はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

安酒と煙草と無駄にした日々と 村上柴田翻訳堂「卵を産めない郭公」

こんにちは。
昨日のYAに関連して、大人への第一歩を踏み出す男の子の話。新潮文庫が、村上柴田翻訳堂という新訳・復刊の取り組みをしていまして、そのうちの一作です。訳は村上春樹。ハルキスト必読の著です。

卵を産めない郭公 (新潮文庫)

舞台は60年代アメリカのカレッジ。シェリーという生真面目でおとなしい男子が、プーキーという天真爛漫な女の子に振り回されながら恋らしきものをしていくという話。プーキーがぶっ飛びすぎて、シェリーが頭から血だらけになるような大怪我を負ったり、しまいには自殺未遂まで。シェリーの母親だったら「そんな娘と付き合うなら学費出さんぞ!!!勘当だ!」とぶちギレるレベルです。
シェリーとプーキーはもちろん生涯を共にするパートナーにはなり得ません。長い長い人生で、一瞬だけわかり合えたその時を克明に記録した小説と言いましょうか。

この恋、シェリーとしては初恋にあたりますが、シェリーが後年このことを思い出したときに、付き合った人数にカウントすることはないと思います。どちらかというと蓋をしたい過去に含まれるのかもしれません。正直、読後感とか読んでる途中の気分もいいものではない。逆をいうと、それくらいこの小説が、ひとつの恋をだらっだらと汚い部分まで暴き出しているんですね。

この本、新品の綺麗な本でなくて、汚くて色褪せて、なんかよくわからない飲み物が染み込んだペーパーバックで読みたい。煙草の臭いがして、ところどころ折れたり破れたりしている。もはや好きな本が並んでいる本棚に並べておくのも微妙だし、読み返すかどうかもわからない。でも、自分の読書経験の中でなぜか心に引っ掛かっている、時々思い出す、そういう本です。そして、シェリーにとってプーキーとの恋は、そんな汚い本みたいな経験です。

プーキーはヒステリックだし破天荒だし、シェリーもイライラするんです。ただ、はじめてのセックスのときに、よく分からずまごまごしているシェリーに「早くしろよ」みたいなことを言わないで平気な顔をしていてくれる。そういう、ジャイアンが消ゴム拾ってくれるようなギャップにやられてしまうシェリー。

シェリーとプーキーは一生わかり合えない人。教会にいって文句垂れるくせに、ちゃっかりそこで配られる施しは受けてくる。そういうプーキーの図々しさがシェリーにとっては我慢なりません。シェリーの大切な友達に対するプーキーの態度も、げっ、てなる。二人が別れた朝、シェリーはなんとなく肩の荷がおりた気がするんです。

という、たいした教訓もない話なんですが、ダメな恋愛って大抵こういうパターンなんです。なんでこう、青春ってしょうもない思い出で満ちてるんだろう。懐かしく、そして、苦々しい気持ちになる作品。でもなんか、癖になるというかなかなか忘れられない。ハルキストは絶対好きだと思いますよコレ。

おわり。