はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

自分の「心」の在処は他人を介さないとわからないのかもしれない カズオ・イシグロ最新作「クララとお日さま」

こんにちは。

 

カズオ・イシグロ「クララとお日さま」

ノーベル賞受賞後初の長編です!!

長らく楽しみにしていたこともあって、一日で読み切ってしまいました。

早く次の長編が読みたい。笑

クララとお日さま

主人公はAF(人工フレンド=Artificial Friend?)のクララ。AFは、身の回りの世話をするロボットなどとは少し違って、あくまでも子どものお友達になるために作られたようです。市場に投入されて間もないのか、AFは結構なお金持ちではないと手が届かない代物。また、不具合なども報告されているようで、次のバージョンに向けて市場からの評価を吸い上げて日々改良されているような段階。

クララはジョジーという女の子の家で暮らすことになりました。ジョジーは病弱な女の子で、ほとんど家の外に出ることができません。ジョジーの母がAFを購入したのは、「外に出ることができない娘にお友達を」という以外に、もっと重要な目的がありました。

AFは太陽光から自らのエネルギーを作っているのですが、「ジョジーにもお日様の力添えがあれば」と考えたクララは、ある計画を立てます。それが「クララとお日さま」というタイトルの由来。

 

世界観としてはSFチックで、ディストピア小説にも思える。

後々明らかにされるのですが、「向上処置」という遺伝子操作がジョジーに加えられており、そのせいで体調が悪いことがわかります。また、ジョジーの姉も向上処置のせいで亡くなっています。反対に、隣の家に住むリックという男の子は向上処置を受けなかったせいで能力が低く、進路が限られてしまっています。

町にはAFらのせいで職を追われた失業者があふれており、向上処置の有無で格差が固定化されていく怖い世界。ただ、それ以上に怖いのは、登場人物がこういった社会の問題について考えるのを放棄し受け入れてしまっていることです。根本的な問題には目もくれず、せかせかと生き、笑い、普通に過ごしている人の群れには、なんかぞっとするものがあります。

 

舞台はディストピアですが、この本のテーマは、「人間の心」という大変普遍的な問題です。クララは、いずれ死んでしまうジョジーの替わりとなれるのか?という問いに対し、ジョジーの母・父が真剣に向き合います。

「人間の心のはたらきは計り知れない」というのは前時代の空想であり、全て数値化や解析が可能である、と考えられている時代のお話。認知能力が特に優れたAFであるクララさえいれば、ジョジーの行動も思考も「完コピ」可能、という母のほうが優勢で、人間の心の中にはたくさんのドアがあって、全部開けたつもりでもまだ開けてないドアがあったらどうする?と主張する父はちょっと古め。母の二度目の挑戦(実はジョジーの姉の時にはAFの技術が追いついておらず失敗した)をめぐって対立する母と父でしたが、父の発言の中からその答えはおのずと出てしまっているんです。

 

母の性格からすると、本当にクララがジョジーを巧みに演じたとしても、最後の最後に拒絶して失敗としてしまうはず。そういう自分だって、心は完全に理解されたということを認めたくない意地で反対しているだけなのだろう。

 

と、「人間の心」がどういうものかどうかは、その人間に相対する他人の目を介してのみ判断されるものかもしれない。母も父も、つまるところ、「心なんてないのではないか」というところに着地してしまっている、やや皮肉な答え。

 

自分の命は誰のもの?自分の心は誰のもの?という問いは、「私を離さないで」と通じるテーマではありますが、「人間を喜ばせる」というプログラムをされたクララが抱くそれは、「私を離さないで」以上に胸に迫るものがありました。ジョジーを助けたいというクララの思いは実るのか…?珍しく救いのある展開で、大変幸せな気持ちになります。

 

カズオ・イシグロ特有の伏線回収や読者を煙に巻くやり口は健在ですが、あっさりめの内容。

世間ウケ意識したのか?と思うくらい、調理される具材も、味付けもあっさり塩味。AFが主人公ということで?信頼できない語り手も不在で、そこは少し残念でした。

ただ、最後の数ページの感動は圧巻!トリハダものです。

 

充たされざる者忘れられた巨人、私たちが孤児だった頃…などと非リアリズム作品に翻弄されていた私からしてみたら朗報ですが、もう少し”らしい”作品が読みたい気も。とりあえず、次の作品を首を長ーくして待つことにします。笑

 

おわり。

 

 

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp