はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

ノーと言える女はいい女。勝ち女になるための最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」後半戦

こんにちは。

つづき、いっきまーす。

モル・フランダーズ 上 (岩波文庫 赤 208-3)

物語のあらすじはこちらから。

dandelion-67513.hateblo.jp

 

 

③情に流されない

「一時の情に流されてはいけない、有利な条件を持ち出すことをいつも考えるべし」それが一度目の結婚(兄と弟のゴタゴタ)で得た教訓でした。高揚した気持ちに任せて兄に体を許す前に、兄が結婚を決意せざるを得ないような交換条件を出していれば、自分が最も愛した男と結婚し幸せに暮らせたのに、と後悔したモルはその後、冷徹な策士へと転向します。策に溺れているケースも多々ありましたが、着々と危険を回避していきます。

しかし、モルがロンドンでスリをやっていたときの話でした。心優しい紳士と出会い、互いの名前も知らぬまま一夜を共に過ごし、それっきりになるはずが、何度か逢瀬を重ねることに。銀行員の夫との死別後、十年ぶりくらいに訪れた恋の喜び。後ろめたさを感じながらも惹かれていったモルでしたが、訪問は間遠になり、ついに既読スルーという形で終わりを告げます。やはり、一時の情に身を任せることはよくない、空虚さに満たされながら、モルは決意を新たにしたのでした。

ここ、最も好きなシーンです。普通の作品なら3ページくらいかけて描写するところ、「というわけで、こうした人生の短いひとこまも終わりを告げましたが、このことによって私の貯えは大して増えもせず、むしろ後悔の種が増えただけでした」の一行でおわり。余韻が残る!

 

④ノーと言ってみせる

金持ちのふりして持参金目当ての男を手玉に取っていたモル。相手を骨抜きにしたのちに「ダメよ、結婚なんかできないわ。どんな噂が流れているか知らないけど、噂は嘘。私はお金がないのよ」とお断りします。内心「キター!!!!」って感じなのでしょうが、そんなことおくびにも出さず「無理よ、結婚なんて」と言ってみせる。

他にも、賭場で儲けた時も、掛け金を出してくれた男に、いくらかお金を持っていけと言われ「そんなことできませんわ」と一旦断ります。押し問答の末しょうがなく半分持って帰るのですが(というかゲーム中金をさんざんくすねていたんだけど)、去り際が鮮やか。ノーと言ってみせるなんて、いつかはイエスと言わせてくれるはずだという自信あるからこそできること。美人の特権でしょうが、見習いたいところです。

 

⑤いつも身ぎれいでいる

モルは不潔なのは嫌い。いつも良い服を着ています。一回乞食の恰好をして寸借詐欺もどきをしていたらひどい目に遭い、こんなクソみたいな服着てると運が逃げていくわ!!!とすぐに脱ぎ捨てます。またある時は、高級な喪服を仕立てます。何かいいこと(金になること)はないかしらと町をぶらつくためだけなのに、わざわざ仕立てるとか、粋。

以前、女性向けの記事で、冬はあちこちから服装ブスな女が湧いて出るというのを見ました。「タイツの足首がデロデロ」とか「毛玉だらけの服」とか、「ヒートテックが見えている」とか。モテたいならそこから変えていこう、と。いやほんと、現代にモルがいたら、絶対ヒートテックとか着ないと思うわ。お金がなくてもメルカリとかつかってやりくりしてそう。

 

と、こんな感じの5訓。どうだろう、綺麗な服から実践していこうかな。

他にも人生の教訓があります。

★賭け事は絶対しない

モルの悪事のパートナーである女将は、子どもを売買する商売で足をすくわれかけ、質屋に転向した生粋のワルです。ある時気分転換に行った賭場で大勝してきたモルは「楽しかった!」とウキウキ気分で女将に成果を報告します。そんな女将は鬼の形相で「賭け事はやるな!!!!!!」と一喝。

おもしろい、おもしろすぎる!!!

だってこの女将、近所で火事があったから泥棒してこい、とか、仲間を紹介するから三人組で押し込み強盗をしたらどうか?と平気で紹介するんですよ。スリや強盗は良くて、賭け事はダメなんかい!!!って思いますが、こんな悪事のプロが賭け事はダメだっていうんだから、絶対やっちゃいけないんでしょうね。やめましょう。

 

★悪徳は困窮という戸口から入ってくる

他には、「貧困はすべての落とし穴の中で最も悪質」とか「苦しい時は誘惑の時、抵抗する力がなくなる」とかいう言葉が。このことについてモルは、「貧困に耐えろ」とも、だからといって「悪の道に身を落とすのは仕方ない」とも言っていません。貧困の可能性は誰にでもあり、ひとたび困窮に陥ってしまえば、そこから普通の手段で這い上がるのは不可能である、と言い切っているんですね。

もちろんこれは何のセーフティーネットもない17世紀の話ですが、日本も相対的貧困率は先進国と呼べないレベルと聞きますし、他人事とは思えません。何度も言うけど、明日のパン代ですら困る状況になったら、打つ手はないのです。

 

★(特に美しい方へ)うぬぼれない

「若い夫人がいったん自分は美しいと思い込むと、自分を好きだといってくれる男の真実さを決して疑わないものです。なぜなら自分には男の心をとらえるほどの魅力があると思い込むと、その魅力の効果に期待してしまうからです」と書いてありました。そして、男性から熱烈に言い寄られたら、「やりたいだけかも…???」という疑念は常に頭の片隅に置くべしとも。

美しい(と思い込んでいる)と、「私は高嶺の花。私を大切にしない男なんかいない」と勘違いし、危機察知能力が鈍るから危険ということでしょうかね。ただ、美しくない人が熱烈に言い寄られても、DV男とかダメンズに引っかかってしまう例があるので、とりあえず美人だろうがおブスだろうが、うぬぼれない。そして、「こんないい話あるかしら?」と疑ってかかる。これ本当に大切。あと変な写真を撮らせないとか。

これはもちろん男性にも言えることで、モルみたいな女に引っかからないためにも、金目当てなのかどうなのか、慎重になりましょう。

 

おまけのおまけ

★問題の解決が先の場合はよそよそしい態度を取れ

何の話か分かりますか? これは、不倫の話ですよw 「妻とは別れるから…」と言っている段階ではOKを出さない、問題が解決されてから受け入れても遅くない。(ていうか、受け入れちゃダメ)というありがたいお言葉です。

 

とまぁ、教訓を見出そうとすればいくらでも出てくるありがたい書。淡々と事実が語られすぎて「おもしれぇ!」ってなる瞬間はありませんが、深い、深すぎる!時々読み返したいと思います。

 

おわり。