はらぺこあおむしのぼうけん

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やっぱり作者は主人公を助けてしまうのか。救いの光ほとばしるラストがちょーーーっと微妙な「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~B面~(ネタバレ)

こんにちは。

 

前回、ベンの成長、ベンとエイミーの関係の修復という面からレビューした「ロボット・イン・ザ・ガーデン」A面。今日はB面です。(もはやA面/B面は死語でしょうか。私とてMD世代w でも、A面とB面以上にぴったりくる言葉が見つからない)

 

dandelion-67513.hateblo.jp

 

ロボット・イン・ザ・ガーデン (小学館文庫)

大人向けファンタジーとして良作であるし、もちろん、記事に書いたことは嘘ではありませんが、とはいえ、ラストは個人的にすごく微妙でした。ベンに救いを与えすぎなんですよね。

以下は配慮のかけらもないネタバレ・卑屈なレビューなので、本を読む前の方。そして、「感動した!最高!!!」と思っている方は回れ右。


まず、タングの修理の話。ベンとタングが世界半周した理由。それは、どーんなロボットオタクも、開発者以外にタングの修理は不可能と判断したからです。特に中心部分にあるガラスのシリンダーとその液体が何かよくわからない。それでわざわざタヒチまでやってきた。タングの開発者ボリンジャー。かつてはロボット研究の権威でありながら極秘の研究で大事故を起こし、タヒチで隠遁している老人です。と聞けば、すり切れたジーンズとボロボロの麦わら帽子かぶって、ポンコツロボットに身の回りの世話をさせながら、「もうカラクリなんてどうでもよくなったわ!わしは自給自足するんだ。イモ食って屁して寝る!」と言っていそうな年寄りを真っ先にイメージしますが、そんなことはない。俺はもう一発花火上げてやるとぎらついたジジイです。

無人島にそぐわない、先進技術を満載した家を建て、その中で研究に没頭しています。彼は、自ら学んでいく、いまだかつてないAIチップの開発に成功し、そのプロトタイプを搭載したのがタングだったんです。AIチップに学習させるためだけに急いで作ったから、タングはゴミを集めたような姿だったんですね。そしてAIチップだけ取り出して捨てるつもりだったと。ロボットへの愛なんて何もない。

「この秘密を知ってしまったからには生きては帰さん」と、悪人に使いまわされたセリフを吐き、ベンたちを閉じ込めた老人。しかし、命からがら逃げだします。ただ、タングの設計者のもとを逃げてきたは良いけれど、もともと懸念されていた修理や維持管理の問題はどうなる?タングは死んじゃうの?とハラハラしていたら、「自分で直せるよ!」と言い出したタング。おそらく旅の中で自分の構造を思い出したようなのですが、怪しげな液体はサラダ油だよ!壊れたら新しいシリンダーと取り換えっこすれば大丈夫だから!!だから、これからもボリンジャーの手を借りなくても一生一緒にいられるね!という流れになるんですね。どこにでもあるサラダ油で、シリンダーも特注品じゃなくて簡単に交換可能だと…?

もちろん嬉しいけど、随分あっけない。「開発者は悪い奴だけど、そいつしか直せない。自分がタングの構造を理解しない限り…悔しいけどタングの命は握られてるんだ」みたいな設定あってもワクワクするんだけどなぁ。

 

続いてエイミーとの関係。復縁を目論むベンに対し、実は恋人がいるから別れようと思ってたの…と後だししてくるんですね。しかも一緒に暮らしていると。離婚の理由て、子どもが欲しくなったかったからじゃねぇじゃん!新恋人の子どもが欲しかったからだろうがよ!!スポーツ選手のような体格のハンサムマッチョに、ベンは完膚なきまで叩きのめされます。

復縁は難しかろう…とあきらめ、タングと二人の生活を楽しみはじめたベンでしたが、ある日エイミーが訪ねてきて妊娠の事実を告げます。「微妙な時期で、時期もかぶってたし、あなたかロジャーの子どっちかわからないの…。あなたは変わったわ。あなたの子だったらいいなぁ」なんて言い始めます。その時は「どうせロジャーにも同じこと言ってるんだろ」と皮肉る余裕があったベンでしたが、根は優しくてぼんやりしたモップ頭。だんだんその気になってきて、エイミーが子どもを連れて泊りにきたときのためにと子ども部屋まで用意し始めるなど。実家かよ。

ベンの幸運はこれだけに止まりません。

・ロジャーが出張で出産に立ち会えず、ベンが立ち会う。

・エイミーとの暮らしのために出張先で働いていたロジャーはすでに悪役感漂う。

・産まれてきた女の子は見るからにベンの子。モップ頭Jr.

・エイミーとロジャーはその晩に別れる。

・でも別に子どもの父親が云々というわけではなく、もともとロジャーは結婚に興味なくて、やり手の弁護士の彼女というブランドが欲しかっただけという薄情な男らしい。

・うちで暮らそうか?子ども部屋もあるし。

という流れに。

 

エンディングに向けての花道が盛大に用意されていて、あっけなく諸問題が解決されるところがすごーーーーーーく微妙です。タングの修理が素人でも十分可能だということが判明したり、ロジャーがいきなり悪人化することで元サヤへの罪悪感をなくすあたり特に。今までの300ページ何なん??

もし…ベンの子でなければ?ロジャーがベン以上に思いやりのあるいい男だったら?タングの命が狂った老人の手を借りないと維持できなければ?大人向けのファンタジーならば、そういう毒を一つくらい残しておいても良いのでは?

 

さて、不貞行為はあったけれども、運良くベンの子どもだったし、ロジャーはボロカスに言っても問題ない感じだし、タングは永遠の命を獲得したし、見事、人から羨まれる女への復活を果たしたエイミー。エイミーが高級志向で、夫の愛車のホンダ・シビックはガレージに隠し、わざわざ家の前にピカピカの高級車を止めて、週末はセレブ友達とホームパーティーをするのにご執心だっていう設定覚えてました?

実は、エイミーという問題は依然残っているんですよね。そもそも、自分が不倫しておきながら、「あなたのせいだ!」といきなり家出して間男と暮らし、妊娠したらしおしおとモップ頭のところに戻ってきて、元サヤに戻れそうと踏んだらさっさと間男を捨ててそいつをクソミソに批判する。このエイミー問題は解決しないま、これからもやっていけるの?なんて心配してしまう。そもそも妊娠してなかったらイケメンエリート男と、ずっとほしかった高機能アンドロイドと幸せな家庭を築いていたのでは…なんて。そりゃ、産後のごたごたがあるうちは無職のモップ頭の優しさが身に染みると思いますが、どうなの?3年も経てばハンサムマッチョが欲しくなるんじゃないの~?とデリカシーのかけらもないコメントをしたくなる私。イケメンかつやり手の外科医のロジャーは、エイミーが最も求めていた男性像だったはずなのに、いきなり当て馬にされた感あって哀れ。

最近も芸能人でいたような。不倫をすっぱ抜かれる前に「子どもの考え方ですれ違いすでに離婚してました。元夫の公認。不倫じゃありません」アピールした人。それと同じくらいの性悪さを感じますが、そこは、だ、だ、だ大丈夫なのベン?本当に水に流せる?とオドオドしてしまいました。ベン的には、自分以外の男とよろしくやっている姿を想像しながら寂しく独り寝をするくらいなら、やっぱりより戻しておこうか的な感覚なんでしょうか。

 

自分が変わることで変えられるものももちろんあります。しかし、やっぱり変えられない事実もあるし、変えるためには遅すぎることもあります。もちろん、地球を半周しようが全てを変えることはできなくて、変えられるのは自分の一部だけ。

エイミーが一時的に態度を軟化させたのも、子どもの父が自分だったことも、ロジャーが体良く消えてくれたことも、実はただの幸運なのに、それもこれも旅のおかげ!タングのおかげ!これから俺たち超HAPPY!とまとめちゃう感があって、いくら何でもきれいに仕上げすぎでは。という気がしました。やっぱり作者は主人公に肩入れして幸せを用意してあげるものなんだろうか。

 

私が欲しいのは毒だよ!ドロドロしたのくれ!という気分になりました。とはいえ、それを差し引いても、いい話でした(なんのフォローにもなっていないけどw)

おわり。

 

 関連作はこちら。

ロボット・イン・ザ・スクール (小学館文庫)

ロボット・イン・ザ・スクール (小学館文庫)

 
ロボット・イン・ザ・ハウス (小学館文庫)

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