はらぺこあおむしのぼうけん

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すっかり忘れていた高校生の思考回路を思い出す ヤングアダルト小説「エブリデイ」

こんにちは。
ご紹介するのは、ヤングアダルト小説「エブリデイ」です。

ヤングアダルト(YA)小説っていうジャンル知ってましたか? 私は実はこれを読むまで知らなかったのですが、図書館にもYAコーナーができていて、冒険譚やファンタジーばかりの児童書でもなく、疲れ切った大人の愚痴を並べた大人向け小説でもない、あと一歩で大人という中高生向けの小説です。子ども向けといいますがなかなかあなどれない。何を持っていなさそうで実はすべてを手にしているあの懐かしい日々が思い出される、大人が読んでも興味深い。

 

エヴリデイ (Sunnyside Books)

 

主人公はA。彼は生まれつき特殊な環境に置かれています。それは、毎日誰かの体を生きること。自分の肉体はなく、魂だけ。便宜上Aと自称しています。体を借りれるのは、限られた場所にいる同い年の人だけ。なので、「彼は一昨日体を借りた人だなー」と結構狭いコミュニティの中にいます。同じ人には二度とならない。貸し主は、体を乗っ取られたはっきりした記憶はなく、なんかぼんやりした記憶が残る。

 

あるときAは、ジャスティンという男子として過ごします。ジャスティンにはリアノンという、ザ優等生的な彼女がいる。ジャスティンはリアノンのことを大して好きではないんですね。どちらかというとうざいと思っている。でもまぁ、好きな時にセックスできるし、ジャスティンにぞっこんなリアノンは言うことはなんでも聞くので付き合いは続けています。Aはジャスティンとして過ごした一日で、リアノンのことが好きになります。毎日体が変わってしまうわけですから、恋なんて感情を持たないように努めていましたが、気持ちの高ぶりは止められない。リアノンに全てを話し、自分の気持ちも伝えます。

 

一昔前なら、毎日他人の体を生きる男は、日記なんてものを持てませんし、リアノンと連絡も取れない。しかし今はグーグルがある!毎日グーグルメールで日記を書き、自分宛に送ることで、彼は自分として生きてきた記録を残しています。そしてリアノンに事情を話した後は、グーグルメールで、「今日は男だよ」とか「今日は親厳しいから連絡取れないかも」とやり取りするんですね。

リアノンに恋をする前Aは、貸し主の人生に何の影響も与えないように、そして、自分の生きてきた痕跡をできるだけ残さないように生きていました。しかしリアノンと出会ってからは違う。朝起きた瞬間から今日はどうやってリアノンに会おうかと考える。次第にリアノンもAのことが好きになります。二人が付き合い?はじめてから少し経った後、私たちの関係どうするの?とリアノンに問いかけられるA。毎日住む体を変えている男とは普通の人生を歩むことはできません。でも、ひと時の恋では終わらせたくない。何か形を残したい。そんなときAと同じ運命の男と出会い、実は貸し主の体を乗っ取れるかもしれない、という可能性を見つけます。彼らの選択はいかに?

 

私はティーンエイジャーではないですから、正直「今一歩覚悟が足りないなぁ」と思いました。特にA、覚悟が足りない。Aはリアノンが好き。愛している。かといって、自分の運命を持て余し、何をどうしたらいいのかわからないんです。リアノンを傷つけるのも怖い、自分が傷つくのも怖い。自分から猛烈アプローチした割には、いろんなことに及び腰なんです。おばちゃんは、しっかりしろとイライラしてきますw

例えば、リアノンと二人きりになるシーン。その時Aは童貞ボーイの体の中にいました。やっとセックスができる!そんなチャンスの時Aは「やっぱやめておこう。彼(貸し主)は童貞なんだから、こんな形で初めてを奪ってしまってはいけない」とか言ってやめるんです。こんなチャンス二度とないかもしれないのに、踏み込めない。リアノンなんて、毎日のように違う男とデートして授業さぼりまくって、友人からはビッチ扱いされて完全にドン引きされてるんですよ。それでも好きだからAに会っているのに。好きな女にそこまでさせて、なんでお前は、自分のルールも罪の意識も捨てられねぇんだよ、と。いつ会えなくなるかわからないんだ。地獄に道連れにするつもりで愛してやれ。それがお前が去った後のリアノンの一生の思い出になるんだよ、と。

ただ、二人の選択も含めて、これが等身大の高校生の愛なんですよね。地獄に連れて行くつもりで愛すのではなく、曇りのない未来を残してあげる、という愛。私が思い描いた結末にしてしまったら、劣化版世にも奇妙な物語で終わってしまうような。

 

大人から見て高校生は、時間も夢も可能性もあふれている幸せな存在ですが、思い返してみると金ないし、門限はあるし、家計簿を見ている母親に地元の国立大学に行きなさいねとか言われたりして抑圧されている。そもそももっと遊びたいし視野も広げたいし、私にはどんな未来があるんだろう。と、心の中では将来への期待が8割くらいを占めているんです。念頭には「まっしろな将来」がある。Aが弱気になってしまうのは、リアノンが伸びしろしかない存在だからです。リアノンの将来を気にかけている。

大人が将来を思うとすれば、もはや子どもの教育資金と老後資金の貯蓄程度のものですから、もうこれ以上ないという愛に出会ったら飛びついて悔いを残さないように愛し合うものですが、そういうわけにはいかない。だって高校生だから。

と、初読で感動。そして、どうしてこういう結末になったんだろうと熟考の結果、すっかり忘れていた高校生の思考回路を思い出して二度感動してしまいました。

 

そんなリアノン、Aがイケメンに憑依しているときと、デブ男に憑依しているときとあからさまに態度が違うんです。そういうのも含めて、高校生らしいなぁと面白かったお話でした。

 

おわり。