はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「不幸な兄が人生を懸けて追い続けた妹」が、絵に描いたようなヒロインじゃなかった時… ダニエル・ウォレス「ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話」

こんにちは。 「ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話」です。あのビッグフィッシュの作者が書いた作品。そして「トリック(DER TRICK)」風味の表紙につられて読んでみました。 ある手紙からはじまるこの小説。「”彼”の最期を調べることにした…

混沌の時代の中で生きる人たちの小さな小さな物語 アリソン・マクラウド「すべての愛しい幽霊たち」

こんにちは。 ちょっと不思議な短編集です。アリソン・マクラウド「すべての愛しい幽霊たち」 作品紹介をちらっと見て「老女の、家にいる幽霊たちへの優しいまなざし」というような文章を発見し(たような気が)ました。お!これは!老い先短い老女が、古い…

撃たれる覚悟もないのに撃ってる奴 キラ・ヤマト。漫画「ガンダムSEED Destiny THE EDGE」後半戦

こんにちは。 前半戦に続いて、アスラン以外の人の尊厳も回復していこうと思います。キラの陰でひっそりと泣いていた人の誤解も解いてあげたい。 dandelion-67513.hateblo.jp 最初からシャアと同じ声のためにラスボス視されていたデュランダル議長です。彼は…

よみがえれ!アスランとアスランの尊厳!! 漫画「ガンダムSEED Destiny THE EDGE」前半戦

こんにちは。 今更(十年以上前のアニメ?)のガンダムSEED Destinyです。 アスラン視点で描かれたもう一つのSEED Destiny。アスランの行動が不可解過ぎて、「キラのケツおっかけて全部失ったいっちばん可哀想な人」認定していましたが、おそらくアスラン推…

聖武天皇の人柄をめぐる短編集。天平ロマンの香りを添えて 澤田瞳子「月人壮士」

こんにちは。 螺旋プロジェクト天平ロマン編。澤田瞳子「月人壮士」です。これは面白かった! 聖武天皇崩御の際に遺された、皇太子を指名した「遺詔」をめぐる物語。本を開いてすぐ、天皇家・藤原家略系図が掲載されているので、そこに書き込んでいきましょ…

歴史解釈・歴史ミステリーはおなかいっぱい 天野純希「もののふの国」

こんにちは。 螺旋プロジェクト、源平~幕末編。天野純希「もののふの国」です。 源平、南北朝、戦国、幕末維新の4部に分かれています。 保元の乱、本能寺の変、鳥羽伏見の戦い、西南戦争などの有名な戦。六波羅探題、宋銭…「ああこんなのあったなぁ」という…

「強い女」という言葉の嫌な響き 映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」を予習する③~「ヴィヨンの妻」~

こんにちは。 いよいよ映画公開が明日となりました。最後は、妻の津島美知子です。彼女は晩年、「回想の太宰治」という回想録を出版しています。ただこれは、太宰治との暮らしを綴ったもので、晩年の女性関係には触れられていませんから、太宰晩年の作品を読…

蔓草のような女の弱さは、女の一番強い力 映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」を予習する② ~「斜陽」と「斜陽日記」~

こんにちは。 映画公開が迫ってきました。今日は二人目、太田静子です。彼女は、「斜陽」の元ネタとなった日記を太宰治に提供した女性。太宰治の子「治子」を産み育てました。太宰治の死後、「斜陽日記」という手記を出版しています。 斜陽日記 (朝日文庫) …

「出会ってはいけない」の意味が分かる 海族と山族、出会いの物語 大森兄弟「ウナノハテノガタ」

こんにちは。 螺旋プロジェクト、「原始」パートです。大森兄弟「ウナノハテノガタ」。 原始時代の話ということで書き方に特徴があります。難しい言葉や表現を使わない。マナフタ(まぶた)など古い言葉を使っている。あとは、俺、私、などの一人称がないの…

憎しみを持つのは結構。しかし憎しみを争いの理由にしてはいけない。 乾ルカ「コイコワレ」

こんにちは。 8人の作家が、日本開闢以来の海族・山族の対立を描く壮大なプロジェクト「螺旋プロジェクト」2作目(私の中で)です。3月くらいから始まった気がするので、おそらく全部出そろっているかな? 読書においても偏食家というか食わず嫌いが激しい私…

嘘の後ろ側に見える悲哀と救い 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」後半戦

こんにちは。 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」。引き続き後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は、器用な女の嘘を見てきました。まるで呼吸をするようにホラ語りをする女。嘘がばれても、「ああ、ばれちゃったの」で済ませられるような図太さをも…

嘘をつけない女が見た、嘘にまみれた女たち 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」前半戦

こんにちは。 「陽気なお葬式」、「ソーネチカ」に続き、心をとらえて離さなかったウリツカヤ作品3作目。新潮クレスト「女が嘘をつくとき」です。もともと、「陽気なお葬式」で垣間見た彼女の女性を評価する目が忘れられず、他の作品も読んでみた次第。 ロシ…