はらぺこあおむしのぼうけん

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よみがえれ!アスランとアスランの尊厳!! 漫画「ガンダムSEED Destiny THE EDGE」前半戦

こんにちは。

 

今更(十年以上前のアニメ?)のガンダムSEED Destinyです。

アスラン視点で描かれたもう一つのSEED Destinyアスランの行動が不可解過ぎて、「キラのケツおっかけて全部失ったいっちばん可哀想な人」認定していましたが、おそらくアスラン推しの作者のおかげでよみがえったアスラン!とアスランの尊厳!!kindleで読めます。

 

ガンダムSEEDをご存じない方は、wikiを読んでみてくださいw

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY THE EDGE(1) (角川コミックス・エース)

ざざざっと背景。

時はC.E.(コズミックイラ)、遺伝子操作を行い人間のもつ力を高めたコーディネイターと、遺伝子操作を行っていないナチュラルは長きにわたって対立しています。コーディネイターは宇宙に新天地を求め、コロニー(居住区)を多数作り、プラントという国家を名乗って生活しているのですが、ナチュラルはコーディネイターに、プラントでは食物を作ってはいけない(地球から輸入せよ)とか、関税がどうたらとかいろいろ因縁をつけ、隷属を求めている。やってられん!と独立を宣言したプラントと地球軍の間に戦争が勃発。数で勝る地球軍の圧勝かと思いきや、高い技術力を持つザフト軍(コーディネイターで構成される義勇軍)に圧され、戦局は泥沼化しています。

 

SEEDは、のっぴきらない事情によりコーディネイターながら地球軍のパイロットになってしまうキラ・ヤマトという少年と、ザフト軍のパイロットである幼馴染のアスラン・ザラが殺しあうことになる悲劇。そして、戦争の愚かさに気付いた二人が、他の仲間と協力して戦争を終わらせようと奮闘するという話です。

キラ達の活躍により、戦争は「両軍の戦線維持が困難」ということで一旦停戦となりましたが、2年後に再度戦争勃発です。早ぇよ!

 

SEEDの基本スタンスは、

「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後は本当に平和になるのか!」

「想いだけでも、力だけでもダメなんだ!」

です。つまり、撃たれた憎しみで剣をとって破壊をしては、自分が新たな憎しみの創造者になり、戦火がいたずらに拡大されていくわけです。だから、そんな憎しみの輪廻は止めるべきです。でも、間違いを正そうと思っても力がないと何もできないから、正義のためならめっちゃ強い力を持っていいと思う。

と、プラントの歌姫ラクス様(アスランの元婚約者。戦争のごたごたの中でキラとデキちゃいました)がそれっぽく主張するから騙されがちですが、言っていることが支離滅裂なんです。プラントも地球も自らの正義のために戦っているわけですよ。でも、「プラントと地球の正義はちょっと肯定できないから、私たちの正義を主張しますね。でもただの民間人だときっと話聞いてくれないから、自分のシンパが軍から横流ししてくれた最新鋭の兵器で、ザフト軍地球軍関係なくどんどん戦闘能力奪っていくから。いいから話聞けよ!」と平然とテロ行為をやってのけるんですね。

ほら、だから2年もしないうちに戦争勃発しちゃったじゃないか。お前たちのやったことは、火種から火薬庫を1メートル遠ざけっていうレベルの話なんだよ!

 

続編であるDistinyは、

中立国オーブに亡命してカガリ先の大戦の英雄。オーブ代表であり、恋人でもある)のかばん持ちをしていたアスランが、自分の力を使って戦争を止める役に立てないかとザフトに復隊する話。アスランは元トップガンでありながら、戦後はただのヒモ的ポジションであるということに焦りを感じていましたから、復隊は当然の流れの感。軍人としてはめちゃめちゃできる奴ですが、とにかく心が弱い。

もとは、前大戦の時オーブで家族を失ったシン・アスカって少年が主人公でした。力を得たことで暴走しがちなシンと、自分の経験をもとにシンを粘り強く諫めていくアスランが軸になる話。と思いきや、中盤キラが戦場に登場し、前述の理論を振り回す。こじつけも大概にしろ!お前頭おかしいだろ!となるんですが、なんとアスランがキラのところに脱走していくんですね。心を開きかけていたアスランに裏切られたと感じたシンも全然成長せず、最後は悪者になってしまいます。

アスランもシンも不憫で不憫で…どうしてこんなストーリーになった?プラモ売れなかったんか?スポンサーの圧力?と勘繰ってしまうくらいアニメはひっっどい終わり方でした。中学生だった私はひどくショックを受け、アニメの記憶を封印しましたw

 

アスラン視点でSEED Destinyの世界を描いた本作品により、ひっどい展開のアニメ版SEED Destinyの記憶が上書きされ、下記のトラウマから救われたわけです。

 

トラウマポイント1。アスランがひどく簡単にキラ以外の人間を裏切るところ。

先の大戦では何度銃殺になっても足りないほどの軍法違反を犯したアスランに、「事情はあるが、俺が何とかしてやる」と復隊を薦めてくれたアカデミーから同期のイザークや、復隊後もずっと複雑な気持ちを抱えるアスランに寄り添おうとしてくれるハイネ、シン、ルナマリアら同僚、艦長…。そんな仲間たちの声もむなしく、アスランはキラの事しか考えてない。キラはアスランのことを道具としか思っていませんから、友だちらしいことなーんもしてくれないけど、アスランのために命はってくれてる仲間もいるのに、アスランには響かないんですね。お前は…!

漫画では、アスランからシンへの思いが独白という形でまとまって書かれているから納得感はある。ただ、イザーク達への謝罪とかはないから腹立つけど。また、キラのもとに赴く動機も明らかにされていますから良し。あと、アニメほど「キラキラキラ」って言っていないので「あ、良かった…」と安心するわけです。

 

トラウマポイント2。軍を舐めるな。国家を舐めるな。

平和主義のアスランは、戦うことの意味に常に疑問を持っています。敵軍を打ち破って喜んでいるシンに「そんなにおもしろいか~。敵軍にも家族が~」と水差すようなこと平気で言うんです。アスラン的には、人の心をなくすと云々、憎しみの連鎖は…みたいな前大戦の教訓があるんでしょうが、正直軍籍の人間が戦う理由なんて人それぞれ。何でもいいわけです。命令にさえ従っていれば。

ただ、アスランはシンに「戦うだけのマシンになったらだめだ!」とか「議長はお前のこと戦うだけの人間としか思ってないぞ」と、「俺たちのは個性を持った一人の人間だ!考えて行動しろ」という主張をするんですが、上層部にとって兵士は、命令通りに働いてもらわないといけないもの、というか個性とか思想とか持ち出されると困る存在です。軍っていうのはそういうもんなんだよ!それはよそでやってくれ!自分の正義を通したいなら議長になれ、士気を下げるようなことを言うなら除隊しろ、もしくはキラとテロ行為でもやってろや!ってなるんです。さすが、二度も脱走する人間は、いろいろ舐めくさってやがる。

さて、そんなアスランの彼女カガリも国家を舐めくさっています。彼女はオーブを中立に保ちたかったのですが、長老陣が地球軍と同盟を結んでしまいます。長老陣が同盟を結んだことによって高い理念を持っていたオーブ軍の一部は反発するんですが、それを諫めることもない。ついに「国はお前のおもちゃじゃない!いい加減、感情でものをいうのはやめなさい」って怒られるわけです。もちろん長老陣にも思惑はありますが、二心あったわけではなく、自分たちなりに国民を守るためにした決断です。

軍人として命令に従って行動したシンはテロリスト(アスラン)に機体を撃破され、至極まっとうなことを言った長老陣はいろいろな混乱の中で(製作者サイドに)消されます。極めつけにカガリは、自分の権限でテロリスト・キラ達をオーブ軍に正式に登録するんです。正義はどこに?

漫画では、このイライラポイントがほぼほぼカットされています。もういいよ、ここは黒歴史として封印しよう。

ただ、シンは先の大戦で、オーブが中立を押し通そうとしたせいで地球軍からの攻撃を受けた際に家族を殺されます。信念とやらに国民が殉じることを強いたことへの反省くらいは生かしてほしかった。

 

アニメがトラウマというより、中学生の自分ですら違和感を覚える理屈が、正論としてまかり通るところにショックを受けたわけです。中学生の自分からしたら、曲がりなりにも多数の大人が作っているアニメですから、この考えを受け入れられない自分ってすごくダメな人間なのではないかと、多感なあの頃の自分は思ってしまったわけです。今なら「ゴミwww」と一笑に付すことができますが。SEEDのときそれなりにかっこよかった主人公たちが一斉に直情的な老害になっていたこともトラウマの一つ。

十何年も経って、やっとあの時の思いに一つの答えが出せたのです。

 

おそらく、アニメの補完…という意味もあるよね?あの頃独断専行していたアニメをフォローする役割も果たしているのではないでしょうか。

と、1記事にまとめようと思ったら長くなってしまったので、女難の相アスラン恋愛模様アスラン争奪戦の行方は…?)と特大のトラウマポイントは後半戦に続く。

 

おわり。