はらぺこあおむしのぼうけん

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皆誰かの生き方を必死になって真似ている 朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」前半戦(ネタバレ)

こんにちは。

螺旋プロジェクト、ついに最後になりました!

螺旋プロジェクト平成編。朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」

朝井リョウの名前は初めて聞いたのですが、「桐島、部活~」とか、「何者」とか作品のほうは知っていました。映画は見たことがあるので、名前と過去の作品が一致した時は、「ああ、イマドキの若者の心をとらえて離さない感じだろうなぁ」と警戒。もはやあれもこれもと選ぶことのできない年齢に達してしまった人間としては、こういう作品は正視できないのです。「で、こんな世の中だけど、おばさんたちはどうするの?やばくない?」と無言で責められている気がするので。

死にがいを求めて生きているの

本作品は、様々な登場人物を主人公とした連作短編でありながら、真の主人公は山族の堀北雄介、海族の南水智也の二人。

物語は病院のシーンで幕を開けます。語り手は友里子という看護師。昏睡状態の智也のもとに足しげく通う堀北という男がいます。智也は何かの事故に巻き込まれ、その現場に堀北が居合わせた、ということ以外はまだ明かされません。「幼いころから自分のそばにいていつでも手を差し伸べてくれた智也。自分はそのありがたみに気付くことがなかった。だから今はできる限り側にいて、目を覚ます瞬間には絶対に立ち会いたい」という堀北。

舞台は約20年前の北海道へ。語り手は先日転校してきたばかりの、一洋という小学生。智也が世話を焼いてくれたのがきっかけで、智也、堀北、一洋の3人で遊ぶようになりますが、優等生タイプの智也と乱暴な堀北、性格が正反対なのになぜ仲良しなのか、一洋は疑問に思います。堀北は人に勝つことが大好きで、近々行われる運動会を楽しみにしていますが、くしくもゆとり教育全盛期。運動会の花形競技である棒倒しや組体操が廃止され、堀北は本気で悔しがります。

高校時代の堀北も相変わらずで、成績上位者の順位張り出しを廃止されたことに異議を唱えています。相変わらず智也は堀北のあとにくっついており、「高校くらいになれば自分に合う友達とつるむはずなのに、気性が荒い堀北と、おとなしい智也がつるんでいるのはなぜだろう?」と、いぶかしげに思っている友人たち。

北大に進学した堀北と智也。堀北はジンパ(ジンギスカンパーティ:古くは北大の構内でできたらしい。ほんと?)の復活に向けて活動する中で、世の中をラップでdisる活動をしている与志樹や、ホームレスの支援活動をしているめぐみなど、自分と同じように世の中のあり方に疑問を唱える仲間と知り合い、「革命家の集まり」なるものを始めます。もう大学生だし、いい加減、智也と堀北の間に距離ができたろうと思いきや、堀北は「毎月会おうってしつこい友人がいる」と与志樹に智也を紹介するなど、二人の交際は続いているようです。そんな中、ジンパは別な団体の手によりあっさり復活してしまい、燃え尽き症候群になった堀北は、自衛隊に入ると言い出します。与志樹は堀北を心配しますが、智也は、「ああ、あいつそういう奴だから」と相手にしません。「南水って、堀北に対しては冷めているくせに、なんで堀北と一緒にいるんだろう」与志樹もそんなことを思います。

 

さて、ここまで読んできてわかると思うのですが、「なんで二人って仲が良いの?」っていうところがミソで、そこから螺旋プロジェクトでおなじみ、「戦う理由」なんていうものが出てきます。以降ネタバレも含みます。

平成の世の中では、海族と山族の争いなんて話はもちろん忘れ去られていますが、「帝国のルール」いう(進撃の巨人風?)漫画の流行、そして海族と山族をクソ真面目に研究した『海山伝説のすべて』という本が賞をとったことで、にわかに都市伝説として注目を浴びつつありました。そして、旧日本軍が秘かに毒ガスの研究をしていた「キセンジマ」という島と、古文書にある「鬼仙島」が同一では?なんていう説も歴史ミステリマニアには知られた話です。

続いての語り手は弓削という映像制作会社のプロデューサー。大学4年生になった智也は、大学院へ進学。堀北は、自衛隊への入隊熱は落ち着いたものの、学生寮自治を守る活動も尻切れトンボ。しかし、あるとき、「大学辞めました。キセンジマへ渡るために東京で共同生活を始めます。世界平和のために云々。ではでは!」みたいなFacebookへの投稿を最後に消息が途絶えます。

弓削は、できる後輩に押されて絶賛干され中なのですが、テレビ局のプロデューサー石橋のもとで秘かに「キセンジマへの上陸プロジェクト」を進めることになります。学生バイトの一洋(あの一洋ね)の助けもあって、「長老の声を聞ける」と自称する男が学生などを洗脳し、狭いアパートで聖戦のための準備をさせている、そして今、堀北がその中にいる、という情報をつかみます。長老への接触を試みていた弓削は、同様に潜入を希望する智也と合流し、長老のもとへ向かいます。

長老の家で言い合いになる堀北と智也。その中で、智也がずっと堀北のそばにいた理由、死にがいの意味が明かされます。

 

1.智也が堀北のそばにいた理由

智也の父は、海山伝説の研究者でした。「海山伝説のすべて」の著者でもあります。両親から、海山伝説の話と、自分が海族であること、そして堀北雄介に近づくな、と告げられた智也は、父への反感を覚えますが、堀北の攻撃的な性格を目にし、どうしようもない嫌悪感を抱く自分もいました。

成長し父の著書を読むようになった智也は、その本に書かれている特徴が自分に良く当てはまることに衝撃を受けます。しかし、心のどこかで信じたくない彼は、それを否定するように堀北に近づくように。智也は、高校生の時、亜矢奈という海族の女の子と出会い、彼女とある取り組みを始めます。それは、「堀北が海山伝説に気付かないようにすること」。堀北は争いを求める性質であることは火を見るよりも明らかであるが、幸いなことに、その原因に気付いていない。「山族は争いを好む」というお墨付きを得てしまったら、彼は暴走するだろう。何に夢中になっても構わないが、その矛先が海山伝説に関連するものになったら全力で止めよう、と二人で決めたのでした。

智也は、海山伝説を科学的に否定/証明しようと、工学部で人体について研究するようになりました。そして大学生活も終わりに近づいた今、堀北がキセンジマへの上陸を目指すと知り、彼を止めに来たのです。

 

2.死にがい

死にがいとは、「死ぬまでの時間を、自分は生きてていいんだ!って思わせるなにか」を指します。堀北は、洗脳されたふりをしていました。それは「自分には何ができるかを突き詰めた結果、洗脳され、一度は世界を救おうとまで思い詰めたが、全部を失ったあと、生きているだけで素晴らしいということに気づいた」人間になるためのアリバイ作りのため。「こういう経歴さえあればプロブロガーとして食っていけんだろ」と言います。日本にも困ってる人はたくさんいるのに、わざわざ途上国に行って謎の体験をし、判で押したように「自分の小さな力でも世界のためにできることはあると気付いた」コメントする就職予備校生みたい。彼ら、「小さな力でも~」って言葉に箔つけるためだけに行ってるよね。目的と手段の逆転。

人は生きるためになにかをしているはずなのに、いつか、「これくれらいやれば死んでもいいか」という視点で何かを探し始める、これも目的と手段の逆転です。

「死にがい」って言葉を聞いたとき、頭に浮かんだのが、独身貴族やDINKSの知人。いいもん飲み食いして、家具や食器にこだわり、「自分が幸せになれる場所を自分はすでに見つけています」アピールをしています。彼ら、自分でその喜びを見つけたように見せかけているのですが、みんな誰かの真似をしている感じがする。「こういうのにこだわるのが自分たちのような人間の正解なのだろう」と無意識に寄せていっている。

そして皆「好きなものに囲まれ、いろんなことを体験しないと。だって限られた人生ですから」と言うんですね。私はそれを「死ぬまでビンゴ」と呼んでいます。「かけがえのない友だち」「夢中になれる趣味」「充実した仕事」「旅行」「こだわりの酒」「こだわりの食」など、ビンゴカードを前にやるべきことをつぶしていく感覚。今までは定年したじいちゃんの仕事でしたが、子育てという足かせもない人は、早くから「死ぬまでビンゴ」に取り組み始める。当面は来年の五輪ボランティアでしょう。それが彼らの生きがいに該当するのか死にがいに該当するのか、ただの死ぬまでビンゴの「ボランティア」の項目なだけなのか、刮目して見よ!!

まぁ、彼らはただただまぶしい存在。幼子を持つ母親は、子どもの世話の間に自分の起きて食ってうんこして寝るをぎゅうぎゅう挟むだけで、彼らの言うところの「限られた人生の大切な一日w」が終了してしまう生物なので、生きがいでも死にがいでも何でもいいから、生命維持機能以外のことに取り組める時点でうちらは負けています。

 

二人の主人公の人生を余すことなく描きながらも、それ以外の人の苦しみや痛みも丁寧に向き合う。「今この時代を生きる苦しみ」を若者の独りよがりにならずあぶりだす、すごい作家さんだなぁと感じました。

 

と、長くなってしまったので、「戦う理由」ともろもろは後半戦に続く。

おわり。

 

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