もうすぐ怪談の夏が来ますよ!! 父デュマ「千霊一霊物語」
こんにちは。
5月14日に発売されたばかりのこちら「三銃士」、「巌窟王」で有名なアレクサンドル・デュマの「千霊一霊物語」です。
私、光文社古典新訳文庫はかなり気に入っています。装丁以外。なんか全体的に似てしまうので、書影が公開された時の、コレコレ!感がないんですよね。発売日に本屋に突進するレベルで新刊を待っている私、書影公開の日もとても大切な日で、広告を見ながら萌えたい。まぁ、それでも買いますがw
光文社古典新訳文庫の魅力をもう少し話すとすると、
1。登場人物が簡潔に説明してあるしおりが素晴らしい
2。巻末の著者年表が素晴らしい(生まれから没するまでの、著作の発表・個人的な出来事が網羅されている。なんと年表だけで10ページ以上ですよ!)
3。解説が素晴らしい
と素晴らしい尽くし。特に解説。普通の古典読むと、いきなり「〇〇へのオマージュが感じられる」とか「読者諸氏におかれては」とか「…という批判もあろうが近年は見直されてきている」とか、誰に向かって話してるんだてめぇ、こっちは初めて読んだんだよ、とか思いません?明らかに著者や他の著作、著者の背景について熟知している人向けに書かれているわけで、「いや別に、私は本屋で気になって手に取っただけで、スイマセン」という気持ちに。しかし光文社古典新訳文庫の解説は初めて読んだ人にも、他の著作を知らない人にもわかるように書いてあるわけです。ゆとり世代の救世主。最高。
こんな感じでフムフムと読んでいくと、「椿姫のデュマ・フィスの母親はデュマの下宿先の隣人。でも生まれてすぐに認知せず、舞台女優との間に婚外子が生まれた7歳の時やっとまとめて認知した。しかしデュマの老後の面倒を見たのは子デュマらの婚外子たち」、「デュマは多作であり、背景には共同著作者の存在が。小説工場と告発されたこともある」という、知った顔でうんちく語れるようになります。すごい。
さて、「千霊一霊物語」について。
劇作家のデュマが27歳のころのある日を回想する形で始まります。ある日デュマは趣味の狩りの最中、戯れに町に降り、そこである事件に行きあいます。顔面蒼白でフラフラの男が市長の家に来て「妻を殺したから逮捕してくれ!」と懇願する。男が言うには「嫁の生首がしゃべった」と。男の精神状態は尋常ではなく、何かを恐れている。現場検証ののち、医師や文士や牧師など市長の知己たちと共に昼食をとることになったデュマ。「生首が喋るってあり得るかなぁ」という話から、各々が自分が知っている奇怪な話を披露することに。
千霊一霊物語というタイトルを読めばわかるように、千夜一夜物語を意識している枠小説。例えば、ギロチンにかけられた死体が意識を持っているかという研究をしていた医師が、夜中麻袋に入った処刑者の死体を検分していたところ、名前を呼ばれる。え、恋人しか知らないこの名前…?どこから聞こえるの…?麻袋を開けてみると…おおお前だー!!!的なやつ。ある判事が死刑宣告した死刑囚にフ〇ック的なことを言われ、ああいつものことだと流していたら、部屋に猫が居つくように。でも猫は誰にも見えないらしい。猫が次には執事が、そして…。これは、執事のコミカルな動きに笑ってしまうんですが。
と、死とは生とは、良き魂、悪い魂とは、霊とはという難しいテーマも出てくるのですが、面白い。解説の受け売りですが、ギロチンによる処刑が始まったころの話らしく、そこに触れたい意図もあるようです。
劇にしたらより面白そうなストーリー。小説のなかでは、デュマは劇作家としてそこそこ名前を知られていますので、ハジメマシテの市長にも丁重にもてなされる。窓を見ながら、あの人はかくかくしかじか、あそこにいる人はこんな人で、と説明されるシーンがあり、2時間サスペンスで刑事でも何でもない船越〇一郎がちゃっかりみんなの中に交わっていく様子を彷彿とさせます。おもしろくて一気読み!!
枠小説といえば、カンタベリー物語、デカメロンもおすすめ。キングの新アラビア夜話は光文社古典新訳文庫で出ています。
- 作者: チョーサー,Geoffrey Chaucer,桝井迪夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/01/17
- メディア: 文庫
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怪談の夏に、読んでみてはいかが?
おわり。