はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

新潮クレスト・ブックス

父の不倫により崩壊してしまった家族を、妻・夫・子どもそれぞれの視点から描く物語。 「靴ひも」ドメニコ・スタルノーネ(新潮クレストブックス)

こんにちは。 「靴ひも」ドメニコ・スタルノーネ(新潮クレストブックス) どっちが先なのかわからないけど、「パラサイト」を思わせる表紙の構図なので勝手に韓国小説だと思っていましたが、これはイタリア小説です。笑 父の不倫により崩壊してしまった家族…

「‘’愛”なしで生きること」を自らに課し続けた女の一生 「オルガ」ベルンハルト・シュリンク  

こんにちは。 「オルガ」ベルンハルト・シュリンク 「朗読者」の著者ベルンハルト・シュリンクの作品です。朗読者に出てきた女のように、普通の幸せを手にできない強い女が主人公。 舞台は19世紀末。幼い頃に両親を亡くし、ドイツの祖母の家で暮らしたオルガ…

「記憶」の儚さに苦しめられる6人の主人公を描いた傑作短編集 アンソニー・ドーア「メモリー・ウォール」(新潮クレスト)

こんにちは。 「メモリー・ウォール」アンソニー・ドーア(新潮クレスト) 「記憶」にまつわる6つの物語。久々に、「これは…!」と思わせる作品でした。(2010年の作品集だけど)「新しい才能をまた発掘してしまった…!!」とホクホクしてしまうほど素晴らし…

生きづらい女の切ない物語に、おばあの優しさが光を灯す 新潮クレスト「サブリナとコリーナ」

こんにちは。 カリ・ファハルド=アインスタイン「サブリナとコリーナ」 久々の新潮クレストブックスです。 ミステリにどっぷり浸かっていた数ヶ月の間に、また良い作品がいろいろ出てきたみたいで嬉しい。 ヒスパニック系コミュニティに生きる女達を描いた…

絶対読み返したくない不快感。もしかして、同族嫌悪からきている? 新潮クレスト「ソーラー」

こんにちは。 毎度毎度、私の中に衝撃をもたらしていくイアン・マキューアン。4作目「ソーラー」 正直、「さわやかな読後感!」とは程遠く、読んだ後も「…」って気持ちになるし、4作品も読んでいながら「ファンです!」とは言いたくない”何か”がある著者なの…

2019年に出会えてよかった本BEST10

こんにちは。 今年の総まとめに、2019年に出会えてよかったなーと感じている本を紹介します。2019年に”出会えて”なので、必ずしも2019年刊行ではありません(というかほとんど違うかも… 最も印象に残った本をもとに、連想ゲームのように紹介していこうかなと…

若い頃の熱狂が失われて用心深い私生活に入った中年男。実は氷の上に立っていた。新潮クレスト「アムステルダム」

こんにちは。 イアン・マキューアン(私の中で)3作目。新潮クレスト「アムステルダム」 一言でまとめると、物語の筋は星新一のショートショートを見ている感じで、無駄が少なくまとまりが良い。ちょいちょい老いることのエッセンスみたいなものを織り交ぜて…

どうしても戻りたい“あの時”がある人と、そうではない人 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」

こんにちは。 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」 事故によって寝たきりになってしまった兄と崩壊する家族を、弟目線で描いた話。自分の体験に基づいた作品のようです。こういう救いのない系は、実はすごく苦手。得られる教訓も少なく、読後にやるせなさが…

夜中に目が覚めたとき襲われる猛烈な不安を一日中抱き続けた土曜日 新潮クレスト「土曜日」

こんにちは。 ある脳神経外科医の一日をつぶさに書いた作品。夜中に目が覚めたとき、そして寝付けない夜、私たちの心を支配するのはネガティブな感情です。怒り、不安、孤独感、混乱… 土曜日の朝4時に目覚めた脳神経外科医の主人公は、床につくまでの間、実…

自分が作り出した妄想の人物ですら、自分の人生を彩る存在だと考える 新潮クレスト「ディビザデロ通り」

こんにちは。 新潮クレスト「ディビザデロ通り」 結論から言うと、「人生はコラージュ。それまで出会ってきた人たちを抱えて人は生きている」というテーマの話です。連続短編集の趣で、前半はクレア、アンナ、クーペという三人の若者の半生が切れ切れに。後…

じいちゃんの補正された思い出話を延々聞かされるという苦行 新潮クレスト「海に帰る日」

こんにちは。 2005年ブッカー賞受賞作、新潮クレスト「海に帰る日」です。 年老いた男マックスが、人生を回顧する物語。彼の心の中には、亡くしたばかりの妻アンナと、初恋の相手クロエの二人がいましたが、妻を失った今、彼の心はクロエとの思い出の地に引…

嘘の後ろ側に見える悲哀と救い 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」後半戦

こんにちは。 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」。引き続き後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は、器用な女の嘘を見てきました。まるで呼吸をするようにホラ語りをする女。嘘がばれても、「ああ、ばれちゃったの」で済ませられるような図太さをも…

嘘をつけない女が見た、嘘にまみれた女たち 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」前半戦

こんにちは。 「陽気なお葬式」、「ソーネチカ」に続き、心をとらえて離さなかったウリツカヤ作品3作目。新潮クレスト「女が嘘をつくとき」です。もともと、「陽気なお葬式」で垣間見た彼女の女性を評価する目が忘れられず、他の作品も読んでみた次第。 ロシ…

無念のリタイアをした本たち。2019夏

こんにちは。 最近は新潮クレストの回し者が如きスピードで新潮クレストを紹介している私ですが、なんとなく読み進められずリタイアしてしまった作品みっつin 2019夏。 新潮クレストは、作品のチョイス、訳の自然さ、カバーの肌触り、そして背表紙の統一感が…

川の上流を未来とみるか過去とみるか 新潮クレスト「帰れない山」

こんにちは。 新潮クレスト強化月間「帰れない山」です。 こういうたとえ話が出てきました。 雪解け水が流れる川の中に立ち、目の前にそびえたつ山を見ているイメージ。上流、下流どちらが未来か。どっちだと思いますか?おそらくどっちも正解なのですが。 …

男はメンヘラがお好き? 新潮クレスト「終わりの感覚」

こんにちは。 本作品は、4度目の候補でやっと受賞したブッカー賞だそうです。 私は日本人的価値観に毒されているので、「ついにブッカー賞!」とか書かれていると少し冷めてしまう卑しい読者です。筋を考えながら、推敲しながら、ずーっと「ブッカー賞!」と…

ブラックユーモアに満たされたロシア小説 新潮クレスト「ペンギンの憂鬱」

こんにちは。 ロシア文学は好きですか?チェーホフ、トルストイ、ドストエフスキー…私は超絶有名人しかしらないのですが、苦手なんですよね。全体的に暗くない?なんかこう、いつも曇天!みたいな。あと、ブラックジョークがきつい。チェーホフ・ユモレスカ…

本ばかり読んでいても真の幸せは訪れない…か? 新潮クレスト「ソーネチカ」

こんにちは。 前回、「ほかの本も読んでみたい!」ということで終わっていたコレ、読みました。 dandelion-67513.hateblo.jp 新潮クレスト「ソーネチカ」中編の中でもかなり短い部類。2時間もかからず読めますが、突き付けてくるテーマは重め。 本の虫で可愛…

誰からも好かれる人は誰をも愛する人 新潮クレスト「陽気なお葬式」

こんにちは。 新潮クレスト「陽気なお葬式」。個人的に新潮クレストはハズレを引くことがない作品として重宝しています。さらに、背表紙に統一感があり、装丁のデザインも素敵ということでコレクター魂を揺さぶられ、財布のひもが緩んでいくわけです。一冊一…

幸せは一種の健忘症。期待と絶望は健全な精神の証拠 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」

こんにちは。 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」です。 内戦中の架空の都市の首都。主人公はノーマというラジオパーソナリティの女性です。彼女は日曜日の夜に、視聴者からリクエストがあった行方不明者を探すレギュラー番組を持っていました。ある…

「あのときこうしていれば…」を実現してくれる不思議な帽子 新潮クレスト「ミッテランの帽子」

こんにちは。 新潮クレスト「ミッテランの帽子」 ミッテランの帽子が持ち主を変え、次々と持ち主を少しずつ幸せにしていくというお話。かなり使い古されたモチーフではあるのですが、なかなか面白い。 最初の所有者は冴えない会計士ダニエル。彼は政治力・発…

くさいものに蓋はやめましょう 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦(自分を騙したツケ)

こんにちは。 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は男と女の嘘。浮気の嘘、相手を喜ばすための出まかせ、という比較的ライトで誰にでも経験のある嘘を取り上げました。今回は、自分への嘘。これはかなり重い。そして、見な…

先生!キスは浮気にはいりますか? 新潮クレスト「夏の嘘」前半戦(男と女の嘘物語)

こんにちは。 今日ご紹介するのは、新潮クレスト「夏の嘘」。 「朗読者」(映画の邦題は「君に読む物語」)の作者による短編小説です。「夏の嘘」というだけあって、「嘘」がテーマ。男と女の嘘。そして自分への嘘。嘘と思い込みが生み出した不幸など、数々…

自分の選び得なかった人生も一緒に抱えて生きている 新潮クレスト「マザリング・サンデー」

こんにちは。 かなり感動した本です。可能なら6月のうちに読んでほしい。これはある少女の半日を書いた本なのですが、その日は3月なのに6月のような気候だったと何度も書かれるからです。明るい日がさすスタバ的なカフェで一気に読みましょう。 私は、すごく…

終わりのない苦しみ、行き場のない怒り…読まなきゃよかった 新潮クレスト「波」

こんにちは。 今日ご紹介するのは、新潮クレストブックス「波」です。 第一声、「読まなきゃよかった…」です。これはつまんねぇというわけでも、煽り文句でもなく、本当に素直な感想。これは2004年に起きたスマトラ地震による津波で、両親と夫と二人の息子を…

長い人生のほんの些細な出来事を哀愁たっぷりに描く トム・ハンクス「変わったタイプ」

こんにちは。 今日ご紹介するのは、トム・ハンクスの短編集「変わったタイプ」です。 トム・ハンクスって、あのトム・ハンクスですよ。え!うそ!?みたいな驚きみたいなのは方々で目にしましたので、ここでは割愛しますw さて、海外事情に疎い私でも知って…