はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

未来を救うのは過去の記録。面白い本を大切に。 吉田篤弘「天使も怪物も眠る夜」

こんにちは。

螺旋プロジェクト未来編 吉田篤弘「天使も怪物も眠る夜」です。

天使も怪物も眠る夜 (単行本)

約60年後の東京の話。東京は大きな壁で二つに分断されています。東京には不眠症が蔓延し、睡眠導入にふさわしい本、いわゆる全く面白くない本が流行し、 夜を徹して読んでしまうような面白い本は焚書の憂き目にあっています。つまらない本を書き散らす作家マユズミという男が主人公。ある日マユズミのところに、書いた覚えのない「眠り姫の寝台」という本が届きます。発行日は自分の誕生日。彼は、この本の謎を探り始めます。

他にもいろんな人が出てきます。

探偵のナツメは、何とも風俗店のような「個室でゆっくり眠れる(眠らせてくれる)お店」で、「みんなに『姫』と呼ばれて愛されている、ミイ(美衣)という女が消えた」という噂を聞く。手掛かりは「眠り姫の寝台」という本。ナツメの名誉のために言うと、このお店、厳密には風俗店ではありません。眠れる薬「ゴールデンスランバー」を口うつしで飲ませてくれるお店です。(なんのフォローにもなってないけど)「ゴールデンスランバー」もこの作品の重要なモチーフです。

ナツメの弟のシュウは、睡眠コンサルタント「ドリーム8」で働いている。「今、躍起になって眠れる薬が求められているが、じきに眠くて眠くて仕方がない時代が来る。その時に備えて、眠りを覚ます薬『王子』を開発しろ」と命じられ、参考のために「いばら姫」という本を読み漁っている。

トオルは、「眠り姫の寝台」という映画のポスターを目にしたとき、ヒロインに一目惚れ。制作が中止されたという映画の手掛かりを探している。

焚書されそうな面白い本を密輸する「ロンリー・ハーツ読書クラブ」、それを追う「ガーデン」という組織のゴヤ

 

いろんな人がそれぞれの目的で「眠り姫の寝台」、「ゴールデンスランバー」を追い求める中、意図しないうちにみんなの力が合わさって、「姫」を目覚めさせる!というお話。怪しい人がどんどん一つの場所に集まってきて何かを実現する系の話、好き!動物失踪事件、八王子=八人の王子などのモチーフも面白いです。

 

この小説、レイドバックという施策のために、先進技術を捨て、昔に戻っていこうとしていく設定なのですが、レイドバックが施行される前には、未来の余地が可能になっていたとされます。「眠り姫の寝台」というのは、未来を予知した予言の書なんですね。一部の未来を知っている人が、その存在を隠し、消そうとしている。過去の記録も消されていたり、閲覧の手続きが煩雑になっていたり、「何か」を隠しているな、という感じがします。その中で「未来を救うのは過去」という言葉が出てきます。未来を知る技術を奪われた今、過去を振り返り、そこから学びとって未来に対応していかないと、人は同じ過ちを何度でも繰り返してしまう、と。

 

で、肝心の「海」と「山」。マユズミは海、眠り姫も海、スキンヘッドのオーケストラ団員のホシナは山、ゴールデンスランバーを唯一作れるタキザワも山、シュウも山。争うというよりは、いままでさんざん争ってきて国まで分断してしまった山族海族のご先祖様のケツを拭くというような構成。螺旋プロジェクトには「人はなぜ争うの?」というテーマが何度も出てきます。それにも一応の答えが見つかります。

「ひとつになりたいふたつが、ひとつになりたいあまり、ふたつであることを忘れてしまうから」

・・・?

しわくちゃの長老が教えてくれるんですが、長老ならわけわかんないことを言わせてもそれっぽくまとまるだろう、という意図を感じますね。人が争う理由なんて、誰もが自分がかわいくて、自分が正しいと信じ込んでいて、自分が正しいことを証明したいから、以外にないと思うけどなぁ。とはいえ、他の作品ほど説教臭くもなく、世界観も独特で良いです。

 

序盤で焚書の話が登場した時に、よし、「この本は間違いなく『焚書』ですね。笑」というコメントで締めようと思っていたのに、言うほど面白くなかったw

という感じの本です。これから読まれる方も、すでに読み始めている方も、この作品が最後になるように調整したほうが良いと思います。

 

おわり。
 

dandelion-67513.hateblo.jp

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