はらぺこあおむしのぼうけん

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「出会ってはいけない」の意味が分かる 海族と山族、出会いの物語 大森兄弟「ウナノハテノガタ」

こんにちは。

 

螺旋プロジェクト、「原始」パートです。大森兄弟「ウナノハテノガタ」。

原始時代の話ということで書き方に特徴があります。難しい言葉や表現を使わない。マナフタ(まぶた)など古い言葉を使っている。あとは、俺、私、などの一人称がないので、自分のことを「オト」とか「ヤキマ」って呼びます。

昭和(前期・後期)、近未来を読んできた身からすると、螺旋プロジェクトの「はじまりの物語」という言葉が相応しい本作品。なぜ、海と山が争うのか、なぜ出会ってはいけないのか、が説明されています。

 

ウナノハテノガタ (単行本)

 

主人公は、海族(イソベリ)のオトガイ。首長とは違うのですが、ハイタイステルベという役職(呪術を行う?)を担っている一家の息子で、イソベリの中では重要な立ち位置です。序盤では父のみがハイタイステルベですが、途中からオトガイもハイタイステルベになります。対して山族はヤマノベと呼ばれている。マダラコという女が生贄として焼かれる場面から始まります。そこで大きな地震が起き、ヤマノベは散り散りになりながらも崖を伝ってイソベリの集落へ降りてくる。

イソベリとヤマノベの中間点にはウェレカセリという仙人がいて、この二つの種族が交わるのを防いでいました。ハイタイステルベは、何か困ったことがあるとウェレカセリに助言を求めに行くのですが、ウェレカセリはしばらくの間おいてやれ、しかし長居は無用、と言います。

 

イソベリとヤマノベの出会い。ヤマノベがイソベリに持ち込んだのは「死の概念」。ヤマノベの火葬を見てしまい衝撃を受けるイソベリ達。イソベリは、死が近づくと近くの島に船を漕ぎだしてイソベリ魚にするという風習がありました。実のところ洞窟に捨ててきているだけなのですが、それはハイタイステルベのみが知っている。オトガイの父は何とか隠し続けますが、ウナクジラ(鯨)が浅瀬に乗り上げて死んだことで、イソベリも死というものを理解し始めます。

そして「武器(弓矢)」もヤマノベによってもたらされました。マダラコは妊娠している上、生贄にもされていましたから今更ヤマノベに戻れず、オトガイの友人ヤキマの家に居候していました。ヤキマもマダラコに影響され、俺も「タビ」に出て崖の上に行ってみたい、などと言い出します。オトガイはヤマノベに深入りするなと注意しますが、こうなっては後の祭り。あるとき、シオダマリに集まる魚や貝の取り分をめぐってイソベリとヤマノベが揉め始めます。マダラコが弓や矢などの武器の作り方をイソベリに教えたことで、対立が激化。ついに人死にがでます。

 

そんな時、ウェレカセリの家から壁画が見つかり、ヤマノベを襲った地震を予言していたことがわかる。そして近く訪れる津波も…津波を避けるため、イソベリは大きな舟で島へ漕ぎだします。

というお話。

 

昭和初期のパート「コイコワレ」を紹介した時に、「紅白戦のように、海チームと山チームの二つに分かれているわけではなく、ほんの一部の人間にだけ受け継がれている」と書いたのですが、原始時代は、たった一人ウェレカセリ氏を除いて全ての人間が海族と山族に所属しているよう。何千年も経過する中で、どんどん血が薄まっていったのだと思います。

螺旋プロジェクト全体のネタバレをしてしまうと、全体的に山族が優勢で、「もののふの国」なんか読んでいると、国の中枢を仕切ってきたのは「山族」ということにされています。野蛮で残酷。海族はいつも押され気味なんですね。今回も「山族」強し。

あとは、ウェレカセリのように、互いが交わらないように配慮をする人間も、全てのシリーズで登場する。彼らの特徴は、片目だけ蒼く、片耳だけとがっている。海と山の特徴を半分ずつ持っているんです。

 

はじまりの物語ということで、しきたりの違う民が交わり、国ができる時に起こることが教科書的に書かれています。「争い」、「死の理解」、「呪術が不完全なものであること」などなど。物語の中では、「ダンマリ」=誰にも話さないこと、が良いことで、「シリタガリ」=目の前でおこることを受け入れずにあれこれ聞きたがること、は悪いこととされています。好奇心の塊で自分なりにいろいろと考えてみようとする「子ども」という存在がキーとなり、イソベリが作ってきた神話的世界が少しずつ暴かれていきます。

 

海に漕ぎ出す舟を見送りながら、オトガイの父は自分だけが集落に残ることを宣言します。島に着いてしまえば、今までみんなをだましていたことが明らかになる。真実を知ったことで噴出する怒りや恨みを自分が一気に引き受けると。そして息子に、ハイタイステルベとしてイソベリを率いてほしいと告げます。

 

村のしきたりにとらわれていた男の子が真実を知り目覚めるところ、友人が未知の世界に興味を持つところ。思想の違うものがまじりあう時そこには争いが起きる。古きものが新しきものに未来を託す。などなど、おもしろかったんだけど、神話的というか、昔話のネタ全部詰めというか、原始の話を書くとしたらこんなところかな。と。複雑な人間模様や心理を描いている作品が好きな私からしたら不完全燃焼感。

「コイコワレ」に続き…「アタリ」に出会えず、ぶっちゃけ伊坂幸太郎パートだけでよかったかな…なんて思い始めている今日この頃ですw

おわり。

 

dandelion-67513.hateblo.jp

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