はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

闘病をテーマにしたものでこれを超える映画にはなかなか出会えない 映画「マイベストフレンド」

こんにちは。

原題「Miss you already」。邦題は「マイベストフレンド」です。

乳がんとの闘いをテーマにした作品ですが、演技も構成も、闘病ものとしては一級品の出来。Miss you alreadyは別れ際の挨拶で「まだ一緒にいたいわ」という感じかな。個人的に原題がかなり気に入っております。

 

マイ・ベスト・フレンド [DVD]

 

さて、主人公はジェス。そして親友のミリー。彼らは小学校からの親友同士。ジェスは普通の家庭で育った普通の女の子。読書家で、どちらかというと地味。ミリーは母親が大女優。きれいなブロンドヘアー。自分大好きです。ジェスとミリーは真反対な性格。ミリーは見るからに敵が多そうで、ミリーのわがままでジェスをさんざん振り回してきたんだろうなぁというのが想像できます。

ファーストキスも同じ日に(同じ相手と!)、ミリーの初セックスにはジェスが立ち会う(!!!)など二人は仲良し。ミリーは早々にバンドマンとデキ婚し、一男一女をもうけています。旦那は会社を立ち上げ、ミリーは大企業の広報部でバリバリ働くなど、絵に描いた裕福な幸せ家庭。ジェスは炭鉱夫?と結婚し環境保全NPO?的なもので働いていて、なかなか子宝に恵まれない。ミリーはいつでもジェスの先を行っているし、客観的に見てミリーのほうが幸せ。ミリーもそれを自覚している一面があり、この二人の関係は、対等というよりは、破天荒なミリーにジェスが付き合わされている部分もある気がします。ジェスは心が広いしなんだかんだ言ってミリーが好きなので、楽しくやっていました。

そんなときミリーに乳がんが発覚します。抗がん剤による容姿の変化と、乳房切除によって落ち込むミリー。順風満帆な人生を送ってきたミリーが初めてぶつかる壁。しかも、自分が最もこだわってきた「見た目の美しさ」が失われていく。自信を失うミリーと、それに寄り添おうとするジェス。そんな中、ジェスの妊娠が発覚し…

 

大きいテーマや教訓はありません。ただ、癌との闘いを扱った作品としてとにかくリアルで素晴らしい。告知、再発のタイミング、ミリーの取り乱し方、受け入れ方、周囲の反応、すべてが自然。闘病ものにありがちの、衰弱しているはずなのに瑞々しく美しい患者や、癌だとわかったとたん優しく懐深くすべてを受け入れてくれる夫や友人。未就学児のくせに癌や死を理解しているような顔をしている子ども。そんな浮世離れした奴らは出てきませんし、「みんな...あ…りが…と…」などとわざとらしく絶命もしません。

幼いころから確執があった母親は、乳房再建や乳房切除が分かりにくいブラジャーの調達に熱心。夫は優しく接していますが、裏ではミリー公認で浮気中。息子は病気のことをどれだけわかっているんだか、母親の神経を逆なでするようなことばっかり。そんな中、ジェスはミリーを受け入れています。もともと懐が深い女性なんでしょう。ただ、ミリーの再発と同時に発覚した妊娠をなかなか伝えられない。余命を告知されて荒れていくミリー。今までならいくらでも付き合ってあげられましたが、妊娠中の体では無理もできない、したくない。

 

闘病は2時間の映画ではまとめられません。周りの無理解に苦しんだり、周りも緊張の糸が途切れ、患者を疎ましく感じる時もある。「私は患者なのよ!」と何度もキレるミリー。闘病とはきれいなものではなくて、人間のむき出しの感情がぶつかりあうものかもしれません。闘病により夫婦の絆が深まったわけでも、忘れかけていたものに気付いたわけでもない。価値観ががらっと変わったわけでもない。ただ、大切なものを失っただけ。

 

そういう闘病そのものを描いた作品として、これを超えるものはなかなかないのでは、と感じました。りにかくミリー役の女優魂が素晴らしい。どんどんやつれていく姿に、ここまでやるか!と衝撃を受けました。

 

親友っていいな。

おわり。