はらぺこあおむしのぼうけん

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生活保護の制度的な課題に深く切り込んだ社会派サスペンス 公開中の映画原作本「護られなかった者たちへ」中山七里

こんにちは。

 

佐藤健主演で公開されている映画の原作本。

「護られなかった者たちへ」中山七里

護られなかった者たちへ

 

生活保護の制度的な問題に深く切り込んだ作品。舞台は3.11から復興中の仙台ということで、あのときの仙台の浮足立った感じがよく出ていると思います。

仙台市内で、手足を縛られ餓死させられた死体が見つかるという連続殺人事件が発生。体を縛り上げ、人の来ない建物に放置するという残忍な犯行方法には強い恨みを感じるものの、関係者の誰に聞き取りをしても、被害者はそろって善良な人間で強い恨みを買うようなことは思いつかないと言います。

怨恨、金目当て、ゆきずり…殺人事件は大きくこの3つに大別されるけれど、そのいずれにも当てはまらないという奇妙な殺人事件。捜査は難航しますがが、2人の被害者には、塩釜の社会福祉事務所で一緒に働いていたという共通点が発覚します。

職員の仕事に同行するうちに、社会福祉事務所の職員が携わるケースワーカーとしての仕事には、受給者や申請者から逆恨みを受ける可能性が大いにあると感じた刑事苫篠と蓮田は、過去の申請を洗い出すことにします。

 

捜査の過程で苫篠たちは、生活保護制度の抱える問題に気づきます。

例えばあるシングルマザーは、パートの賃金が保護費を上回っているから、保護を止められたくなければ賃金を減らせとケースワーカーに指摘されます。自立を促す制度なのに働くなっていうのもおかしな話だけど、パートして子どもを塾通いさせるのはNGなんだという。

「子どもを塾に通わせるのが贅沢なんですか」という彼女の言葉に胸が締め付けられます。学がなければ貧しくなる。貧しい者は貧しい同士で子どもを作り、その子どももまともな教育を受けられずに貧しくなる…自分の代でその連鎖を断ち切りたいという彼女の願いに、いちど社会のレールから外れた人へのチャンスの少なさを感じます。

さらに、申請時には資産がないことを示すという悪魔の証明をさせられるということとか、行方をくらました親族を自分で探して扶養できないことを証明させるとかいう鬼対応が横行していることも発覚します。申請窓口で、何十歳も年下の若者に「おじいちゃんさぁ、働いてよ?選ばなければ仕事あるでしょ??」と説教される苦しみ…

申請が通らなかった人が予想以上に多く途方に暮れる苫篠たちに、「職員とトラブルになる人はいますが、申請に来る時点で皆、殺人できるほどの元気はなくなっていると思いますよ」と声をかける職員の言葉、胸が痛い…

 

この不景気の折、さらに3.11の後遺症も相まって保護を必要としている人は増えているのに、生活保護に割ける税金は減らせというお達しが出ている。とにかく生活保護申請を通さないという”水際作戦”なるものをしているらしいということが発覚します。

以前芸人のお母さんが保護費を受給していたということがあってバッシングされたように、生活保護に対する世間の目は厳しくなっていて、超好景気になって子どももバンバン生まれないとどうにもならんという財政難。水際作戦の遂行を求められ、申請の矢面に立っているのは社会福祉事務所の職員です。意に沿わなくても一定数の申請をはねつけなければならない彼らにも言い分はあるのでしょう。

殴られたほうは殴られたことを忘れない。殴ったほうは痛みもすぐ忘れ、拳を振るううちにその痛みも感じなくなる…

被害者ももとは善良な人間だったのでしょうが、水際作戦作戦に携わることで善良な人間すらも変えられていくという”倦み”を感じた苫篠たちでした。

 

受給者に対する非難の声は、3.11の復興期の市民の声とも重なります。義援金の使い道に対して「ずるい」「おかしい」「不公平」などという声が、市街部の比較的被害が少なかった地域から、沿岸部の被害甚大な地区、または福島からの移住者に対して上がっていた記憶があります。

どこまでが”仕方ない”のか。皆我慢しているから?もっとひどい人がいるから?家でも家族でも、何かを失った人間は皆苦しんでいるのに、あの時も苦しみや窮状に序列をつける人たちがいたような気がする…そんな中で、声の小さき者は余計に口を閉ざし、声の大きいものは悪びれもせず権利を行使する

 

護られなかった人たちの苦しみを描いた作品ですが、とにかく全編を通じてやるせなさでいっぱいになります。病気や事故などをきっかけに公的扶助が必要になる可能性はどこにでもあるわけですが、同じ国の中でこんなレベルの貧困が見過ごされているの怖い…というのが正直な感想。

 

あとは…(以下ネタバレ含みます)

中山七里はどんでん返しの帝王と呼ばれてはいるけど、今回はどうかな…

怪しいやつ一人を登場させて怪しい動きをさせ、最後にとってつけたように真相を明かすっていうのはどんでん返しとは言わないような気がする。ここまで犯人らしき人ごり押ししている以上、こいつが犯人ではないのだろうなぁ思いながら、でも他に誰も怪しいやつ出てこないし…としょうがないから先入観なしのまっさらな気持ちで読み進めようと努力するも、真犯人明かされて、こいつ誰だったっけ?っていうレベルの存在感。笑

あと被害者の2人目が市議なんだけど、市議を殺せた理由、3人目のターゲットを誘拐できた理由も大変曖昧。一人目はわかるけど、二人目以降はそう易々と誘拐できるものかね?

 

以上、ネタバレおわり。

 

とはいうものの、面白くて一気読み(本当に一晩で読み終えてしまった…)必至です。映画は少し内容変わっているようなので、それも楽しみ。早めに見に行こうと思っている次第。

さいご、「部屋を見るとそいつの煩悩がわかる」って言葉が出てくきてぐさりとしました。部屋を見渡してみると煩悩だらけなので大掃除します。笑

映画『護られなかった者たちへ』公式サイト (shochiku.co.jp)

 

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