はらぺこあおむしのぼうけん

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結末は読めているんだけどページをめくる手が止まらない。英国版ドラえもんの実力やいかに? デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~A面~

こんにちは。

 

最近話題になっていて、本屋さんでも平積みされているコレ。

デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」です。英国版ドラえもんと書かれて絶賛されていましたが、さてさて。

ロボット・イン・ザ・ガーデン (小学館文庫)

 

舞台はイギリス。無職男のベンは、有能な弁護士である妻エイミーから白い目で見られています。「働いたら負け」的なことをのたまい、主夫を名乗る割には、家事をなーんもしないで書斎にこもってばっかり。ただ、ヒモではないんです。両親から少なくない遺産を相続して働く必要がないし、そもそも家は彼の所有物ですから、妻としては余計始末に負えない。そんな時、家の庭に1台のロボットがやってきました。エイミーが捨てろというのも聞かず、こわれかけのロボット(タング)に心奪われているベン。ついにエイミーは、離婚を切り出して家を出ます。傷心のベンはますますタングとの交流に夢中になりますが、タングの胸のシリンダーは壊れかけている…出不精のベンでしたが、タングについていた消えかけの文字(Micron...)を頼りにタングを直す旅に出る…!

この世界は、炊事や掃除洗濯などができるアンドロイド(洗濯なら洗濯、掃除なら掃除と1個だけ)が普及し始めた時代。と言ってもまだ中流階級~上が手にできる代物で、ルンバの発売当初に近い感じ。粗削りで未完成な部分は多いんだけど、とりあえず持っているだけでスゲーみたいな。付き人とかキャディー、運転手とかいうもっとすごいアンドロイドも一部の富裕層に広まり始めています。これを近未来SFという表現もできるのですが、1960年台からAI研究だけがぐんと進んだとすれば、2010年くらいにはこんな感じになっていただろうな~みたいな印象。つまり、パラレルワールド。というのも、人と人との連絡手段とかスマホとか、車だって自動運転は取り入れられていないし、ロボット以外の小道具は今と全然変わらないからです。

Micron…という文字から、マイクロンシステムズというアンドロイドメーカーではないかと推測し、まずはイギリスからサンフランシスコに。そこからある人を頼りテキサスへ。そして東京へ。最後はパラオに。という地球半周旅行をしたベンとタング。パラオでやっとタングの開発者に出会い、タングの修理をしてもらいますが、それがなんと狂ったジジイでまあ大変。部屋に閉じ込められて危機一髪のところで難を逃れます。

こんな長旅をする中で、ベンはエイミーとの関係を見直し、イギリスに戻ってきたときにはひとまわりもふたまわりも大人になっていました。そしてエイミーとヨリを戻してめでたしめでたしというストーリー。ベンが旅に出る前から、というか裏表紙の概要を読んだ時点でこういう結末は読めているんですが、面白い。

 

著者は子育て経験ありの女性ということで、タングは幼い子どもそのもの。ダダをこねればベンが言うことを聞くとわかっているから、すぐに金切り声をあげるんですね。ベンはそんなタングにイライラしたり、かわいいと思ったり。「子どもなんていらねぇ」と思っていた彼も成長していきます。

ベンっていうのは、自分のことを「何をやってもダメだと思っているから、もう挑戦しなくなった」人間で、「一つのことに集中できずに気まぐれに何かをはじめて、そして飽きて次にいくような」人間と自己分析しています。他人には「人生を後悔の積み重ねで終わらせるつもりですか!」と説教したりするんですが、本当にそんな生き方が正しいのかはよくわかっていない、だって自分ダメ人間だし、と自信のない人間。

彼の無気力や自信のなさには実は原因があって、それは、両親の死。両親はもともと冒険好きでしたが、子どもが幼いうちは我慢していました。子どもが成人してから「いつ死んでも結構!」と危険な旅に出て、それで本当に帰ってこなくなった。人生これから(といっても28歳)という時に両親にいきなり死なれて結婚式や孫を見せられなかった、そして優秀な姉に幼いころからコンプレックスを抱えていた…。ベンは誰かに「よかったね!」「すごい!」と認められたかったけれども叶わなかったし、妻に選んだのも自分より格段にできるヤツだったし、と、無気力感を抱いていたようです。(まあ、それは半分正解。残り半分は、中途半端な小金持ちのせいで勤労意欲が低いのに加え、もともと気が小さいだけだろうと私は思っていますが)

子どもがいると「無理だ」や「やーーーめた」ってなる瞬間はたくさんあるし、子どもの「おなかすいた」や「おしっこー」は最優先事項ですから、否が応でも変わっていきます。そして子どもは親を無条件に愛し信じてくれる。ベンもタングという存在を得て、人として成長していき、無気力症候群を脱していきました。

 

そしてエイミーとの関係。結婚当初は子どもなんかいらないねと話していた二人ですが、エイミーの気持ちは変わっていたようで、「あんたがこんな父親じゃ子どものことなんか考えられないじゃない!」と怒られびっくりします。

こんな言葉が印象的です。自分の後ろをぽてぽてついてくるタングに「どこ行くの?」「なんで?」と聞かれたベン。いちいち説明すんのめんどくせぇなと思った時、「エイミーと自分。どこに行きたいか?行き先は変わっていないか、確認することを怠ってきたな」ということに気付きます。夫婦ならば、何も言わなくても、タングのようにどこまででもついてくると思っていた。しかし、そういうわけではなかったんだ。と。「結婚は見つめ合うことではなく同じ先を見つめることだ」みたいな言葉がありますが、まさにそれ。同じ方向を見ているか、相手が見つめているものは変わっていないか。「夫婦ならわかるだろう」ではなく、言葉にして確認する必要があるのでしょう。

ただ、ベンとエイミーという組み合わせが最良なのかは謎です。おとなしいベンに比べてエイミーはインスタでセレブアピールする妻そのもの。飛行機もビジネスクラス、隙を見せればすぐにホテルの部屋をスイートにアップグレードするなど。「子どもなんていたらこんな楽しいことできないからね」なんてにっこり。実は、離婚騒動の裏には、エイミー、お前最低だなと言いたくなる事情があったのですが、それはお楽しみ。

 

ベンがモップ頭という表現は何度も出てきます。古今東西、漫画やアニメにモップ頭のキャラで、冷酷無比な人間がいないように(本当かな?)、彼もぼーっとした優男。やさしさがウリなんでしょうが、結構イライラする。

例えばタングをホテルにおいて一人で飲みに出たシーン。アメリカでは、ロボットを一人で置いて出かけることは、虐待行為として禁止されています。それを知らずに警察沙汰になり、警察官にこってり絞られました。ロボット置いてくなんて最低!とののしられたベンは、「俺はタングを愛しているのに、その気持ちは周りの人に伝わらない。。。こんなに愛しているのに。。。」と心の中で逆ギレし被害者面。そうじゃないだろ、子育てってそういう我慢の積み重ねだし…とイライラ。

と、まぁここまではギリギリ許せるんですが、東京でも同じことをするんですね。今度は鍵をかけ、フロントにも「置いていくからよろしく」と声かけていくのですが、ほんと、わかってない。アメリカのこと忘れたか!と聞きたくなります。

また、タングの開発者に面会するにあたり、自分で直せないならば開発者のもとにタングを置いていくしかないだろうと決心するベン。最後の思い出作り!と、数日前まで長旅の疲れとタヒチの熱気にやられてオーバーヒートし、意識朦朧、死にかけていたタングにグラスボートの旅をプレゼントします。だから熱中症になると言っておろうが!!!とブチ切れそう。

子どもを二度も置き去りにしたり、最後の思い出作りにタングが死ぬのも構わず日光の前に引きずり出すなど、自分本位なんです。

ただ、こういうベンが変わっていくのも(おそらく)この物語のウリなのでしょう。のび太君を見守っていく気持ちでのんびりいきます。とはいえ、のび太くんよりも陰湿な部分はありますが。

 

著者は日本に来たことあるのかな?と思われる描写も多々。

金切り声を上げるロボットに好意的な目線を送る。人気者になれる。ずっと歌っているロボットにまわりはイライラしているようだが、何も言われない。フロント係が世界一優しい!!!と感動しきりです。ただ、日本人から一言「それはお前が英国人だからだよ」と突っ込みたい。日本人は日本人に対してはびっくりするほど冷たいけどな。外国人には基本的にはイエスマンで、おもてなしというかもはや委縮なんですけどね。

 

と、簡単に言うと「旅で吹っ切れた!」っていう話です。もちろん面白いし(一気読み3時間くらい)、タングの行動がかわいいし、AIと人間の在り方についても考えさせられる部分はありますが。絶対面白そう!と自分で勝手にハードルを上げたのも悪いけど、ちょっと薄かったかな。。。という。あと微妙な下ネタが気持ち悪い。

ベンとエイミーが実際このあとうまくいくかは未知数だし、ベンのやる気もどれだけ続くんだろう。何て思いましたが、今日はA面でおしまい。B面では結構ブラックな話をしていきたいと思います。

 

おわり。

 

これは連作で、「スクール」が出たばっかりだそうです。続けて読んでみたいと思います。

 

ロボット・イン・ザ・スクール (小学館文庫)

ロボット・イン・ザ・スクール (小学館文庫)

 
ロボット・イン・ザ・ハウス (小学館文庫)

ロボット・イン・ザ・ハウス (小学館文庫)