はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

幸せは一種の健忘症。期待と絶望は健全な精神の証拠 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」

こんにちは。 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」です。 内戦中の架空の都市の首都。主人公はノーマというラジオパーソナリティの女性です。彼女は日曜日の夜に、視聴者からリクエストがあった行方不明者を探すレギュラー番組を持っていました。ある…

「あのときこうしていれば…」を実現してくれる不思議な帽子 新潮クレスト「ミッテランの帽子」

こんにちは。 新潮クレスト「ミッテランの帽子」 ミッテランの帽子が持ち主を変え、次々と持ち主を少しずつ幸せにしていくというお話。かなり使い古されたモチーフではあるのですが、なかなか面白い。 最初の所有者は冴えない会計士ダニエル。彼は政治力・発…

ブラウスについたバタースコッチソースのような不快感 早川epi文庫「オリーブ・キタリッジの生活」

こんにちは。 週に1度くらい訪れる夜の静寂。そんなときには夜中3時くらいまで読書を楽しみます。夜中の読書は本のチョイスが大事。2、3時間で読み切れる、そして、明日からの生活にすこーし明るい光を差してくれる作品。ご都合展開は嫌だけど、人生捨てたも…

精神生活は憎悪と嫉妬に根を下ろしている? ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」

こんにちは。 ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」です。チャタレイ裁判、高校で習いました?私は女子校育ちなんですが、女子高生なんて性への好奇心の塊ですから、「きわどい描写があるらしいよ!」と同じようなムラムラの塊と連れ立って本屋に行きました。「…

くさいものに蓋はやめましょう 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦(自分を騙したツケ)

こんにちは。 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は男と女の嘘。浮気の嘘、相手を喜ばすための出まかせ、という比較的ライトで誰にでも経験のある嘘を取り上げました。今回は、自分への嘘。これはかなり重い。そして、見な…

先生!キスは浮気にはいりますか? 新潮クレスト「夏の嘘」前半戦(男と女の嘘物語)

こんにちは。 今日ご紹介するのは、新潮クレスト「夏の嘘」。 「朗読者」(映画の邦題は「君に読む物語」)の作者による短編小説です。「夏の嘘」というだけあって、「嘘」がテーマ。男と女の嘘。そして自分への嘘。嘘と思い込みが生み出した不幸など、数々…

怯んではならぬ憎んではならぬ悔やんではならぬ 詩「手から、手へ」

こんにちは。 今日紹介するのは詩集「手から、手へ」 贈り物でいただいたものなのですが、これ毎回泣きそうになります。言葉のセンスが素晴らしい。 詩の紹介って難しくて、あんまり引用しているともはや転載になってしまうので、どう紹介してよいのかわから…

一度、世の中全ての出来事が無意味だという前提に立ってみる 河出書房「リンカーンとさまよえる霊魂たち」

こんにちは。 全米ベストセラー・ブッカー賞受賞の超話題作!とのことで、遅まきながら読んでみました。「リンカーンとさまよえる霊魂たち」 息子ウィリーを亡くし悲嘆にくれる大統領リンカーン。彼は息子に会うために夜の墓地を訪れていました。そこには、…

自分の選び得なかった人生も一緒に抱えて生きている 新潮クレスト「マザリング・サンデー」

こんにちは。 かなり感動した本です。可能なら6月のうちに読んでほしい。これはある少女の半日を書いた本なのですが、その日は3月なのに6月のような気候だったと何度も書かれるからです。明るい日がさすスタバ的なカフェで一気に読みましょう。 私は、すごく…

女は女であるのではなく女になるのだ 川端康成「女であること」

こんにちは。 川端康成「女であること」です。タイトルからすでに、女の生々しい欲望とどろどろした感情がバチバチぶつかりそうですね。期待を込めて即決し、お金と本を握りしめてレジに向かいます。 舞台は田園調布。主人公は市子という主婦。夫の佐山は弁…

なんか世の中嫌な奴ばっかりだな 村上柴田翻訳堂「呪われた腕ーハーディ傑作選」

こんにちは。 村上柴田翻訳堂のラインナップ、「呪われた腕ーハーディ傑作選」です。帯に、「これを読むと小説が書きたくなる」とか書いてあります。読んでみると、この構成の美しさ、無駄のない言葉に素晴らしい…となる。創作されている方々は、俺もこうい…

もうすぐ怪談の夏が来ますよ!! 父デュマ「千霊一霊物語」

こんにちは。 5月14日に発売されたばかりのこちら「三銃士」、「巌窟王」で有名なアレクサンドル・デュマの「千霊一霊物語」です。 私、光文社古典新訳文庫はかなり気に入っています。装丁以外。なんか全体的に似てしまうので、書影が公開された時の、コレコ…

運命を知って生きるか知らずに生きるか。持てる者は持たざる者の幸せを定義できない カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

こんにちは。 遅きに失した感はありますが、ノーベル賞受賞者カズオ・イシグロ氏の「わたしを離さないで」を読みました。いろいろな背景が明らかにされる後半30ページ、圧巻。正直読みはじめは、ノーベル賞受賞者の作品だからみたいな思いはあって、普通のSF…

終わりのない苦しみ、行き場のない怒り…読まなきゃよかった 新潮クレスト「波」

こんにちは。 今日ご紹介するのは、新潮クレストブックス「波」です。 第一声、「読まなきゃよかった…」です。これはつまんねぇというわけでも、煽り文句でもなく、本当に素直な感想。これは2004年に起きたスマトラ地震による津波で、両親と夫と二人の息子を…