はらぺこあおむしのぼうけん

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嘘をつけない女が見た、嘘にまみれた女たち 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」前半戦

こんにちは。

 

「陽気なお葬式」、「ソーネチカ」に続き、心をとらえて離さなかったウリツカヤ作品3作目。新潮クレスト「女が嘘をつくとき」です。もともと、「陽気なお葬式」で垣間見た彼女の女性を評価する目が忘れられず、他の作品も読んでみた次第。

ロシア文学は面白いんですが、名前がわからない。~シャとか~チカとか多すぎ。誰だてめぇってなるわけです。「リーリャ」さん「リャーリャ」さんが一緒に出てきたときはもう、本をぶん投げたくなる。

女が嘘をつくとき (新潮クレスト・ブックス)

序文に既に「これは実験」と書かれています。物語というよりは、嘘についての研究なんです。6つの短編それぞれに嘘をつく女が出てくる。それに対峙する主人公ジェーニャは男っぽい性格で嘘をつけない女。解説でも、嘘を「つかない」のか「つけない」のか断定されていませんでしたが、おそらく後者です。ちょこちょこ情報は出てくるのですが、夫とは不仲。二人の息子は優しいけれど、思春期を過ぎるとほとんど会話しなくなります。仕事では成功しているようですが、全編にわたって不器用でしっくりこない人生を抱えていることが窺える。

嘘をつけない女が見る嘘をつく女の正体。早速見ていきましょう。

 

第一ラウンド アンナ・カレーニナになりたかった女「アイリーン」

避暑地でのバカンス中、アイリーンという女性に出会ったジェーニャ。ハスキーボイスに心地よさを感じた彼女は、アイリーンの過去を聞きます。スパイの子に生まれ、貴族と出会い結婚。彼女は様々な男に愛され子を産みますが、何度も子どもを失ってしまう。アイリーンは不幸そうですが、なぜか誰からも愛される系女子(自称)ですから、めげずに強く生きています。

そのころのジェーニャは、夫との関係がうまくいっていないし、息子の言葉の遅れが気になる。女性としての自信を失いつつあるとき、愛を糧に強く生きるアイリーンに魅力を感じ、彼女を尊敬します。読者としては、「女が嘘をつくとき」というタイトルの小説を読んでいるわけですから、終始「w」って気分なのですが、ジェーニャは本気。アイリーンを崇拝し始めましたが、ついにアイリーンの嘘が判明。本当の彼女は、ほとんど地元を出たことがない、いわゆるマイルドヤンキーでした。

はじめて友人に嘘をつかれたジェーニャ。なぜ嘘をつかれたのか?そして、仮に嘘でも子どもを失う話をするって最低。感受性の高い心を持つ彼女は、リアルに想像したアイリーンの子の悲劇に心奪われ、落ち込んでしまいます。

 

以後、彼女の嘘耐性はどんどん上がっていくのでお楽しみにw

 

第二ラウンド ターゲットは離さない、末恐ろしき幼女 ナージャ

数年後のバカンスで、ジェーニャはまた嘘つき女に出会います。4、5歳の女の子ナージャ。彼女は保養所のオーナーの親戚の子で、すぐに、ジェーニャの子どもたちと遊ぶようになる。この年頃の女の子はマセガキですが、その中でも抜きんでてマセガキなナージャ。近所の女の子と遊ぶこともせず、ずっとジェーニャにくっついて自分のホラ話を聞かせ続ける。最初は流していたジェーニャも次第にうざくなってきて「それは本当のこと?」「え?嘘じゃないの?」と意地悪し始めるんですがめげない。ついにナージャの親に言いつけるジェーニャ。

うーん、ちょっと大人げなくない?wただ、ジェーニャのは、自分が他人の子どもにしつけはできないから、親に任せるべきだ、という正義感です。まぁ、せっかくのバカンスなのに、子ども同士遊べと促してもしつこくつきまとって嘘を聞かせ続けるんですからタチが悪いですよね。私は単純に性格が悪いので言いつけると思いますw

時々、他人をじーーっと見てくる女の子っていますよね。あれ気持ち悪いなぁって思うんですが、そういう系の女の子です。陰湿で、何考えているかわからない。そういう子は嗅覚が優れていますから、成長しても成績優秀、教師との関係も良好な一見優等生なんですが、「弱そうな人間」「反論できない人間」を目ざとく見つけてきて食い物にします。ナージャもどんな女になることやら。

 

さて、偏見言いまーす。

夏の平日、夜7時頃に公園に行くと、コミュ障主婦がいます。おそらく昼間は他の母親に会う確率が高いから夜に人がいない時間を見計らってスウェットでのそのそ活動開始するんでしょうが、その娘って大概ナージャみたいに陰湿でコミュニケーションに飢えているんですよ(偏見です)。こっちは自分の子どもと遊びたいから構わないでほしいのですが、大人の女と話したいらしく話しかけてくるんですよね。一度、「指紋を調べている」みたいな嘘を話しかられたことがあって、「うわ、この母親は昼間のサスペンスを娘と見てるのかよ!」とドン引きしたことがありますが、この手の女の子は将来痴漢冤罪とかぶち上げてそう(何度も言いますが偏見です)。

申し訳ないけど、自分に興味をもってもらうためには手段を選ばなさそうな匂いを感じるので、態度が気に入らないからといって「触られた」とか「話しかけられた」とか冤罪ぶち上げられたら怖いので、私は速攻逃げます。コミュ障主婦もコミュ障らしく見て見ぬふりですから、ターゲットにされないようにお気をつけあそばせ。

はい、偏見終わり。

 

第三ラウンド お騒がせアホ中学生 リーリャ

次は、ナージャとはちょっと違うタイプのマセガキ、アホのリーリャです。ジェーニャ姪ですが、親戚のおじさんと不倫しているとジェーニャに語って聞かせる。出会いのきっかけから、初体験の描写、奥さんの仕事の状況などめちゃめちゃ詳しいから、ジェーニャも騙されてピルを渡してやったりしますが、ぜーんぶ嘘。架空のオジサンならまだしも、実在の人間で嘘をつくな!と言いたくなるw

十何年の後、親戚の集まりで、綺麗になったリーニャに再会します。彼女はピアニストと結婚し、娘をもうけていました。めでたしめでたし、かと思いきや、娘が「私はお姫様…」とこっそり耳打ちしてきて、うわ!ってなる話。ナージャ予備軍か…

今回は実害こそありませんでしたが、こういう恋愛に憧れている女子は多いから、嘘で済まさず簡単に出会い系で出会っちゃうかもしれないと思うと親としては心配でなりませんね。思春期の女の子は母親にあけすけに話をすることはないでしょうから、思春期を迎えた時に、ジェーニャのような、思ったことを話せる大人がいるといいなぁと感じます。

この話は箸休めの笑い話なのですが、私は結構好き。それはこんな部分。リーリャのことがあったとき、ジェーニャは私生活のごたごたを抱えていました。姪のことを本気で心配する時間を持つことで、彼女はそんな面倒な生活から一時的に解放されていたことに気付きます。関係ない誰かに、全然知らない方向から助けられるってこと、人生で何度かありますよね。ジェーニャにとってリーリャはそういう存在。だからといって嘘が許されるわけでも、二人が親友になるわけでもない。でも、あるほんの短い時間だけ、相手にとって自分が大切な存在だった、そして自分も相手を大切に思っていた時期があったなぁっていう、そういう人生の妙が気に入っていたりします。

 

ここまで見てきてジェーニャはお人よしだということがわかります。一線を越えた不幸話をでっちあげて一緒に泣いてくれる人を探すアイリーン。自分を大きく見せるための嘘に付き合わせるナージャ。思春期のモヤモヤのはけ口としてありもしない恋愛話を聞かせるリーリャ。3人ともまじでしょうもない人間。友人になろうにも相手のことなんて見ていませんから、嘘で塗りたくった自分ばかりをみていますから。付き合うだけ損な人間がわらわらと集まってくるジェーニャ。

さて、「悩み事があるときに相談したくなる人」を思い浮かべてみてください。どうですか?どんな服着てます?無印〇品から生まれたようなナチュラル系着てません?(偏見です)少なくとも、オレンジとか青とか原色は着ていないはず。

知り合いに、悩み相談のエキスパートみたいな女性がいるのですが、彼女はあまり幸せではありません。本人も生まれつきの気の弱さと聞き上手を疎ましく思っているようなのですが、いつまでもいつまでも、悩みを吐露したい人がひっきりなしに列を作る、そんな女性。悩んでいるときって、同じ匂いの人を求めるんです。幸せ過ぎず、自分の話を聞いてくれ、そして一緒に沈んでくれる人。優しい星の元に生まれた女性は、その餌食になります。自分の人生を嘘で彩ろうとする不幸な女どもも、優しくて、そして自分の人生に自信を持てないジェーニャを、本能的に求めていったのでした。

人の悩みを「ざまぁw」くらいの気持ちで聞ける人ならまだしも、一緒に考えこんでしまう人は、悩み相談に乗らないほうがいいです。知らないうちに不幸になるから。スヌーピーの漫画PEANUTSに、悩み相談室を開設している女の子いますよね。あれくらい図太い女になればいい。そうすれば、いくら相談室を開設しようが、負のオーラをまとった迷える子羊なんて寄ってこないから。負のオーラ持ち込まれたくなかったら、無印〇品じゃなくて、Desigualの服を着ましょう(偏見です)。

 

さてさて前半戦。程度の差こそあれ、どーしようもねーな、っていう感じがしますよね。後半戦は、この嘘に「哀」が加わり、微妙な気持ちになる重ーいやつ。

 

おわり。

 

 

dandelion-67513.hateblo.jp

 

 

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