はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

ほとんどが幻想? 今までと同じアプローチでは読み難い作品。カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」前半戦

こんにちは。

前回、前々回に勢いづいて、カズオ・イシグロわたしたちが孤児だったころ」。抒情的な作品が続いたということもあって、結構イケるじゃんと思っていたのも束の間。今回は少し毛色が違います。やっぱり、カズオ・イシグロは難しい。一筋縄ではいきません。

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

主人公はクリストファー・バンクス。イギリス在住の名探偵(自称)。え~!イギリスで探偵ってベタ過ぎるし、拡大鏡とか探偵七つ道具を持ち歩いてるとか…ホームズとか少年探偵団の読みすぎなんじゃないの!?なんて。のっけから「え?」となるんですが、それについてはまた後ほど。もちろん今回もバンクスの回想が情報源として全てです、ということは念頭に置いといてくださいね。

 

バンクスは父と母は英国人です。父の会社の都合で、幼い頃に上海に渡り、そこで暮らしていました。隣の家にはアキラという日本人が住んでいて、探偵ごっこをして遊んだというのが良き思い出。しかし、父と母がほぼ同時期に失踪し、バンクスは孤児になってしまいました。その後バンクスは伯母の家で暮らすことになり、渡英。父と母の遺産などもあったようで、イギリスでの暮らしは悪くありませんでした。1923年にケンブリッジ大を卒業し、探偵を目指します。若くして探偵として名を上げたバンクスは、父と母を探すために1937年に上海を訪れます。父と母の失踪の真相はいかに?

というお話。かねがね、記憶を精査していくと思わぬ真実が発覚するというアプローチは、サスペンスとマッチしないわけがない!!と思っていた私。自分が偉い人間だと勘違いしてしまった老人という小さなレベルの話よりも、事件の真相をじわじわ思い出していくようなののほうがゾクゾクするのでは?なんて思っていたのです。ついにきた~!!という喜びもそこそこに、サスペンスとしては期待外れな展開。

今までの作品は、多くの手掛かりから、真実はこういうことか?と推理するのですが、今回は推理の余地なし。2時間サスペンスさながら、最後に悪役が出てきて、全ての真実を告白してしまいます。なんで2時間サスペンスの犯人って、生い立ちとか動機とか、聞かれてもいないことまで体系立てて説明するんだろうね。今回も、そんなこと聞いてねぇよ、ってところまでご開陳してくださり、ここも2時間サスペンス風味。種明かしの時まで知らされていない情報も多く、推理する気満々だった私は肩透かしを食らった気分になりました。

 

さて、ストーリーは大きく3パートに分かれていて、1958年の自分が過去を回想しているという設定です。

1930’ 卒業~探偵として身を立てる。イギリス社交界での話。サラ・ヘミングスとの出会い

1937年 上海へ。両親の捜索。

1958年 イギリスでの余生(といってもまだ還暦前だけど)エピローグ風。

戦争の描写があるので、時代背景を理解しておいたほうが良いです。おなじみの山川の日本史図録を引っ張ってきて確認しながら読みました。

まず、バンクスが大学を卒業した1923年に関東大震災。その後日本は不景気になっていき、じわじわと積極外交へ転換。1928年には中国内で衝突がありました。1929年世界恐慌。1931年に満州事変。1933年に日本が国際連盟を脱退。そしてバンクスが上海を訪れた1937年、ちょうど上海事変が起こります。(※上海事変とは、日本海軍陸軍が上海を占領しようとした事件。byブリタニカ)

 

と、話があっちこっちにいきましたが、ここからが本番。信頼できない語り手はカズオ・イシグロの代名詞でありますが、他作品と比べても、今回の信頼できなさは一級品。読者が違和感を覚えるのはこんなところでしょう。そして、ここら辺がミソです。

★探偵っていう仕事

探偵道具の話をするあたり、眉唾ものでは?なんて疑います。名探偵ということで、パーティでちやほやされまくっていますが、本当に優秀な私立探偵って活躍が表に出ないものなのでは。しかも時々、「世の悪を成敗するために探偵になった」とか言っているから、嘘くせぇ。。。「浮世の画家」の小野パターンか?

 

★父と母の失踪の真実

父は、モーガンブルック&バイアット社(以下M社)の上海駐在員です。当時、中国とアヘンは切っても切り離せない関係にありました。アヘン戦争はコレよりもずっと前の話だけれども、1900年代初頭に至っても中国国内にはアヘン中毒者は多数いた模様。この小説によると、アヘンの密輸は政府の黙認という形で横行し、上層部の人間が利益を得ていたようです。M社もアヘンとは無関係ではない会社です。

対して母は、反アヘン運動の活動中。どんどん熱が入ってきて支部長的な感じになります。間接的にアヘンで利益を得ている会社といえども、夫が働いてくれているおかげでお手伝いさん付きの邸宅に住めているのに??そんなこと顧みず狂信的になっていく母でありました。ここまでくると手が付けられない。隣人のアキラも怖がっています。当然、家庭不和となるわけで。ただ、バンクスの面倒をよく見てくれる、フィリップおじさんという男がおり、彼のおかげでバランスが保たれていました。彼、血のつながりがあるわけではなく、駐在したての若手社員を、先輩社員がしばらく家に置くというM社の風習で、一時期家にいた男。フィリップは超重要なので覚えておいてくださいね。

父は、妻に押し切られる形で会社に意見したようです。その後、父が失踪。ほどなくして母も失踪しました。

失踪そのものよりも、とにかく違和感があるのは、バンクスが上海に行った理由です。普通、何の手掛かりもなく失踪して10数年となれば、生きて再会することは諦めているもの。しかし、なぜか生きていることを真面目に信じているバンクス。その道のプロの探偵なのにだよ??しかも、現地協力員みたいな人と、パーティ(両親を救い出したのち両親をお披露目するお祝いの会)なんかも計画し始めて、どういうこと?ってなる。

ここまで得られた情報から読者は、失踪はおおよそ口封じとみて間違いないだろうと考えるわけですが、ココで、探偵になった動機「悪を成敗する!」という話が出てくる。イエロー・スネークと呼ばれる、政府も手を出せない悪の親玉がいるらしい(バンクス談)、そして、現地協力員のマクドナルドは、その悪の組織から俺を見張りに来たスパイだ(バンクス談)。こんなことを考えたバンクスは、マクドナルドを通じて失踪事件の首謀者である(バンクス談)イエロー・スネークと面会し、両親を解放させようと考えます。どんどん、ホラ感高まってきますね。イエロー・スネークの手に落ちているのならば、尚更、両親はやられちゃってるだろうに…

ただ、当時の中国は、政府も警察もろくに機能せずマフィア的なものが跋扈していたということなので、何でもありの世界ですから、万に一くらいは両親生存ルートもありかも(マフィアの家でお茶くみとかしてるかも!?)、ということにして読み進めて参ります。

 

★アキラとの再会

すでにヤバい空気ですが、極めつけがコレ。

バンクスはアキラとの再会を夢見ていました。中国にいたことのある人に「アキラ、っていう日本人知ってます??」って話しかけるくらい。

上海を再び訪れたバンクスは、町の中でアキラを見たような気がします。スーツ姿で、接待中?と思しき様子なので、その時は声をかけずに去りました。そして次にアキラと会ったとき、アキラは、瀕死の状態の日本兵でした。

ん???

どゆこと???というのは一旦置いといて、アキラと再会した日のバンクスの話をします。バンクスは、両親の捜索を切り上げ、イギリス時代からの知り合いであるサラ・ヘミングスと駆け落ちをするつもりでいました。しかし旅立ちの朝、ついに両親の幽閉先が判明します(ホントか?)。サラを放り出し、日本兵が包囲している貧民街に行くと、そこには瀕死のアキラがいました(ホントか?)。アキラと昔の思い出を振り返りながら、両親の幽閉先まで迫るバンクス。

アキラとは探偵ごっこをよくやった仲で、両親を見つけ出す設定で遊んでいたりしました。その幼き夢をやっと叶えるという描写ですが、ウソつけー!ってなる。こんな展開あるかい!!という衝撃が走る。

 

以上三点。語り手がほら吹きであるのは、過去作品を読んで耐性ができているわけで、「どうせその話ホラだろ」くらいの目で見るくらいはできるようになったのですが、今回はほとんどホラでは?と、バンクスの病気を疑うレベルでした。だって最後なんて、「日本人を見かければ誰でもアキラ」状態ですよ?作者は、どういうことを伝えたかったのでしょうか…ちなみに解説を読んでもよくわかりませんw

 

今までの作品は、「事実と異なるところ」が、物語を読み解く大きなカギになってきたのですが、ここまで嘘っぽいとよくわからん!ということで、真実だけを洗い出していこうと思います。と、今回は1記事にまとめたかったのに、また長くなってしまったので後半戦へ。

ていうか、WHEN WE WERE ORPHANS.のWEってバンクスと誰?っていう話もしなきゃないし。

 

つづく。

 

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp

dandelion-67513.hateblo.jp