はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2020年に出会った印象深い本10選

こんにちは。

今年も早いものであと数日。2020年も素晴らしい本と出会うことができました。

▼2019年の10冊はこちら

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#良作ノンフィクション

1.「荒野へ」ジョン・クラカワー

山中で遺体となって見つかったエリート青年。彼の日記や出会った人の証言などから死の真相に迫るノンフィクション。

事実は小説よりも奇なりとは言うけれど、偶然が2度続いたら何か裏があるというのはサスペンスの常道ですから、そういう意味で、ノンフィクションは正直、つかみ勝負なところがある。世界仰天ニュースばりに煽られて読んでみたものの、中盤の中だるみ(失礼)、終盤の尻すぼみにがっかりさせられることも多々…最後までグイグイ読ませてくれる(願わくばちょっと泣けてくる)ノンフィクションってあるの?と思っていたところにこの本!

「最後まで飽きずに読める」という素晴らしさに加えて、イデオロギー臭もなく淡々と進む語り。感傷的にもなりすぎずに一人の青年の人生の断片を美しく紡いでくれる優しいまなざし…

同じ著者の「空へ」も同じくらい読ませる(泣かせる)作品なのでこちらも是非。

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#泣けるミステリ

2.「ありふれた祈り」ハヤカワ・ミステリ文庫

少年の忘れられない夏の出来事をつぶさに描いた小説。ある閉鎖的な町で起きた事故死、自殺未遂、そして姉の不審死。その全てはつながっていて…。胸に大きなわだかまりを持った大人たちと、大人になりかけていく子どものすれ違いが切ない作品。

ミステリとは言うけれど、人間ドラマメインで、こんなに泣かせるか?!!というくらい随所に泣き所が用意されている感動作。胸震えるとはこのことか…と思いました。信仰についてじっくり考えるのを促してくれるという意味でも良作で、絶対また読みたいと思える大切な作品です。

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#泣けるミステリ

3.「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ

本屋でも平積みされまくりの話題作です。この作品の素晴らしさは、メディアが騒ぐ前から気付いてたけどなっ!ってマウントを取ってみたりする。笑

ある男が火の見櫓から転落死します。捜査線上に浮上したのは、かつて「湿地の少女」と呼ばれた女性カイア。動機は十分なカイアでしたが、彼女には鉄壁のアリバイがありました。

カイアが築いてきた人間関係の美しさに泣き…裁判のシーンではハラハラドキドキし…そして事件の真相に衝撃を受け…と、一粒で3度おいしい作品。一日で読み終えたのだけど、感情移入してドキドキが止まらず、衝撃的なラストに、半日落ち込んでしまいました。

本屋のPOPで絶賛されているようですが、期待を裏切らない作品。

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#元気になるヒューマンドラマ

4.「サンセット・パーク」ポール・オースター

リーマンショック後のニューヨークが舞台。無気力な、日本でいうサトリ系なのかユトリなのか、定職につかなくても平気な顔をしている若者と、「もっとしっかりせい!!」と喝を入れたいその親世代の意識の違いが際立っている。主人公にはあんまり感情移入できなかったけれど、主人公とシェアハウスする2人の女性については、共感するところもいくつかあり、頑張る気力がわいてくる作品。

アメリカではあんなに有名なオースターですが、私はこの作品で初めて読みました。この後この人の作品を複数読み漁ってみましたが、完成度・構成・メッセージとしてはおそらく「サンセット・パーク」が一番なのでは?と思う。中盤にダレることもないし、キャラの作りこみもGOOD、伝えたいこともしっかりと伝わってくる良作です。

 

同じ系列(雑)の「ブルックリン・フォリーズ」も良かった。

 

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#胸打たれるヒューマンドラマ

5.エリフ・シャハク「レイラの最後の10分38秒」

遺体となって発見された娼婦レイラが、生と死の間をさまよう11分足らずの間に人生の回想をする。家族に捨てられた記憶、イスタンブールに出てきてからできたかけがえのない友との思い出…。

目を見張るのは潔さです。うらやましいくらい素晴らしい友を得たレイラではあるけれど、「友を得たからと言ってハズレ親に当たったことがチャラになるわけではない」=良い親に恵まれるのに越したことはない、「レイラの人生はある時点で誤った道に進んだ」=娼婦になんてなるもんじゃない、と明言していて、「素敵な友達を得たレイラはある意味では幸せだった」なんていう意見を封じるくらいのパワーがある。自分が持っていないものを数え上げながらなんとか折り合いをつけて生きていく人間の小ささがひしひしと伝わってきました。映画化とかしてほしい!

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#胸打たれるヒューマンドラマ

6.「小さな国で」ガエル・ファイユ

アフリカ人の母と、フランス人の父を持つ少年の、アフリカでの日々を描いた作品。

オープニングが印象的な本作品。何十年も内戦が続いている故郷を捨てて、ただただ「戦争がない国」に移住したいという母と、「アフリカでは使用人付きの家に住めるリッチマンの俺は、パリに戻ったら凡人に逆戻りだから」という理由で移住を渋る父の意見の対立に、内戦地域で暮らす人々の苦しみを垣間見ます。変わっていく友、奪われていく日常、そして本に救いを求める「僕」。少年が主人公っていうのが切ない。

移住後の暮らし「アフリカ人でもないしフランス人でもない僕」っていうアイデンティティの欠如についての所感にも、考えさせられるところがあります。

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#戦争もの

7.「卵をめぐる祖父の戦争」デイヴィッド・ベニオフ

戦争が激化するレニングラードで、12個の卵を求めて旅に出た2人の青年の物語。「戦争の中ではバカな命令がまかり通る」ということを体感させてくれる。

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#カッコイイ戦争もの

8.「鷲は舞い降りた」ジャック・ヒギンズ

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#カッコイイ戦争もの

9.「女王陛下のユリシーズ号

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ガンダム大好きっ子としては、「なんかかっこいい」からっていう単純な理由で戦争ものを選びがち。「鷲~」「女王陛下の~」は、「なんかかっこいいもの読みたい」欲を満たしてくれる上に「超濃厚!」な作品なので大満足でした。

 

#イヤミス

10.エヴァンズ家の娘

「他力本願な女(一族)」をめぐる何とも胸糞悪い物語。もしかしてこれが、今流行りのイヤミス…?

大叔母が遺してくれた湖畔の別荘を訪れたジャスティーンの物語と、ルーシー(70代)の日記が交互に出てくる。日記の中で明かされるルーシーの妹の死の真相と、何とも男運の悪いエヴァンス家の娘たちそれぞれのエピソードに圧倒される。

ジャスティーンが「私たちの不本意な人生は全て『誰かが(何かが)何かを変えてくれる』」という救済と呼ぶには何とも他力本願な思いからきているのだ…と気付くシーンが好き。ジャスティーンに幸あれ。

 

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今年の1冊は…

話題作にのし上がった「ザリガニ」を選ぶのも悔しいので、「ありふれた祈り」に!

ありふれた祈り (ハヤカワ・ミステリ文庫)