はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

みんな心に「熱帯」を持っている「熱帯」森見登美彦

こんにちは。

本屋大賞候補作。続き。こちらは直木賞候補にもなりましたね。

 

熱帯

 

 

 

これは、本探しの物語。主人公は昔読んだ記憶のある「熱帯」という本を探しています。若き頃、アラビヤ書店という屋台のような古書店で購入し、途中まで読んでいたのは覚えているのですが、結末を読む前に紛失し今に至ります。同様に「熱帯」を追い求めている同志が複数いることがわかり、彼らと共に「熱帯」がどんなストーリーであったかを思い出すことにします。

しかし同志といえども不思議な人たちで、それぞれなにかを隠しているように思われ、信じられる仲間なのかどうなのか互いに疑心暗鬼に。そんな中、メンバーの一人であるマダムがいきなり脱退、失踪。彼女を追い京都まで向かう主人公。実はマダム、若き日の「熱帯」の作者を知る人物でした。はてさて、「熱帯」は見つかるのか。そして「熱帯」はどんな話なのか。というものです。

 

さてみなさん、私は探している本が2冊あるんです。下記の本をWANTEDしておりますので、思い当たる方はマジで連絡くださいw

一つは、ナントカ文庫と呼ばれる童話集。薄緑の布張り、金の箔押し、15cm四方で、シリーズで何冊もあるものです。額に印のある子どもが川の上流から流れてくる話とか、3人の魔女が未来を予言する話とか、ありふれた古い童話がまとめられている本で、小学校の図書館にありました。転校初日、クラス委員的な秀才の女の子が薦めてくれて出会って以来、何度も借りて読みました。今になってもう一度読んでみたくなって探しているのですが、見つかりません。

 

もう一つは、薄くてすごーい古い本。初心者向けの英語学習教材です。切り裂きジャックとか暗殺事件とか、外国の未解決事件が平易な英語で紹介されている本で、少しだけ日本語で解説が書いてあります。中学生の時に買ってもらったのですが、怖い話を英語で書いてある、そして日本語の言葉遣いもなんだか古めかしい、という気味の悪さがクセになり、こわごわとページをめくったものです。手元に置いておきたくて実家で探したのですが、もう見つからないのかなぁと思っています。

 

10年近く探しているのですが、思い出せば思い出すほど、どんな本なのかわからなくなっていくんですね。しかも、実際に手元にあった時よりも美しい思い出に書き換えられているはずで、運良く再度手にすることがあった時はきっと、あれ?ってなると思いますが。

 

さぁ、なんでこんな話をしているのかというと、みんな一冊や二冊、また読んでみたいけどもうタイトルも作者もわからず、半分諦めている本を心の中に持っているんじゃないかなぁと思うからです。そして「熱帯」というのは突拍子もないSFではなく、本好きなら一度は経験している本探しを冒険譚化した小説なのではと感じたからです。

 

本というのは、同じものを読んでも人によって感じ方が大きく違います。都合の良い部分だけ自分のいいように解釈されたり、些細なエピソードだけが記憶に残ったり、実際、結末ですらも曖昧。アニメや漫画よりも、本人の想像に委ねられる部分が多いため、読み返した時に、あれ?こんな話だったかな?と感じる。人と話した時に、そういう話だったっけ?となる。そんなものだと思います。

「熱帯」は、同じ本を前にしても、記憶や思い出は人それぞれ違う。同じ本といっても、読者の心の中では別ものになっている、そういう特性を書いた小説だと思います。少なくとも私の中では、今はそう解釈されています。

 

読書って、本当に面白い。読書という行為、本そのものの特性を丁寧に紐解いた、そういう小説です。きっと。

他の読者の皆さんはどう感じましたか?みんなで沈黙の読書会しませんか?w

 

おわり。

 

dandelion-67513.hateblo.jp