はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

無念のリタイアをした本たち。2020夏

こんにちは。

夏の風物詩ということでリタイアした本みっつ。

 

ベル・カント

ベル・カント (ハヤカワepi文庫)

実際にペルーであった、日本大使公邸占拠事件に着想を得た小説。映画化もされています。オビに映画のポスターがついてたから、ホソカワ=渡辺謙に脳内変換されてしまい、冒頭に出てくるホソカワ娘も杏に変換しておいた。笑

南米の国の公邸で開かれたパーティで、テロリストによる立てこもりが起こる話。ホソカワは日本の大企業の社長で、その日は誕生日。ホソカワの援助を引き出そうとたくらんだ某国は、ホソカワが愛してやまないオペラ歌手を招いて公演をしていた。政府との交渉が長引いたため、彼らの囚われの生活は長くなり、テロリストと人質の交流が生まれていく。

読んだ瞬間「合わないな…」と感じました。小説の導入部ってやっぱりとっても大切で、30ページくらいは息もつかせず読ませてほしいもんです。「あ、なんか違う」と感じた瞬間流し読みに切り替えて大正解。

一番不満なのは、政治に寄るか恋愛に寄るかはっきりしないところ。

そのパーティには、本来ならば大統領が出席するはずが、見たいドラマがあるからといって欠席する。テロリストの目的は大統領の拉致だったから、大統領はどこだ?としつこく尋ねるわけなんだけど、「いません…なぜならドラマを見ているから」と漏らしてしまう副大統領。そういうシュールな設定がもっとあったら面白いだろうに、後半は恋愛に傾いていく。その他にも政府との交渉をもっとリアルに見たいのに、そこはあんまり取材していないのかな…という印象。

オペラ歌手とホソカワをくっつけて…ホソカワの超優秀な通訳(加瀬亮)をアレとくっつけて…って鉛筆なめなめした結果、政治劇要素は薄まってきた感あり。

あとは、音楽の力が絶大すぎて白ける

戦争さえも終わらせてしまう音楽のパワーっていうのはアニメとかでよくごり押しされているけど、「音楽が人の心を変えすぎ」問題がまた勃発する。もちろん、オペラ歌手の歌によってテロリストと人質の交流が深まるっていうのがこの小説のウリだからわかるんだけど、音楽の描写と、神が降臨したがごとくそれに胸打たれ変わっていこうとする登場人物たちの姿…読んでいるこっちが恥ずかしくなる。その安っぽさは恩田陸の小説に出てきそうなレベルです。

私はキラ・ヤマトが嫌いだから、音楽聞いたら戦争が終わるっていうんだったら…そんな世の中だったらいいですねwwwってなって終了。

あとは天才的な人がたくさん出てきて、そんなに出てこられても困る。そりゃ天才が何人もいてしかも万人に優しければ、長い人質生活にも光がさすだろうよ、と。ただ、テロリストを主役級に持ってくる小説は絶対にHAPPY ENDにならないから、後味の悪さと切なさはまぁ合格ですが、、、やっぱり無理でした!

 

ホワイト・ノイズ

ホワイト・ノイズ

ポパイのサマーリーディング2冊目。

思ってたんと違う…が一言目。

主人公は、ヒトラー学科という物騒な学科で教授をしている。ある日彼の住む町で大事故が起き、謎の化学物質が降り注ぐ。ほとんどの住民は移住を検討することになるが、ある時主人公は毒の灰を浴びてしまい、死の恐怖に取りつかれる。彼の妻は妻で、(事故が起こる前から)死の恐怖を忘れるための薬という謎の薬を服用しており、子どもとの関係もぎくしゃくしていて…

死とは?信仰とは?人間の本性とは?などなど、観念的な対話が中心の小説。マーレイという同僚の思想がヤバすぎて気持ち悪さを覚える。彼の主張にはイミフな部分もあるけど、妙に納得してしまう部分もあり、「こいつの主張は真面目に取り合ったらヤバいな…」という印象。丸一日格闘したけど、自分にはまだ難しいわ…

BRUTUSの「危険な読書」特集のキャッチコピーに、「この世に本は2種類しかない。読むに足らない本か、読んだらろくなことにならない本」っていうのがあるんだけど、コチラは後者になるポテンシャルがあると思います。真面目に格闘すると頭パーンてなる可能性あるw

 

この本は「ポストモダン」に分類されるそうです。ポストモダンとは、19世紀までに形作られてきた小説の王道をぶっ潰す!という立ち位置で、様々な挑戦をするというもの。著者はジョイスに影響を受けているらしく(ユリシーズを読みふけっているという時点で分かり合えない自信があるw)、本書には「ジョイス的論理の精密さ」が見られるそうです。どこら辺がポストモダンなのかよくわかんないけど、まぁ、…やる気を削がれるレベルで難解なのは事実。

 

ただ、文句を言わせてもらうとすれば、対話がヤラセくさい。例えば「礼儀正しく、善良で責任感ある人たちがテレビの画面で見る大災害に興奮してしまうて何でなんだろうねぇ」「大災害に魅了されるというのは万国共通ですがね云々」なんていう会話があったり、終盤に、

主人公「あなたは神を信じないのですか?」

尼僧「信じるわけないでしょう。あなた方のために信じるふりをしてあげている(他に信じている人間がいなければ誰も神を信じなくなるから)。それが私の仕事だ」

と、尼僧と主人公が互いに長広舌を振るうシーンがあったりするんですが…取りたいコメントと編集の方向性はすでに決まっていて、それを引き出すためにあの手この手で質問を繰り出すというヤラセのインタビュー感がすごい。さすが元テレビマン(著者は元TV局員だそうです)。

大災害の映像の話にしろ、神を信じない尼僧にしろ、著者の主張なんだろうなって思うんだけど、ストーリー展開や主人公の内面の変化にそれらメッセージを込めずに、ただ登場人物の口を借りて自分の主張を語らせるっていうのが、小説として価値があるアプローチなのか?と感じてしまいました。

ポストモダンを自称するならば、古くからある小説の定型を打破しようという気概を感じてもいいものだけど、主人公ら登場人物を自分の意見の代弁者として据えるだけでキャラの作りこみをしないっていうのは、正直怠慢では…と感じてしまいましたが、どうなんでしょう~?

個人的にはオズワルドによるケネディ暗殺事件を描く「リブラ」という作品が気になっていて、時間とやる気があったら読みたいな、と思っています。ちなみにこの本、「入手困難本」です。古本でも定価以上しますから、その手のマニアの方は手に入るうちにどうぞ。

 

マジック・フォー・ビギナーズ

マジック・フォー・ビギナーズ (ハヤカワepi文庫)

 

これは…

久々に3ページも読めなかった本。世界観独特過ぎて読む人を超選びます。図書館で借りたんですが、3番目で予約した割にはすぐに順番が回ってきたので、みんなほとんど読まずに返却したんだろうと推理しているw

おそらく、乙一とか星新一筒井康隆あたりが好きな人の中にハマる人がいるのでは…という線。表題作のマジック・フォー・ビギナーズは、謎の公衆電話から異世界の人と電話がつながる設定なんだけど、おとぎ話のようにキラキラした世界観ではなく、アメリカの学園ドラマに出てくる眼鏡かけた小太りの子が所属するグループ…のようにジメっと、ベタっとしている。なぜか曇り空がよく似合う。

 

おわり。

 

関連記事はこちら 

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp