はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

無念のリタイアをした本たち。2019夏

こんにちは。

 

最近は新潮クレストの回し者が如きスピードで新潮クレストを紹介している私ですが、なんとなく読み進められずリタイアしてしまった作品みっつin 2019夏。

新潮クレストは、作品のチョイス、訳の自然さ、カバーの肌触り、そして背表紙の統一感が素晴らしく、本棚に並べていてもなんら恥じることのない存在感を放っています。「当たりハズレの差が大きい」という意見が多いですが、個人的にはハズレがほとんどないという印象。

 

「ウォーターランド」

ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

以前絶賛した「マザリング・サンデー」の作者です。マザリング・サンデーは2時間弱にして読み終えられる中編の中でも短い部類に属しますが、これは手に取った瞬間衝撃を受ける分厚さ。私は3度見しましたw

dandelion-67513.hateblo.jp

 

ある一族の物語。川の水門を管理してきた一族の、水にまつわる出来事を書いたものです。 妻が起こした誘拐事件が原因で教師の職を追われる男が主人公。「歴史の授業が削減されますから人員余剰のため」という建前なのですが、誘拐事件のせいであることは明らか。誘拐事件の顛末までは読み進められませんが、教師として、自分の歴史を振り返りながら、歴史を学ぶ意義を伝えていく、という話がメインのよう。

とにかく読みにくいんです。いろんな時代の話がランダムに出てきて、しかもこれが三代前の人の話だったり、その甥が~みたいな話に脱線したり。時代が飛び飛びになる語り方は、場面が変わる度に、これはいつの誰の話だ?と意識する必要があるのでぐいぐい読み進められず、興を削がれることも。マザリング・サンデーも現代と過去が行き来していましたが、恋人を失くしたあの日=過去、それを思い出す今=現在の2つしかなかったので、現在と過去を行き来してもついていけたのですが、やはり何百ページにも亘るとなると、疲れてきます。

しかし、驚くことにAmazonレビューは平均☆5(現時点で3件だけだけど)ですから、侮れない。しかも絶賛されている。私の読解力のなさ故のリタイアかな。時間のあるときに再挑戦を。

 

「あなたはひとりぼっちじゃない」

あなたはひとりぼっちじゃない 新潮クレストブックス

 

タイトルが自己啓発本チックですこし恥ずかしい。短編集です。

私は早々にリタイアしてしまったのですが、同性愛の話が多く含まれる模様。作品自体は読みやすいですし、励まされる人もたくさんいると思うのですが、私は悲しくなってきて読み進められませんでした。そして、え、ここで終わるの?という置いてきぼり感。長編は登場人物に肩入れしたり、自分なりのスタンスを確立する時間があるけれど、短編は物事の一面しか見る時間がないので、もう少しテーマをはっきりさせてほしかったかな。話自体も少々ありがちです。

世の中には、自他ともに認める幸せな人、自分は不幸だと思っているけれど客観的に見たら上々な人生を送っている人、他人から見ても不幸な人の3パターンいると思うのですが、これは3番目の人寄りで、読めば読むほど辛くなってくる。そして見る限り救いらしいものもなく、ひとりぼっちのままじゃね?と。

たとえば、精神疾患を抱えた父と、ゲイの息子の話。精虚言癖、誇大妄想…誰からも見放された哀れな老人なんです。息子は恋人の男と暮らしている。レストランで大声で騒ぐ父、ホテルのエレベーターで同乗したカップルに「誰かいい女を派遣してくれるそういう店知りませんか?男と女一人ずつ。息子はゲイですから」と話しかけ気味悪がられるなど、息子の気持ちを考えると涙が出てくる。

あと恒例の邦題disりをすると、原題はYou are not a sranger here. なんだけど、Stranger=ひとりぼっち、なのか?「ひとりぼっちじゃない」は、「味方がいるよ」という印象だけど、どちらかというと、「ここにいても大丈夫だよ」に近い気がします。

しかしこちらもAmazonレビュー☆4.5ですから、私に見る目がないパターン。おそらく良い作品でしょう。再挑戦かな。

 

「人生の階段」

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)

以前紹介した「終わりの感覚」の作者です。

dandelion-67513.hateblo.jp

 

妻を亡くした夫の話で、実体験に基づいている。最愛の妻、病を告知されてからなんと37日で失くしてしまったという深い喪失体験。妻を失ったことを昇華するために書いた本ということです。

リタイアの理由は、もやもや感。まず、第一部、気球の話が延々とされます。豆知識的なものも含む。第二部、ある女優と男の恋が語られ、そして第三部にやっと実体験。第一部、第二部で少し疲れてきます。第三部へのつながりだと思うのですが、どのエピソードを記憶しておくべきかわからないので、ほぼ何の先行情報もないまま第三部へ。

第三部は、良い。こんな学びがあります。

・大切な人の死で受ける打撃に備えることができない。本で知識を仕入れたり疑似体験をしたりしても無駄である。

・妻を失った後の周囲の反応。最初は優しくしてくれる。でも、ある程度の時間がたつと、「いつまで沈んでるんだよ」というイライラが伝わってくる。本人にしか悲しみの深さはわからないが、部外者は「さすがにそろそろ立ち直ってるだろ。あまり落ち込まれ続けても、こっちとしてもお手上げだ」という態度で接してきて、溝ができる。

すごく良い内容なのだけど、もうすこし体系立てて、順序立てて書いてくれると3倍くらいの学びを得られたかな、と。執筆には「悲しみの昇華」というテーマがあり、気持ちの整理も兼ねて書いているような気がするので、時間の流れと事実関係がよくわからないところが多く、第一部、第二部からたまり続けたもやもや感が限界に達し、リタイアしてしまいました。

ただ、こちらも、Amazonレビュー(1件だけだったけど)☆5ですから、再読の価値はあるかも。

 

と、実は私の見る目のなさを暴露してしまった回です。Amazonレビュー恐ろしい。

 

おわり。