はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

母の過去を強引に知ろうとした結果出会った切なすぎる真実 「秘密」ケイト・モートン

こんにちは。 先日大絶賛したばかりの「湖畔荘」作者の、ひとつ前の作品です。 「秘密」ケイト・モートン ある夏の日ツリーハウスの上から母が男を殺すのを目撃したローレル。その事件は強盗未遂事件として片づけられ、母は正当防衛を認められたが、ローレル…

生活保護の制度的な課題に深く切り込んだ社会派サスペンス 公開中の映画原作本「護られなかった者たちへ」中山七里

こんにちは。 佐藤健主演で公開されている映画の原作本。 「護られなかった者たちへ」中山七里 生活保護の制度的な問題に深く切り込んだ作品。舞台は3.11から復興中の仙台ということで、あのときの仙台の浮足立った感じがよく出ていると思います。 仙台市内…

湖畔にある廃墟×未解決事件×家族の秘密に惹かれないヤツなんかいない!「湖畔荘」ケイト・モートン

こんにちは。 湖畔にある廃墟×未解決事件×家族の秘密なんていう大好物をフルコースで堪能(しかも上下巻の超大作)できるなんてホクホクしてしまいました。東京創元社から文庫がでたばかりのこちら、寝不足にご用心。 「湖畔荘」ケイト・モートン ミステリが…

「栄辱」を軸に、父と娘、女と男、そして西欧とアフリカの価値観を見事に対比させた作品。「恥辱」J・M・クッツェー

こんにちは。 名前だけは知っていたクッツェー。語呂がいいですよね、クッッッツェェェー!と存分にためて呼んでみたい。「恥辱」J・M・クッツェー。 彼はこの作品でブッカー賞史上初、二度目の受賞を果たします。 我らが主人公、53歳の大学准教授デイヴィッ…

殺人事件をトリガーに、宗教を一から捉え直し定義し直そうと試みた大作「信仰が人を殺すとき」ジョン・クラカワー著

こんにちは。 「信仰が人を殺すとき」ジョン・クラカワー著 信仰が人を殺すとき…と言われても、戦争の大きな原因の一つは宗教だしなぁ…とか考えるといまいちピンとこない邦題。原題は”Unnder the banner of heaven”で、こっちのほうが意味がとおる感じではあ…

「人生は簡単なことよりも正しいことをできるかどうかだ」少年の目から”善”とは何かを見つめた小説 「少年は世界をのみこむ」トレント・ダルトン

こんにちは。 今年の2月に発売された作品。 「少年は世界をのみこむ」トレント・ダルトン ヤングアダルト向けではありますが、いい大人が読むからこそ心にずっしり響いてくる。気が早いけど、本屋大賞や翻訳大賞でいいとこにいくんではないかと思っている次…

世界や人と繋がりたいからこそ、人は本を読むのかもしれない 「プリズン・ブック・クラブ ーコリンズ・ベイ刑務所読書会の一年」アン・ウォームズリー  

こんにちは。 「プリズン・ブック・クラブ ーコリンズ・ベイ刑務所読書会の一年」アン・ウォームズリー 刑務所で行われた読書会を通じた受刑者の変化を追ったノンフィクション。 刑務所での読書会を主催するボランティアをしている友人キャロルに、読書会を…

父の不倫により崩壊してしまった家族を、妻・夫・子どもそれぞれの視点から描く物語。 「靴ひも」ドメニコ・スタルノーネ(新潮クレストブックス)

こんにちは。 「靴ひも」ドメニコ・スタルノーネ(新潮クレストブックス) どっちが先なのかわからないけど、「パラサイト」を思わせる表紙の構図なので勝手に韓国小説だと思っていましたが、これはイタリア小説です。笑 父の不倫により崩壊してしまった家族…

良き結婚とは、点で見ると不幸せな出来事ばかりであっても、線で見るとは幸せなものかもしれない。「コレラ時代の愛」G・ガルシア=マルケス

こんにちは。 「コレラ時代の愛」G・ガルシア=マルケス 人生で初めて、1年以上かかって読み終えた本です。すっげえ面白いってわけではないけど、決してつまらなくはない、いい意味で超単調な話。数ヶ月ぶりにページをめくっても、すっと馴染んでいけます。…

後知恵はもっとも明敏な助言者。Why?よりもHow?から人生を始めよ。「静かなる天使の叫び」R.J.エロリー

こんにちは。 「静かなる天使の叫び」R.J.エロリー 小説を読んでいると、「なんで主人公はこんなにメソメソしているんだろう」と感じる瞬間が多々あります。自分の身に起こった不幸を思い悩むのは構わないんだけど、他人の悲しみを自分のものと混同し、ウジ…

本当の正義とは何かを、妥協することなく追究した重厚なミステリ「流れは、いつか海へと」ウォルター・モズリイ

こんにちは。 「流れは、いつか海へと」ウォルター・モズリイ このミス2020、海外部門13位! 昼に再放送されている刑事ドラマに出てくる刑事たちは、犯人を追うときですらシートベルトをするし、もちろん拳銃ぶっ放したりなどしない。人生を奪われた者の復讐…

「‘’愛”なしで生きること」を自らに課し続けた女の一生 「オルガ」ベルンハルト・シュリンク  

こんにちは。 「オルガ」ベルンハルト・シュリンク 「朗読者」の著者ベルンハルト・シュリンクの作品です。朗読者に出てきた女のように、普通の幸せを手にできない強い女が主人公。 舞台は19世紀末。幼い頃に両親を亡くし、ドイツの祖母の家で暮らしたオルガ…

穏やかに見えるけど、怪しい人間がうろつく「狂気の森」で起きる失踪事件が暴く人の闇。「娘を吞んだ道」スティーナ・ジャクソン

こんにちは。 最近は海外ミステリにどっぷり浸かり、面白そうな本を探しては読みあさっています。ある事件を通して、社会の構造的な問題や、人間の底を垣間見るような作品が好き。海外ミステリはファンが多い分、ガイドブックなんかも充実しているのが嬉しい…

祝!本屋大賞翻訳小説部門2位!「神さまの貨物」ジャン=クロード・グランベール

こんにちは。 本屋大賞が発表されました! 本屋だからこそできる本との出会いに価値を見い出し、本屋を盛り上げようというこの企画自体は大賛成ですが、国内作品については、販売開始してから其処此処で話題になっているような人気作ばかりこぞってチョイス…

ミニマリズムVS子ども。丁寧な暮らしを喧伝している人に、本当に心の豊かな人ってどれくらいいるんだろう。「冷たい家」JP・ディレイニー

こんにちは。 「冷たい家」JP・ディレイニー。ハヤカワ・ミステリ。 完全無比の家…ここに住む女はなぜか、皆不幸に見舞われている…という、まさに映画化されるために作られたようなストーリー!邦訳の出た2017年の時点では「映画化決定!!」とされていまし…

「記憶」の儚さに苦しめられる6人の主人公を描いた傑作短編集 アンソニー・ドーア「メモリー・ウォール」(新潮クレスト)

こんにちは。 「メモリー・ウォール」アンソニー・ドーア(新潮クレスト) 「記憶」にまつわる6つの物語。久々に、「これは…!」と思わせる作品でした。(2010年の作品集だけど)「新しい才能をまた発掘してしまった…!!」とホクホクしてしまうほど素晴らし…

母親の恨み言、聞いているうちに涙が出てくるのは何故だろう… 「娘について」キム・ヘジン

こんにちは。 初めての韓国小説、「娘について」キム・ヘジン。亜紀書房「となりの国のものがたり」シリーズで、現在7作品出ているうちの一つ。タイトルからわかるとおり、母と娘のすれ違いを描いた作品ではあるのですが、性的少数者をテーマにしていたり(…

春になる前に読んでしまいたい心に冷たい風が吹きすさぶミステリ3選

こんにちは。 通勤のお供として重宝しているミステリ作品ですが、最近は引きが悪く、可能であれば避けて通る「残虐」ジャンルが続いてしまいました。しばらくは安心安全のアガサクリスティに逃避しようか悩んでいます。笑 桜も咲きはじめましたが、春になる…

鼻つまみ者刑事が直感をもとに謎に切り込む正統派ミステリー。今後のシリーズ展開にも期待「ストーンサークルの殺人」ハヤカワ・ミステリ文庫

こんにちは。 英国推理作家協会賞最優秀長篇賞 ゴールド・タガー受賞作。このミスでも高評価、続編の邦訳も決まっている絶好調のこちら。 ハヤカワ・ミステリ文庫「ストーンサークルの殺人」です。 タイトルはベタ過ぎますね。西村京太郎の「熱海・湯河原殺…

全く異質な2つの話を切り口に、日本人の死生観・信仰・国民性に深く切り込んだ超力作。「津波の霊たち」リチャード・ロイド・パリ

こんにちは。 2020年1月に文庫化されたばかりの「津波の霊たち」リチャード・ロイド・パリ 3.11の後に至る所で報告された「心霊現象」と、訴訟問題にもなった「大川小の悲劇」の二本柱で、全く異質なこの話を切り口に、日本人の死生観・信仰・国民性に深く切…

なぜ人間は、未踏の地に惹かれるのか ジェフリー・アーチャー「遙かなる未踏峰」

こんにちは。 ジェフリー・アーチャー「遙かなる未踏峰」 主人公は、「そこに山があるから」で有名なジョージ・マロリー。彼の人生に”着想を得て書かれた”作品とのこと。確かに、話が出来過ぎている上に、きれいにまとめられている感半端ないため、おそらく…

自分の「心」の在処は他人を介さないとわからないのかもしれない カズオ・イシグロ最新作「クララとお日さま」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「クララとお日さま」 ノーベル賞受賞後初の長編です!! 長らく楽しみにしていたこともあって、一日で読み切ってしまいました。 早く次の長編が読みたい。笑 主人公はAF(人工フレンド=Artificial Friend?)のクララ。AFは…

生きづらい女の切ない物語に、おばあの優しさが光を灯す 新潮クレスト「サブリナとコリーナ」

こんにちは。 カリ・ファハルド=アインスタイン「サブリナとコリーナ」 久々の新潮クレストブックスです。 ミステリにどっぷり浸かっていた数ヶ月の間に、また良い作品がいろいろ出てきたみたいで嬉しい。 ヒスパニック系コミュニティに生きる女達を描いた…

人生には、背を向けて立ち去るべき時がいくつかある。その時を見誤るとどうなるか「解錠師」スティーヴ・ハミルトン

こんにちは。 エドガー賞受賞作。 「解錠師」スティーヴ・ハミルトン ある事件がきっかけで話すことができなくなった少年マイクルが、刑務所で半生を振り返る。金庫破りになるまで、ある少女との出会い、そして今まで無効にしてきた数々の鍵たち。 ミステリ…

ゴシックミステリにおあつらえ向きな舞台装置を十分に生かせなかった残念賞「ホテル・ネヴァーシンク」

こんにちは。 アダム・オフォロン・プライス「ホテル・ネヴァーシンク」 アメリカ探偵クラブ賞 最優秀ペーパーバック賞受賞作。 昨年12月に発売されたばかりのこちら。年始に「2021年に読む本リスト」を作ったときの大本命。古いホテル×失踪事件×家族の秘密……

赦すことで得られる癒しの記憶を積み重ねること 「アーミッシュの赦し:なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか」

こんにちは。 久々のノンフィクション。 「アーミッシュの赦し:なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか」です。 ノンフィクションながら、胸に染みわたる作品。じっくり時間をかけて読みたい反面、ページをめくる手が止まらず、2~3時間で読み終わって…

ジョン・ハート「川は静かに流れ」

こんにちは。 「ラスト・チャイルド」の作者ジョン・ハート、こちらも高評価な「川は静かに流れ」です。玄関のポーチから川が見渡せる、という語りから始まるこの小説、舞台が良い。大きな川を擁する町って、それだけで絵になります。 Netflixで人気作品の「…

登場人物、誰の人生を取り出して眺めてみても、絶望と怒りがほとばしるトラウマ級小説 カリン・スローター「グッド・ドーター」

こんにちは。 カリン・スローター「グッド・ドーター」 オビのあおり文句に偽りなしの衝撃度です。 本屋さんに平積みされているので、とりあえず上巻だけ買ってみましたが、翌日には下巻を買いに本屋に走るという有様。笑 ファンが多いというのも頷ける完成…

大切な人の過ちを、どこまで裁けるか ジョン・ハート「ラスト・チャイルド」

こんにちは。 海外ミステリ分野で高い評価を受けているということで期待して読んでみました、 ジョン・ハート「ラスト・チャイルド」 私は初めましてだったのですが、解説を読んでみると「日本でもまぁよく売れて…」なんていうことだったので、実はミステリ…

〝引き裂かれた〟の意味を味わいながら読む重量級ノンフィクション 「引き裂かれた大地」スコット・アンダーソン

こんにちは。 スコット・アンダーソン著「引き裂かれた大地ー中東に生きる六人の物語ー」です。 ドキュメンタリー調のノンフィクションで、「引き裂かれた大地」に翻弄される6人の人生を克明に記録した作品。洋書を読むときと同じくらい、辞書やネットにかじ…