はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

憎しみを持つのは結構。しかし憎しみを争いの理由にしてはいけない。 乾ルカ「コイコワレ」

こんにちは。

 

8人の作家が、日本開闢以来の海族・山族の対立を描く壮大なプロジェクト「螺旋プロジェクト」2作目(私の中で)です。3月くらいから始まった気がするので、おそらく全部出そろっているかな?

読書においても偏食家というか食わず嫌いが激しい私は、安心安全の伊坂幸太郎森見登美彦、個人的当たりはずれが大きい恩田陸をおそるおそる、そうして最近様子見中の万城目学の4人しか読みません。もう少し好きな作家の幅も広がるかな?という下心を持ち、この螺旋プロジェクトを読破しようと思っています。

 

コイコワレ (単行本)

昭和前期。第二次世界大戦の時のお話。

主人公は清子。6年生です。東京で母と二人暮らしをしていますが、空襲が次第に激しくなり、学童疎開宮城県に行くことになりました。

 

螺旋プロジェクトでは海族・山族の対立が描かれるのですが、基礎知識はこう。日本人には、海族と山族がいます。紅白戦みたいに全員が海・山と別れているのではなく、ほーんの一部に海族と山族の血が脈々と受け継がれているんですね。見分け方は、蒼い目ととがった耳。彼らは遺伝子レベルで互いを嫌悪しており、近づくだけでビリビリっと感じます。海族と山族で子どもを成すことはできない(らしい)。

嫌悪レベルは小説家によって違うようで、伊坂幸太郎は、同居している嫁と姑の間に海山関係がありました。同居ができるくらいですから、何かにつけて気の合わない人程度かと思っていたのですが、「コイコワレ」ではもっと激しい、吐き気を催すような嫌悪でした。

 

さて、清子は疎開先の寺で宿敵の山族リツと出会います。夜、月あかりを頼りに勉強をしていた清子は、寺の青年健次郎に母への思慕を語り、二人は次第に親しくなる。リツは健次郎に恋をしていましたから、清子の存在をどうしても許せません。

ある時、健次郎の招集が決まりました。リツは清子が大切に持っているお守りを健次郎にあげられないかと懇願します。本能的に反発しあう二人は、互いを徹底的に避けていましたが、初めての接触でした。すげなく断られたことで逆上したリツは、清子のお守りを奪い、二人の間に決定的な亀裂が入ります。滝つぼに清子を突き落とすリツ。

明確な理由がなくても憎みあってしまう二人。この気持ちをどうしたらよいのか。迷う若人に、リツの育ての親、清子の母がそれぞれアドバイスをするんです。人はなぜ争うのか、心の中の憎しみをどう扱うか。戦争の無意味さを絡めて、二人を温かく導いていく。

 

っていう、非常に説教臭い話。素晴らしいと思います(棒読み)。みんな怪しいくらい親切で、人の世の理不尽さとか生々しい感情に触れる出来事はないので、スレた大人は白湯飲んでる気分に。カフェインたっぷりの濃いアイスコーヒー飲ませろや!!ってなる。

 

教えはこうです。

1.憎しみを他人にぶつけるな。他人にぶつけてしまいそうになる自分と戦え。

2.嫌いな人にこそ丁寧に礼を尽くせ。

あとは「憎しみを他人に向けて争いの理由にするのは弱い奴」「この戦争は無意味だと思っています(小声)」「国と国とが争う意味とは…」とか、皆さま饒舌なんですね。

教えは正しいし、批判するほどのネタを持っているわけではないので、この教えは放置しておくとして、それができないから苦労してるんじゃない?もっというと、それができないから本を読んでるんじゃない?なんて思いました。やれって言われてできるほど素直じゃないし…

ただ、嫌いな人間は少ないほうがいい。嫌いな人間がいると、アイツを見ないようにしようとそっぽを向いて歩くようになり、必然的に視界が狭くなるからです。気が合わない人間相手にも、嫌いオーラを出さず、支障なく付き合えるような大人にはなっておきたいですね。

 

あとは、時代のことをどれくらい取材したんだろう~と感じ、あんまり入り込めなかったです。寺の大人は慈愛に満ちているし、意地悪同級生も改心するし、理想的な世界。また、「戦争は負けるらしい」とかいう話を少年たちがしていたり、大人が戦争の是非について饒舌に語るなど、現代の価値観が反映されている世界で、どれだけ当時の状況に近かったのかなぁと感じました。憲兵に見つかるよりも隣人の密告のほうを恐れていたような相互監視の世界だったから、もっとギスギスしていたんじゃないの?

と、膨大な記録、語り部がまだ存命の現代を舞台にした小説は、ついつい見方がシビアになってしまいます。螺旋プロジェクトには原始時代が舞台のものもありますから、そういうマンモス追っかけていた時代については時代考証とかどうでもいいけどw

 
とはいえ、母の愛には泣かされた…清子とその母、健次郎の母。そのほか、疎開先に食べ物を持参する母親たち…千と千尋のおにぎりに弱い私は、そういうシーンにいちいち泣かされるんです。

今は螺旋プロジェクト、中世の「もののふの国」を読んでいます。

 

昭和後期、近未来はこちら。

dandelion-67513.hateblo.jp

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おわり。