。つまり、源氏~足利氏~徳川家は皆山族。その宿敵たる平教経、楠木正成織田信長豊臣秀吉西郷隆盛らは海族。

史実をもとに、主要人物に海山を割り振る。そして、彼らを導く「長老」と呼ばれる役割の人がいる。片目だけ蒼く、片耳が大きい。この小説においては、自分が死ぬ場面で「この行く末を見たい」と願った人だけがなれる。明智光秀土方歳三など。

 

だったら読むななんだけど、歴史ものは苦手なんです。人それぞれで解釈が違い、現在になっては確かめようもない。ある説を主張する人は、それに反論しうる根拠をするっとスルーするし、史実とされるものにどんどん肉付けしてドラマ仕立てになっていく。二次創作に近いから。で、どこまでが確かなんですか?って思うわけです。

 

思ったところを次々と。

・近代以降の小説が、海と山は「選ばれた人だけ」という設定に対し、海族、山族の末裔は結構たくさんいます。教科書に載っているレベルの人はだいたい海or山なんです。桂小五郎大塩平八郎にも役割が振られていたり。信長と秀吉を海にしたために、明智光秀は無理やり?山族にされています。

・海と山は「どうしようもなく反発してしまうから」出会ってはいけないのに対し、お互い、お家のため、子らに平和な世を残すため、遺恨を晴らすためなどなど、一応信念を持って、それを実現するために戦っています。会ったら必ずぶつかってしまうなら、あの上司と私もきっと山海。あの女と私もたぶん山海。というレベルの話になってくる。

・長老が争いを煽りすぎ。一応、「海族と山族の争いを見守ったり、時々背中を押したりする」役割であり、「歴史という大きな力が対立を求める」「大きくゆらゆら揺れながらも平和に向かう」という建前のもと、海族山族に干渉しているらしいですが、どんだけ出たがりなの!!海族・山族だった人が、望めば長老になれる設定もどうかな?一応海や山は宿命なんだから、ずーーーーっと背負っておいてほしい。

・螺旋プロジェクトでよく出てくる、かたつむり状のお守り。昭和前期の「コイコワレ」では、誰でも作れるわけではないものとしてキーアイテムとされていますが、こちらでは、「病気で暇だったんで」と沖田が手慰みに作れるレベル。え?そうなの??

土方歳三が、五稜郭での籠城案に「籠城は味方の軍勢が来ることを前提にするものだ。味方なんて来ないだろう」と返すところ、ここはいつ読んでもかっこいい(はーと)

 

とはいえ、今まで何とも思っていなかった楠木正成がかっこいいと思えたり、ただのタヌキ親爺だと思っていた家康公の苦しみを知ったり、犬の散歩しているイメージしかない西郷どんが男気にあふれていたり、読みやすい歴史小説って感じ。中高生とかとっかかりに読んでみてもGOOD。ただ、信長、秀吉の朝鮮出兵の動機とか、秀頼は本当は秀吉の子ではない?説とか、西南戦争の動機とか、どれくらい信ぴょう性があるのかは知りませんw

海・山の役割分担も長老の存在も、螺旋プロジェクトに絡めるために無理やり感もあり、説教臭さもあり、個人的には…ちょっと微妙。よく知られている人を出すのは賛否両論というか、みんなそれぞれの頼朝、信長、秀吉像があるわけで、それにちょいちょい異論を提示してくるわけですから、う~ん、え?そうなんですか?という感じです。

 

と、螺旋プロジェクト、ハズレが続いておりますが、気を取り直して「月人壮人(つきひとおとこ)」を読んでみます。

 

おわり。

 

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp