はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2019-01-01から1年間の記事一覧

聖武天皇の人柄をめぐる短編集。天平ロマンの香りを添えて 澤田瞳子「月人壮士」

こんにちは。 螺旋プロジェクト天平ロマン編。澤田瞳子「月人壮士」です。これは面白かった! 聖武天皇崩御の際に遺された、皇太子を指名した「遺詔」をめぐる物語。本を開いてすぐ、天皇家・藤原家略系図が掲載されているので、そこに書き込んでいきましょ…

歴史解釈・歴史ミステリーはおなかいっぱい 天野純希「もののふの国」

こんにちは。 螺旋プロジェクト、源平~幕末編。天野純希「もののふの国」です。 源平、南北朝、戦国、幕末維新の4部に分かれています。 保元の乱、本能寺の変、鳥羽伏見の戦い、西南戦争などの有名な戦。六波羅探題、宋銭…「ああこんなのあったなぁ」という…

「強い女」という言葉の嫌な響き 映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」を予習する③~「ヴィヨンの妻」~

こんにちは。 いよいよ映画公開が明日となりました。最後は、妻の津島美知子です。彼女は晩年、「回想の太宰治」という回想録を出版しています。ただこれは、太宰治との暮らしを綴ったもので、晩年の女性関係には触れられていませんから、太宰晩年の作品を読…

蔓草のような女の弱さは、女の一番強い力 映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」を予習する② ~「斜陽」と「斜陽日記」~

こんにちは。 映画公開が迫ってきました。今日は二人目、太田静子です。彼女は、「斜陽」の元ネタとなった日記を太宰治に提供した女性。太宰治の子「治子」を産み育てました。太宰治の死後、「斜陽日記」という手記を出版しています。 斜陽日記 (朝日文庫) …

「出会ってはいけない」の意味が分かる 海族と山族、出会いの物語 大森兄弟「ウナノハテノガタ」

こんにちは。 螺旋プロジェクト、「原始」パートです。大森兄弟「ウナノハテノガタ」。 原始時代の話ということで書き方に特徴があります。難しい言葉や表現を使わない。マナフタ(まぶた)など古い言葉を使っている。あとは、俺、私、などの一人称がないの…

憎しみを持つのは結構。しかし憎しみを争いの理由にしてはいけない。 乾ルカ「コイコワレ」

こんにちは。 8人の作家が、日本開闢以来の海族・山族の対立を描く壮大なプロジェクト「螺旋プロジェクト」2作目(私の中で)です。3月くらいから始まった気がするので、おそらく全部出そろっているかな? 読書においても偏食家というか食わず嫌いが激しい私…

嘘の後ろ側に見える悲哀と救い 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」後半戦

こんにちは。 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」。引き続き後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は、器用な女の嘘を見てきました。まるで呼吸をするようにホラ語りをする女。嘘がばれても、「ああ、ばれちゃったの」で済ませられるような図太さをも…

嘘をつけない女が見た、嘘にまみれた女たち 新潮クレスト「女が嘘をつくとき」前半戦

こんにちは。 「陽気なお葬式」、「ソーネチカ」に続き、心をとらえて離さなかったウリツカヤ作品3作目。新潮クレスト「女が嘘をつくとき」です。もともと、「陽気なお葬式」で垣間見た彼女の女性を評価する目が忘れられず、他の作品も読んでみた次第。 ロシ…

最初の100ページくらいまではクソ面白い 万城目学「バベル九朔」

こんにちは。 万城目学「バベル九朔」。角川の夏の100冊に入っていたので、滑り込みで8月に読みたい本第二弾として紹介したいところだったのですが、お、、、しっぱいしっぱい、☆2.5くらいかなーーーw 主人公の俺、九朔満大は、祖父の建てたぼろいテナント…

子どもを育てることのきほんの「き」ときょうふの「き」 映画「ルイスと不思議の時計」

こんにちは。 ナルニア好きの私には予告動画だけでたまらない作品です。いい!最高! 事故で母と父を亡くした少年ルイスは、母の弟のジョナサンに引き取られることに。化け物屋敷と呼ばれている古い屋敷で暮らし始めたルイスは、ジョナサンが魔術師であるこ…

テレビを見るとバカになる。世の中は感情で動いている 本当は怖い伊坂幸太郎系「クジラアタマの王様」

こんにちは。 今回も結構いい感じの作品なので、読書感想文カテゴリに入れておきますよ!伊坂幸太郎「クジラアタマの王様」 甲子園シーズン真っただ中。連日、気象庁が原則運動禁止って高温注意報出してるのに、甲子園は例外なんですか。甲子園を見るたびに…

恋愛においてのみ”気の流れ”は存在すると思う 映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」を予習する① ~山崎富江「雨の玉川心中」~

こんにちは。 来月の13日から、小栗旬主演の映画「人間失格 太宰治と三人の女たち」が公開されます。そんなに興味はなかったのですが、予告編を見て、「見ます!見ます!公開初日の予定を確認しますね」となるレベルで心奪われました。キャストも豪華だし、…

無念のリタイアをした本たち。2019夏

こんにちは。 最近は新潮クレストの回し者が如きスピードで新潮クレストを紹介している私ですが、なんとなく読み進められずリタイアしてしまった作品みっつin 2019夏。 新潮クレストは、作品のチョイス、訳の自然さ、カバーの肌触り、そして背表紙の統一感が…

権利を守ること、行使すること。権力を監視し批判することを忘れない エミール・ゾラ「ジェルミナール」

【読書感想文の書き方】夏なので読書感想文でもいけそうな本を、いい感じの深みを持って紹介したいという試み第一弾。エミール・ゾラ「ジェルミナール」

「さあ、神無月だ。出番だよ、先生」って言われてみたい 万城目学「鹿男あをによし」

こんにちは。 本を紹介するにも、テーマがあったほうが良いかなと思いまして、とりあえず、8月に読みたいシリーズ。第一弾は、万城目学「鹿男あをによし」 森見登美彦ファンを名乗るとだいたい、森見登美彦が好きなら万城目学も好きなんでしょ。とよく言われ…

川の上流を未来とみるか過去とみるか 新潮クレスト「帰れない山」

こんにちは。 新潮クレスト強化月間「帰れない山」です。 こういうたとえ話が出てきました。 雪解け水が流れる川の中に立ち、目の前にそびえたつ山を見ているイメージ。上流、下流どちらが未来か。どっちだと思いますか?おそらくどっちも正解なのですが。 …

男はメンヘラがお好き? 新潮クレスト「終わりの感覚」

こんにちは。 本作品は、4度目の候補でやっと受賞したブッカー賞だそうです。 私は日本人的価値観に毒されているので、「ついにブッカー賞!」とか書かれていると少し冷めてしまう卑しい読者です。筋を考えながら、推敲しながら、ずーっと「ブッカー賞!」と…

ブラックユーモアに満たされたロシア小説 新潮クレスト「ペンギンの憂鬱」

こんにちは。 ロシア文学は好きですか?チェーホフ、トルストイ、ドストエフスキー…私は超絶有名人しかしらないのですが、苦手なんですよね。全体的に暗くない?なんかこう、いつも曇天!みたいな。あと、ブラックジョークがきつい。チェーホフ・ユモレスカ…

最後の10ページ足らずのためにある300ページもの物語 カズオ・イシグロ「日の名残り」

こんにちは。 とりあえずノーベル賞受賞作家だし読んどく?という軽いノリで読み、衝撃を受け一気にファンになってしまったカズオ・イシグロ作品。 「わたしを離さないで」でも同様だったのですが、立ち上がりが緩慢なんです。(わたしを~ほどではないけれ…

本ばかり読んでいても真の幸せは訪れない…か? 新潮クレスト「ソーネチカ」

こんにちは。 前回、「ほかの本も読んでみたい!」ということで終わっていたコレ、読みました。 dandelion-67513.hateblo.jp 新潮クレスト「ソーネチカ」中編の中でもかなり短い部類。2時間もかからず読めますが、突き付けてくるテーマは重め。 本の虫で可愛…

誰からも好かれる人は誰をも愛する人 新潮クレスト「陽気なお葬式」

こんにちは。 新潮クレスト「陽気なお葬式」。個人的に新潮クレストはハズレを引くことがない作品として重宝しています。さらに、背表紙に統一感があり、装丁のデザインも素敵ということでコレクター魂を揺さぶられ、財布のひもが緩んでいくわけです。一冊一…

幸せは一種の健忘症。期待と絶望は健全な精神の証拠 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」

こんにちは。 新潮クレスト「ロスト・シティ・レディオ」です。 内戦中の架空の都市の首都。主人公はノーマというラジオパーソナリティの女性です。彼女は日曜日の夜に、視聴者からリクエストがあった行方不明者を探すレギュラー番組を持っていました。ある…

「あのときこうしていれば…」を実現してくれる不思議な帽子 新潮クレスト「ミッテランの帽子」

こんにちは。 新潮クレスト「ミッテランの帽子」 ミッテランの帽子が持ち主を変え、次々と持ち主を少しずつ幸せにしていくというお話。かなり使い古されたモチーフではあるのですが、なかなか面白い。 最初の所有者は冴えない会計士ダニエル。彼は政治力・発…

ブラウスについたバタースコッチソースのような不快感 早川epi文庫「オリーブ・キタリッジの生活」

こんにちは。 週に1度くらい訪れる夜の静寂。そんなときには夜中3時くらいまで読書を楽しみます。夜中の読書は本のチョイスが大事。2、3時間で読み切れる、そして、明日からの生活にすこーし明るい光を差してくれる作品。ご都合展開は嫌だけど、人生捨てたも…

精神生活は憎悪と嫉妬に根を下ろしている? ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」

こんにちは。 ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」です。チャタレイ裁判、高校で習いました?私は女子校育ちなんですが、女子高生なんて性への好奇心の塊ですから、「きわどい描写があるらしいよ!」と同じようなムラムラの塊と連れ立って本屋に行きました。「…

くさいものに蓋はやめましょう 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦(自分を騙したツケ)

こんにちは。 新潮クレスト「夏の嘘」後半戦です。 dandelion-67513.hateblo.jp 前回は男と女の嘘。浮気の嘘、相手を喜ばすための出まかせ、という比較的ライトで誰にでも経験のある嘘を取り上げました。今回は、自分への嘘。これはかなり重い。そして、見な…

先生!キスは浮気にはいりますか? 新潮クレスト「夏の嘘」前半戦(男と女の嘘物語)

こんにちは。 今日ご紹介するのは、新潮クレスト「夏の嘘」。 「朗読者」(映画の邦題は「君に読む物語」)の作者による短編小説です。「夏の嘘」というだけあって、「嘘」がテーマ。男と女の嘘。そして自分への嘘。嘘と思い込みが生み出した不幸など、数々…

怯んではならぬ憎んではならぬ悔やんではならぬ 詩「手から、手へ」

こんにちは。 今日紹介するのは詩集「手から、手へ」 贈り物でいただいたものなのですが、これ毎回泣きそうになります。言葉のセンスが素晴らしい。 詩の紹介って難しくて、あんまり引用しているともはや転載になってしまうので、どう紹介してよいのかわから…

一度、世の中全ての出来事が無意味だという前提に立ってみる 河出書房「リンカーンとさまよえる霊魂たち」

こんにちは。 全米ベストセラー・ブッカー賞受賞の超話題作!とのことで、遅まきながら読んでみました。「リンカーンとさまよえる霊魂たち」 息子ウィリーを亡くし悲嘆にくれる大統領リンカーン。彼は息子に会うために夜の墓地を訪れていました。そこには、…

自分の選び得なかった人生も一緒に抱えて生きている 新潮クレスト「マザリング・サンデー」

こんにちは。 かなり感動した本です。可能なら6月のうちに読んでほしい。これはある少女の半日を書いた本なのですが、その日は3月なのに6月のような気候だったと何度も書かれるからです。明るい日がさすスタバ的なカフェで一気に読みましょう。 私は、すごく…