はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

この夏に読みたい良作ミステリ3作

こんにちは。

通勤中に読むのはミステリと決めています。線を引く個所もないし付箋も必要ない。眠くても、立っていても読める…2時間サスペンスを見るような気軽さで読めるので、大変重宝しています。ぼちぼち通勤地獄が始まったため、ここ数日で読んだ良作ミステリを紹介。

 

私が好きなのは、人間ドラマ(内面描写)と真相解明に至るまでの道筋が現実的な作品。

人の死(や不在)が遺された者に見せる残酷な現実に心を痛めたり、立ち上がろうとする人間の強さに勇気づけられたい!また、不自然さだったり、小さな嘘、会話のちぐはぐさなんかから犯人を追い詰めていく系が好き。前のページに戻って会話を吟味して、自分が一足先に気付いてしまった真実にドキっとさせられたい。

反面、トリックと動機はどうでも良くて…

再現性のないトリックはもはやピタゴラスイッチだし、ピタゴラスイッチだってTake30とか平気でやっているのに、殺人の素人が一発でピタゴラできるわけなかろうと思う。また、殺人の8割は親族間で起きるとも聞くから、動機は、アレがコレでこうなって…っていう細々したものよりも、思い余ってエイっとやってしまいましたで十分だったり。つまり、「犯人はお前だ!」からの、長々謎ときと動機~犯行手口の独白は不要ということです。笑

 

二度読んでこそ、真価がわかる。驚きの真実に心がついていかない。

ルネ・ナイト「夏の沈黙」

夏の沈黙 (創元推理文庫)

女のもとに届いた1冊の本。主人公は私…そして、その本に書かれているのは、ひた隠しにしてきた20年前の過去…。犯人(本の送り主)の物語とキャサリン(主人公)の物語交互に語られるので、犯人捜しという面白さはありませんが、真実が判明した時には「エ!?」と声が出てしまうこと請け合い。

おそらく9割方の読者は、真実が判明するまでキャサリンに対して良い感情は持たないと思います。憎たらしいとすら思う。徹底的に追い詰めろ!とか感じる人もいるかもしれません。しかし、真実を知った瞬間、寄り添うべきだったのはキャサリンのほうだったのだと、思考が一時停止する。今まで彼女に向かっていた強烈な気持ちをどう処理したら良いかわからず、即再読してしまいました。一巡目はミステリとして、二巡目は哀しみを抱えた家族の物語として純粋に楽しめます。

オビに「この結末に驚愕する」とありましたが、看板に偽りなし。人間ドラマも濃厚で、大満足でした!

 

ゴングール賞。戦争という現実が人間に及ぼす影響を考えずにはいられない。

ピエール・ルメートル「天国でまた会おう」

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2017年に映画化もしているし、「その女アレックス」で一躍有名になった著者なので、結構有名な作品かもしれませんが。

第二次世界大戦の末期、大実業家の御曹司エドゥワールは、小心者の男アルベールを助けたために、顔に大けがを負ってしまいます。治療も、家に帰ることも拒否するエドゥワールのために、アルベールは彼の死を偽装し、戦後も小さなアパートで共に暮らし世話をするように。復員兵への社会の仕打ちは冷たく、二人の生活は貧しいまま。あるときエドゥワールは、一つ大掛かりな詐欺事件を起こしてやろうとアルベールをけしかけます。

プラデルという因縁の男や、エドゥワール父という名わき役との対決も見ものなのですが、それ以上に、最後まで分かり合えないエドゥワールとアルベールの関係が切ない。もともと顔見知り程度の2人でしたから、大けがを負ってまで自分を助けてくれたことへの感謝(義務感)だけでエドゥワールの世話をするアルベールと、自分のわがままを聞いてくれることに感謝をしながらも、何かあるたびに「あのとき助けようとしなければ」と思ってしまうエドゥワール。アルベールもエドゥワールも、相手への何とも言えない気持ちのなかから優しさを捻出して分け合ってるのですが、その姿に何とも言えなくなる。結末まで読んでやっと、タイトルの意味を理解します。

戦後、熱に浮かされたように富を求める人々の中で、取り残された復員兵たち。混乱の中で暴き出された人間の本性や社会の冷たさにむなしさを覚えます。ただ、エピローグまで読むと、皆が望む形であったかわからないけど、それなりの光を見つけたんだな、と感じられてちょっと暖かい気持ちに。超脇役の、人生をかけて不正を告発した元官吏のエピソードにほっこり。

 

関連作品はこちら

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ヒストリカル・タガー賞。ヤク中英国人刑事×真面目なインド人刑事版「相棒」に萌え

アビール・ムガジーカルカッタの殺人」

カルカッタの殺人 (ハヤカワ・ミステリ)

第一次世界大戦の中で家族と妻を失ったウィンダムは、戦争のことを忘れて成長していくイギリスに耐えられなくなり、インドの帝国警察へ異動します(当時のインドはイギリスの統治下のため)。赴任早々に担当することになったのは、イギリス人の高官が売春宿の目の前で遺体となって発見されるというセンセーショナルな事件。不可解な圧力…有力な目撃者の死亡、かねてから高まっているインド独立の機運と大規模なテロの噂。実はすべてが一つにつながっていた…今までの担当者が見て見ぬふりをしてきたインドの闇に切り込むウィンダムの決意と推理眼がカッコイイ。

ウィンダムの相棒となる刑事バネルジーは、真面目でエリートなインド人。はじめはよそよそしかった二人が、意見の違いや人種を超えて分かり合っていきます。「黒幕」とオデコに書いてあるような野郎が早々に飛び出し、二人は、あの手この手で迫ろうとする。強大な権力に邪魔されながらも真実を暴くために突き進むという構成は相棒そのもので、「僕はただ、真実を知りたいだけなんですけどねぇ~」という右京さん的な発言も飛び出し、あらゆるものに無感動だったウィンダムが、いつからか昔ながらの刑事に戻っていくのもミドコロです。権力と裏技を使いながら、かわいい部下たちの若干違法とも思える捜査を後ろ盾する甲斐峯秋ポジションも健在で、思わずにんまり。

 

みどころ1.ハードボイルド

グロテスクな死体の描写から始まる物語。「こんな事件が起こるんだから、この世もまだ捨てたもんじゃない」いうウィンダムの独白に、ハードボイルドなストーリーを期待しますが、期待を裏切らない。

みどころ2.時代小説としての面白み

また、ヒストリカル・タガー賞受賞作ということで、植民地支配だったり人種差別だったりについても、新たな学びもありました。過激派のリーダーだったテロリストが、非暴力不服従ガンジーの教えの本当の意味に気付いた背景とか、目からうろこです。

みどころ3.ウィンダムの薬中毒ぶり

あと、個人的にツボったのは、ウィンダムが非合法薬物のことばーーーっかり考えているところ。ウィンダムは酒はもちろん、モルヒネ・アヘン何でもござれの薬中毒。質の良いアヘンをやると、ハイになっちゃうから粗悪品を出すアヘン窟がいいなぁ~と町をうろつき、銃で腕を撃たれたときには、モルヒネを出してくれるドクターに、「抱きしめたいくらい大好きだ!」と心の中で思ってしまうなど。笑えない冗談がポンポン飛び出すところが特に好き。

 

夏になるとミステリが読みたくなるのは私だけじゃないはず。通勤のおともにぜひ。

おわり。

 

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