2019年に出会えてよかった本BEST10
こんにちは。
今年の総まとめに、2019年に出会えてよかったなーと感じている本を紹介します。2019年に”出会えて”なので、必ずしも2019年刊行ではありません(というかほとんど違うかも…
最も印象に残った本をもとに、連想ゲームのように紹介していこうかなと思います。
ーーー最も印象に残った本。
これは文句なしの一位。
マザリングサンデーという、メイドが年に一度もらえる休暇の一日を描いたものなんですが、季節感とか自然の描写が生き生きしていていて、こちらまで楽しい気持ちに。しかし、大事故により前半のピクニックムードは一転、ドライに見えた主人公の孤独が垣間見え、雇い主の愛情に心打たれます。90代になった主人公が回想しているという体で描かれるのですが、彼女が得た人生の教訓も味わい深い。
傷ついた主人公が屋根裏部屋で本を読むシーンがあるんだけど、「辛い現実を忘れるために本を読む。それ以外に本を読む理由なんてあるか」みたいな文章があって、これがすごく印象に残った。ということで、
ーーー本の本。
本を読むとは何?
妻を亡くして人との交渉を完全に断った書店主フィクリーが赤ちゃんを育てることになって人と関わる話。何か提案しようとしても「世の中の事全て本に書いてあるし、俺は膨大な本を読んでいるから何もいらん!!!おしまい!はいおしまい!!」とシャットダウンしてきたフィクリーは、子育ての中で様々な人と関わりを持って、本と人との関係は人と人との関係に良く似ていると気付いた。「とりあえず読んでみなさい(=とりあえず関わり合ってみなさい)」そして、「読んでみないと最高の本には出会えない」。本の虫が死を前にしてに気付いたことは、本もいいけど、人と人とのかかわりの中にしか人間の幸せって存在し得ないんだよ、ということだった。そんなお話。
ふたつめは、逆。
ソーネチカという容姿に自信のない女の子は、本が大好き。チョイ悪オヤジと結婚したら、夫に不倫され、娘は自分とは全然違う夜遊び大好き娘に育ってしまう。絶望した彼女は本の世界にのみ生きるようになる。
ソーネチカの生きざまは賛否両論だと思いますが、気付きの多い作品。
「ソーネチカ」を書いた作家さん(女性)は女性に関する観察眼が鋭くて、他の作品を読んでみてもおぉ…と思うことが多々ありました。お次は、
ーーー嫌な女が出てくる本
ソーネチカの作家さんウリツカヤ氏の本。タイトルから期待できるでしょ?
嘘をつけない女が考察する、嘘をつく女の生態、ということで、6人の嘘をつく女が出てきます。異論はありましょうが、女は戦略的に、もしくは呼吸をするように嘘をつく、男は必要に迫られて嘘をつく(それ以外、必要もないのに嘘はつかない)とざっくり分けるとします。社会的にも成功し、こざっぱりとした性格の主人公が、平気でうそをつく女を、「なんで嘘をつくんだろう?」という目線で書いた観察日記。面白い。
だいたい時系列で書かれているんですが、最初は尊敬した女性に「私は貴族の出なの」並みのバカげた嘘をつかれ、それをまるまる信じてしまった主人公が、だんだんと荒唐無稽な女の嘘に慣れ、「これは嘘だろ?」と冷静に判断できるようになるという、主人公の成長が地味に笑えるポイント。寝たきりの生活になった主人公が、最後は嘘に救われるシーンはしみじみします。
田園調布で穏やかに暮らしていた弁護士の妻市子のもとに、女学校時代の同級生の娘さかえが転がり込んできたことで起こるひと騒動。夫はさかえに懐かれて悪い気はしていないし、預かっている娘妙子はますます内にこもるし。
この三人の女の他にも、さかえの母の音子と不倫夫の意地と嫉妬など、女がらみのおもしろいエピソードがたくさんあって、「女の業」のようなものをまざまざと見せつけられる作品。登場人物に共感しつつ、すごーいイライラするんだけど、結末はハッピーエンドだったりしてなお良い。
ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話 (RHブックス・プラス)
マジシャンだった男(ヘンリー)の人生を人に聞いて調べていく中で、死の真相や失った家族について知っていく本。BIG FISHの作者なんだけど、虚実ない交ぜの書き方が面白いし、探偵の人生考察が独特で引き込まれました。
ヘンリーはずっと、妹を探していました。不幸な男が探す生き別れの妹っていうのは色が白くて美人で、時々病弱だったりして、幸薄と相場が決まっているわけですが、全然違う。嫌な女だったっていうオチ。
1人の男の人生を、彼に関わった様々な人が振り返り語るという構成により、いろいろな切り口からの教訓を得られました。お次は、人生の考察がテーマの本。
ーーー老いること
ミスター・セバスチャン~が気に入ってしまってしょうがないっていうのであれば、こちら。老マジシャン&人生の考察でテーマがカブっているし、雰囲気もすごく似ている。人に裏切られてきた老マジシャン(ザバティーニ)が、サンタがまだいるかどうか信じているくらいの少年と出会い、一つの小さな奇跡を起こす話。
ザバティーニが人生の最後に悔やんだことは、「後腐れなく生きてきたこと」でした。人は肉体が滅んだ時に一度死に、誰からも忘れられた時にもう一度死ぬという言葉がありますが、傷つくこと、裏切られることを恐れ人と関わってこなかった自分は、肉体が滅ぶと同時に、二度目の死も迎えるだろう、と。
体が言うことを聞かなくなり、深い思考ができなくなる「老い」。準備できるようなものではないけれど、どう生きるかを常に意識する必要性を感じました。
今更のノーベル賞受賞作品。記事が大作なので、多くを語る気はありませんw
人生の教訓はもちろん良質だけど、最後のどんでん返しにやられたクチです。老いてくると、年表とか履歴書のように「いつ、何が起こった」という正確な出来事よりも、その間にこぼれたもののほうが大きな意味をもってくるんだなぁと感じました。
最後の最後。じーんとくるのはもちろん良いけど、みんなデトックスしたいだろ?ということで。
ーーー泣いた本
「泣ける本」で煽られて買った割には泣けなかったな…ってことが100回くらいあります。「泣ける」という言葉は安売りするもんではありませんね。あくまでも自分目線ですが、今年涙が出たのは2つ。
長編です。子どもに恵まれない夫婦のもとにやってきた小さな赤ちゃん。二人は自分の子と偽りその子を育てますが、その赤ちゃんの母親の苦悩を知り、逡巡します。最後は事件が露見し子どもを返すことになるのですが、
・本当の母親のもとにいきなり連れてこられた幼子の困惑と実の母親の苦しみ
のところと、
・子どもを誘拐してしまった娘の母親の行き場のない怒り
のところに泣きました。そして、男親との熱量の差?もみどころ。
主人公は成功した作家ジャネット。彼女はネグレクト系の被虐待児で、兄弟も親の毒気にあてられて微妙な関係。ホームレスと化した両親を見て、とても複雑な気持ちになります。親の老いへの戸惑いと愛憎が飾りのない文体で書かれたノンフィクション。
家を出ることにしたジャネットをバス停まで送る父のシーンに泣きました。
普段はボロボロで臭いアルコール中毒の父が、自分を見送るためにひげをそり、さっぱりした服に着替えたことに彼女は深く感謝します。父も母も毒親に育てられ、上手に子育てができないことにイライラして子どもに当たり散らしているんですが、でもやっぱり愛している。また読み返したい作品です。
ということで、10作品挙げてみました。皆さんの、読書生活の良き出会いになれば幸いです。今年もあと2日。
来年も良き出会いがありますように!!!!
おわり。