はらぺこあおむしのぼうけん

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先生!キスは浮気にはいりますか? 新潮クレスト「夏の嘘」前半戦(男と女の嘘物語)

こんにちは。

今日ご紹介するのは、新潮クレスト「夏の嘘」。

「朗読者」(映画の邦題は「君に読む物語」)の作者による短編小説です。「夏の嘘」というだけあって、「嘘」がテーマ。男と女の嘘。そして自分への嘘。嘘と思い込みが生み出した不幸など、数々の「嘘」が描かれます。

前半戦は男と女の嘘の巻。

 

夏の嘘 (新潮クレスト・ブックス)

 

「シーズンオフ」

シーズンオフのリゾート地で男女が出会う物語。盛り上がって一緒に暮らす約束までして別れるけれども、NYへ帰った男は、やはり今の暮らしを離れる決心ができない。

「バーテンバーデン」

(過去に何があったかは知らないけれど)ただの女友達と旅行に行った男。しかしそれが彼女にばれてしまい微妙な感じになってしまう。

 

この二話。まぁこうもうまくいかないような男女が次々と出てくるなぁと。すでに破綻しか見えていないのに頑張って余命を伸ばしているような男女。一緒にいる必要ある?なんて思いますが、もしかしたら世の中のカップルの8割は、はたから見たら「もうこいつら終わってる…」って思われるかもしれませけどね。怖!

 

さて、皆さん、どこからが浮気ですか?セックスした時?キス?それとも二人で食事?個人的には、自分以外の相手に「好き」「会いたい」「xxxしたい!」なんて気持ちを持った時がすでに浮気では?と思ったりしています。現行犯で逮捕できるのは、セックスやキスやそれを匂わすメールを残したときですが、こちらとしてはすでに、邪な気持ちを持った時点で裏切られた気持ちになっています。

それは嘘も同じこと。「『男友達』と一緒に行ったんだよ」「『セックスは』してないよ」と証拠集めしてダウト!できる嘘はブラックな嘘ですが、「聞かれなかったら言わなかった」「その話をしなかった」というのも、つかれた側としては立派な嘘。相手が一番知りたいであろうということを隠した時点で、受け手側は嘘と判断しています。

 

ここに出てくる男どもは、「嘘ではない」「嘘ではないぞ!」と無責任な言葉で逃げているダメ男たち。彼らは「絵ではなくデッサンを渡しただけ」と言い訳します。あれもこれも細部は見せないけれど、概略は渡している。デッサンに浮気前提で塗り絵するのか、自分が信じたい色で塗り絵をするのかそれはお前らの勝手だぞ、どいいながらも、自分に都合よく塗り絵してくれないと被害者ぶるんです。どんだけ!!!嘘ではないということはすなわち、正直ではないということ。隠し事も立派な嘘なんですよ。と、これが、男から女への嘘。

 

そして、彼らは、「NOと言えない」という共通点を持っています。YESともNOともいわず曖昧な態度をとって、いろいろな女を傷つけている。NOと言えないというのはYESと言いたいのに言わないということですでに嘘みたいなもん。と、あれもこれも、受け手に不誠実なものはすべて嘘でしょうよ。と、これは自分への嘘。

 

では、嘘って何?真実って何?真実が常に素晴らしくて、嘘は常に悪いものなのか?否。こんな文章がありました。

真実があなたを苦しめているのではなく、何ゆえにそれが真実であるかという問題のせいで苦しい。

一つの真実が、様々な事実(らしきもの)を一気に突き付けてくる。「旅行した、同じホテルに泊まった、でもセックスはしていない」という事実。…ということは、その女に対してLOVEとはいわないまでもLIKEの感情を持っている。メールに返信したり、一緒に旅行プランを立てるほどの関係ではある、同じベッドで寝てもセックスしないほどの友情、信頼がある。…これは確認しないまでも事実。

だから浮気はばれないように用意周到にしろ!そして墓場まで持っていけといっただろうが!!!ってなります。

 

と、この二話は「嘘は良くない」という話。次回紹介するのは、「自分の気持ちについた嘘が熟成されるとどうなるか」というお話。

 

ぶっちゃけ読後感がさわやか!にはなりません。痴話喧嘩、そしてどんなカップルも抱えがちなもやもやが表現されている。からっとさわやかな夏にこんなジメった思い出いらないってばよ!ってなる。

おわり。