はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

自分が幸せなら、他人から憎まれようが気にならない。勝ち女になる最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」前半戦

こんにちは。

 

デフォーっていう名前よりも、「ロビンソン・クルーソー」のほうが有名。「モル・フランダーズ」です。一言で言うと、「なんか応援できない女」モルの人生回顧録。ところどころでイラっとするし、「それでも幸せに暮らしました」という結末には「まじかよ!!?」ってなるんですが、彼女の生きざまには学ぶべきところも多く、勝ち組になるためのエッセンスが詰まっています。

モル・フランダーズ 上 (岩波文庫 赤 208-3)

 

17世紀のイギリスのお話。モルは獄中で生まれました。モルの母は窃盗犯でニューゲートに収監中、妊娠を理由に絞首刑を免れ獄中出産。モルはどこかに里子に出され、母は流刑になりました。その後のことはもちろん記憶にありません。

記憶らしい記憶があるのは、ジプシーの一団と行動を共にしていた頃からです。モルを気の毒に思った老婦人が、孤児として家に迎えてくれました。物心ついたころから自分の美しさを自覚していたモルは、「マダムになりたい!」という夢を持ち、今のままでは、適当な年齢で奉公に出されて女中として一生を終えてしまうから、お針子などで生計を立てられるくらいまでは養育してほしいとのお願いをします。

美しさと気立ての良さが功を奏し、奉公へ行くべき年齢になっても家に置いてもらえることになったモル。「元乞食ながらマダムになりたいと言っている美しい子がいる」として方々で話題になっていたということもあり、彼女は良家に引き取られ、そこで上流の娘たちと共に養育されることになります。

。。。とここまで書いてざっとまだ30ページぶんくらいのあらすじ。これは長い長い回顧録ですので、彼女の来歴をエピソードと共に紹介していこうとすると一万文字くらいになってしまいます。とりあえずここからは概略を。

 

・引き取られた先には2人の息子と2人の娘がいたが、やんちゃな兄と体の関係を持ってしまう。兄と結婚できると信じてのことだったが、兄にその気はなく、そのうちに弟からも求婚される。自体が露見することを恐れた兄は弟と結婚することを提案し、モルは不承不承、弟と結婚することに。

・一度目の結婚は夫の死で終わり、金も持っているからもう少しゆっくり暮らそうと思い始めたモルは、遊び上手でありながら紳士という「水陸両棲類(ママ)」のような男を発見。楽しく遊んでいるうちにお金を失う。

・次は真面目な男を、と決めたモルは、策を練りいい男と結婚し、彼の故郷のヴァージニアへ。子どもももうけ幸せに暮らしていたが、ヴァージニアにいた義母は自分の実の母であることが発覚(ヴァージニアは流刑地であった)、夫は異父兄弟。逃げるようにロンドンに戻る。

・金を持っているふりをして男をひっかけようとしていたら、同じように金を持っているふりをして女をひっかけようと近づいてきた男と出会い結婚。でも金がないから離婚。この男は「ランカシアの夫」として最後まで重要な役割を果たすので覚えておく。

・とりあえずツバつけておいた銀行員と結婚。ただ、ランカシアの夫との間に子どもがデキていたため、「ちょっといろいろ忙しいから待ってて!アイラビュー!」とごまかしごまかし出産。子どもは里子に出す。

・銀行員の夫と幸せに暮らしていたが、友人の保証人になったことで夫は破産し、失意のまま死ぬ。その後はやもめとして少ない貯金でやりくりしてきたけれども、貧困に耐え切れず初めて人の包みを盗む。それからは窃盗、スリ、火事場泥棒などを繰り返し10年近くを暮らす。

・犯罪が露見しニューゲートへ収監される。絞首刑を免れて流刑に。ニューゲートで再会したランカシアの夫と共にヴァージニアへ。実の母の遺産を相続し、うまく増やして裕福に暮らす。ランカシアの夫とも正式に結婚し、その後はロンドンに戻り幸せに暮らしましたとさ。

ざっとこんな感じ。1件や2件、結婚した事実が抜けているかもしれませんが、それもご愛嬌(というかすごくどうでもいいw)

重要なのは、

・乞食からいっぱしの男と結婚できるまで成り上がったこと

・男を変えながらうまく人生をわたってきたこと

・しかし、貧困から犯罪に手を染めるまで転落したこと

・自分の行いを悔やむ晩年

という人生のバイオリズム。当時は階級社会なので、モルの出自だと女中で一生を終えるのが関の山。それを良家の息子と結婚しいっぱしのマダムになるという大金星をあげます。その後も生まれを隠して中流の男と結婚し、うまくやってきますが、貧困から犯罪者へ転落。最初は貧しさ故ですが、胴元の女将の指示とグルになりいろんな犯罪を重ねて大金持ちになります。流刑になったものの、盗賊時代の金のおかげで不当な扱いは受けず、裕福な老後を送る成功人生。

どんな逆境にあっても勝ち星をあげる彼女の生きざまを眺め、時々イライラする、そんな小説です。序文に、この本を読むべきは、本の読み方を心得、そのよい利用法を知っている方々で、読者としても、この本を有効に活用すれば教訓を得ることもありましょう、というようなことが書いてありました。そんな注意書きをするだけあって、ただただ回顧録。「この回顧録から教訓を得られるかはあなた次第ですッ!!!」って挑戦状をたたきつけられている気がするので、根こそぎ学び取っていきましょう。

 

では、モルはどういう女なのか。

ここまで書いてきてわかるように、とにかく男が切れない女です。とっかえひっかえ、あれやこれやしているくせに、それをうまーくなかったことにして、いい男をかっさらっていく女。同級生とかにいたらちょっと嫌ですね。「今の彼氏がすごく優しいけれどどうも好きになれないの。逆に、すっごい好みの男の子がいて、好きみたいな感じで、てか一回やっちゃったんだけど、どうしようかなぁ~?ちなみにどっちの男も商社マンです!」とか相談してきそう。ただ、年を重ねて、後進に自分の失敗談を開陳する程度には気前が良い、憎めない女。

 

モルは勝ち女になるための手練手管にたけています。その法則は以下。

①陽気である

辛いことがあったときに、失神してふさぎこんでしまうようなことはなく、「あらあらあら、どうしましょう」と考えて行動に移すタイプです。様々な困難を乗り切ってきたのはひとえに、頭が切れるだけではなく、「自分は幸せになるべき女だから」という認識が根底にあること。その自己肯定感(勘違い?)が彼女の前向きさを支えていると考えられます。

陽気なのかはわからないけど、彼女の前向きっぷりはすごい。ニューゲートで一度絞首刑になったモルは、牧師に諭され、今までの悪事を全て告白します。それまで「牧師?別にいいです~」みたいな感じで断っていたので、この告白は本気のもの。しかし流刑になり、ランカシアの夫と再会すると真剣みが薄れてきます。流刑先でやり直そうとランカシアの夫に声をかけるとき、別れてからの人生を超~かいつまんで話すんですね。男遍歴はもちろん、自分が捕まっている理由も全くの嘘。まだ勝ちの目が残っているとわかった瞬間、神様との約束ですら簡単に反故にできるタフさ。また、ヴァージニアで息子と再会した際も、「これは私のよ。私だと思って大切にしてね」と、今まで他人からパクってきたもの中で最も値の張る懐中時計を渡します。作中最も衝撃のシーン。

作品紹介には、「晩年は過去の邪悪な生活を悔いながら…」とか書いてあるんけど、全然悔いてねーだろ、と突っ込みたくなります。それくらい明るい。

 

②自分を安売りしない

「どうやったら、自分を値打ち以上で売り付けられるかしら??」というのが、彼女の行動指針です。

例えば、ヴァージニアでの一件。相応の金をもらってロンドンに戻ることを頑として主張するモルと、何とか思いとどまってほしい、という母と夫(弟)は対立します。しかしある時、憔悴する夫(弟)を見てモルはこんなことを思います。「この人死にそうだな。このまま逝ってくれたら、こっちで有利な再婚ができるかしら?」と。ロンドンに戻り、後ろ盾のないまま独り未亡人として再婚を期すよりも、ヴァージニアでは信用のある義母の紹介で再婚するほうがお得?どっちがお得?と天秤にかけたんですね。

どんな局面にあっても、「自分が得するほうはどっち?」という視点で物事を考えます。結局、金をせしめるだけせしめてロンドンに戻り、サインすると約束していた、権利を一切放棄するという証書は送り返さないなどします。汚ねぇ。

 

と、長くなってきたので、③と④と⑤とオマケは後半戦へ。

つづく。