はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

カズオ・イシグロ

自分の「心」の在処は他人を介さないとわからないのかもしれない カズオ・イシグロ最新作「クララとお日さま」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「クララとお日さま」 ノーベル賞受賞後初の長編です!! 長らく楽しみにしていたこともあって、一日で読み切ってしまいました。 早く次の長編が読みたい。笑 主人公はAF(人工フレンド=Artificial Friend?)のクララ。AFは…

濃密な白い闇の中に引きずり込まれたような不快感と疲労感がクセになる カズオ・イシグロ「充たされざる者」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「充たされざる者」 「遠い山なみの光」、「浮世の作家」で名を上げた彼が、「ブッカー賞」という周囲の期待からも自由になってやっと書いたのがこの作品。文庫本ながら厚さは約5センチ、900ページにも及ぶ超超超大作。手首が…

カズオ・イシグロのジョークの才能にただただ驚かされる カズオ・イシグロ短編集「夜想曲集」

こんにちは。 カズオ・イシグロの最新作「クララとお日さま」の発売(2021年3月)が地味に楽しみな今日この頃、短編集「夜想曲集」を読みました。 老歌手:離婚を前に最後の旅行する元スター歌手とその妻。「結婚によって成り上がかった」妻と、「若い女と結…

「もうそこらへんでヤメにしたら?」と言ってくれるかけがえのない存在の欠如。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」 後半戦、いっきまーす。 dandelion-67513.hateblo.jp 後半戦へ行く前に、前回どんな終わり方をしていたかっていうと。 カズオ・イシグロ作品の特徴として、主人公の回想の中に思い違いや嘘が混…

ほとんどが幻想? 今までと同じアプローチでは読み難い作品。カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」前半戦

こんにちは。 前回、前々回に勢いづいて、カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」。抒情的な作品が続いたということもあって、結構イケるじゃんと思っていたのも束の間。今回は少し毛色が違います。やっぱり、カズオ・イシグロは難しい。一筋縄では…

嫌いな人間の嫌いなところを挙げてみると、全部自分にあてはまったりする。カズオ・イシグロ「浮世の画家」後半戦

こんにちは。 後半戦、いっきまーす。 これまでのあらすじはこちら。 話は見合いの約半年後。1949年冬。 縁談がまとまった紀子は、斎藤Jr.(太郎)と結婚し、新生活を始めます。節子を伴って紀子の新居へ遊びに行く道中、節子がこんなことを言います。「紀子…

自分が失ったものをひとつひとつ数え上げながら、それでも自己正当化をやめない老人への冷徹な視線。カズオ・イシグロ「浮世の画家」前半戦

こんにちは。 「遠い山なみの光」に続いて一気に5作目。今回も川端康成テイストで面白い。1日で読み終えてしまいました。いろいろと浅い私のような人間は、やっぱりこれくらいシンプルなのがいいなぁ~と思うわけです。 本作品も終戦後の日本のお話で、「遠…

結局人は、他人と喋っているように見せて、他人のような何かと喋ってるだけなのだろう。 カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」

こんにちは。 久々のカズオ・イシグロ作品、4作目です。心のどこかでどんでん返しを期待していたのですが、今回は淡々と。 原題は「A pale view of hills」で、もともと「女たちの遠い夏」というタイトルだったとのこと。改題され、直訳の「遠い山なみ~」に…

2019年に出会えてよかった本BEST10

こんにちは。 今年の総まとめに、2019年に出会えてよかったなーと感じている本を紹介します。2019年に”出会えて”なので、必ずしも2019年刊行ではありません(というかほとんど違うかも… 最も印象に残った本をもとに、連想ゲームのように紹介していこうかなと…

知らないという恐怖。理由を失えば、それだけ恐怖は怪物的になる カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦です。息を吐くようにネタバレしていこうと思います。 前半戦はこちら。 dandelion-67513.hateblo.jp ウィスタン、エドウィンと旅をすることになった老夫婦は、ガウェイン卿なる老騎士と親しくなり、…

どうせお前ホラ語ってんだろという目線で読み解く カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」前半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」です。 カズオ・イシグロ作品は、「私を離さないで」、「日の名残り」に続き3作目。彼の作品は、文章が超絶難解というわけでも、世界観がぶっ飛んでいるというわけでもないのですが、何となく読みづらい。た…

最後の10ページ足らずのためにある300ページもの物語 カズオ・イシグロ「日の名残り」

こんにちは。 とりあえずノーベル賞受賞作家だし読んどく?という軽いノリで読み、衝撃を受け一気にファンになってしまったカズオ・イシグロ作品。 「わたしを離さないで」でも同様だったのですが、立ち上がりが緩慢なんです。(わたしを~ほどではないけれ…

運命を知って生きるか知らずに生きるか。持てる者は持たざる者の幸せを定義できない カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

こんにちは。 遅きに失した感はありますが、ノーベル賞受賞者カズオ・イシグロ氏の「わたしを離さないで」を読みました。いろいろな背景が明らかにされる後半30ページ、圧巻。正直読みはじめは、ノーベル賞受賞者の作品だからみたいな思いはあって、普通のSF…