はらぺこあおむしのぼうけん

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どうせお前ホラ語ってんだろという目線で読み解く カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」前半戦

こんにちは。

カズオ・イシグロ忘れられた巨人」です。

カズオ・イシグロ作品は、「私を離さないで」、「日の名残り」に続き3作目。彼の作品は、文章が超絶難解というわけでも、世界観がぶっ飛んでいるというわけでもないのですが、何となく読みづらい。ただ、後半に向けてゆっくりと全貌が明らかになっていく仕掛けが見事で、鳥肌が立つような快感を覚えます。ぱっと霧が晴れていく爽快感を味わいたくて、退屈に思える前半部分に耐えながら、コツコツ読み進めてしまうんですね。まぁ、何冊も連続して読むのはしんどいので、3ヶ月に1冊くらいかな、用法用量を守って摂取しましょう。

 

忘れられた巨人

 

舞台は6、7世紀のイギリス。アーサー王伝説を下敷きにしているそうなのですが、歴史もの、しかも軽く1000年以上も昔のよその国ということで、過去の2作と比べてめちゃめちゃ入り込むのに苦労します。6、7世紀のイギリスは、もともとその土地に住んでいたブリトン人と、侵攻してきたサクソン人の争いが絶えない時代。女子ども関係なく殺したり、村を焼き討ちにしたり、略奪の限りを尽くしていました。というこの歴史的背景が重要です。

 

主人公はアクセルとベアトリスというブリトン人の老夫婦。彼らが息子を訪ねて旅する中で、竜と戦う話です。竜って、、、ドラクエかよ!ってなるんですが、鬼が出て町を荒らしたり、もののけの類に悩まされているような世界観のようなので、一旦そういうものとして扱います。では、何で竜と戦うかというと、記憶を取り戻すため。というのも、この世界では記憶が長くは続かないという事態が発生しています。娘が迷子になったと血相変えて探している母親がいたかと思えば、10分後には娘がいなくなったことを忘れている始末。アクセルとベアトリスも例外ではなく、昨日のことはもちろん、二人の思い出はほとんど失っています。思い出そうとすると頭が痛くなってくるんですね。

人々の記憶が失われる。その事態は、竜が吐く霧によって引き起こされているのではないか?と二人は考えています。竜が現れるようになってからこの世の中はおかしくなってしまったという気がしているんです。さて、彼ら老夫婦は隣の村(といっても歩き通して3日くらい?)に暮らしているらしい息子に会いに行くために危険な旅に出かけます。「息子は」「息子は」と何度も話題には出てくるのですが、老年にさしかかり、かつ、怪しげな毒霧にやられているとあれば、二人の証言はとても曖昧。半信半疑で読み進めます。

旅の途中で滞在した村で、アクセルとベアトリスは、若い戦士のウィスタンと、ケガをした少年エドウィンに出会い、彼らと同道することになります。ウィスタンは気持ちのいい若者ではありますが、胸に一物ある模様。また、関所のそばで出会った気高き老騎士ガウェイン卿も、親切にしてくれますが何かしら企んでいるように思われます。アクセルとガウェイン卿は過去に何かがあったみたい…と、ここまでが前半。

後半は、霧の正体(そもそも本当に竜のしわざなのか)、ウィスタンやガウェイン卿の旅の目的が明らかになります。そして「覚えていられることが幸せなのか」「忘れることができるのが幸せなのか」ちょっと考えさせられます。

 

さて、恒例の解説を読んでみると、そこには衝撃の言葉が。

「そもそもカズオ・イシグロの代名詞といえば『信頼できない語り手』であるが」

って、「語り手が信頼できない」って公認なのかよ!!!今まで何度も「読み返してびっくり」とか「後半で印象が変わる」とかごまかして書いてきましたが、これはひとえに、語り手が平然と嘘をつくからに他なりません。嘘をついているというより、自分自身をだましているに近いのですが。とはいえ、世界的な文豪の作品に「ここに出てくる主人公いっつもホラ語ってんだよね」なんて、なかなか言い出せないわけですから、なんだよもー早く言ってよーという気分。

「信頼できない語り手」とお墨付きをもらった以上、心置きなく夫婦のホラ前提で読み進めていけるわけです。ということで、ここら辺が嘘くせぇと感じた部分を挙げていきます。

 

1.記憶が長く続かない病

さて、最も気になっているのが、竜の吐く霧で記憶が長く続かない件。

私はもともと、アクセルとベアトリスの認知能力に疑問を持っていたため、そいつらの思い過ごしだろとハナから相手にしていませんでした。

だってベアトリスはいつも怒っているんです。「村の人は意地悪だ!ロウソクも使わせてもらえない!!!」と。ベアトリスの言い分は「自分たちが年寄であるという理由だけをもって、村の人は自分たちからロウソクをとりあげるなど、いじめをしている。理不尽だ!」ということなのですが、村人からも相手にされてず、居場所はないところを見るに、こいつら、一回くらいボヤ出しちゃったんんじゃないの?そして、周りがさんざん注意しても言うことを聞かない、近所でも有名な頑固オヤジなのでは?なんて、ただの認知症の初期症状と認定していたのですが、さすがにそれは違うようです。

アクセルとベアトリスは、いわゆる「オシドリ夫婦」。オシドリ夫婦と世間でさんざんもてはやされている芸能人が、本当に仲むつまじいかは置いといて、何くれと世話を焼き、本心から互いをいたわり合っているように見えます。アクセルはベアトリスをお姫様と呼び、ベアトリスの希望はなんでも叶えてあげようとします。ベアトリスもアクセルに全幅の信頼を寄せています。神父に、「記憶が戻ってしまったら、嬉しいことだけでなく悲しい思い出も戻るのでは?」と聞かれたとき二人は、それでもいいと答えます。どんな記憶と直面することになろうとも、二人で共有していたはずの思い出を失うよりも悲しいことはないと。ああ、妬けるねぇお二人さんと思うのですが、ここが、カズオ・イシグロの十八番、信頼できない語り手ポイントと推理します。結構エグい事実が隠れているのでは?と。それで霧が晴れた瞬間、ドーーーン!みたいな。

ベアトリスは何度も、「あなたが家を空けた夜」という言葉を口に出します。まんじりともせず朝まで待ってた的なことを言うんですが、やっぱり不倫的なそういうアレなのかな?そこらへん、すごーく怪しいなと思ったわけです。

 

2.隣村の息子に会いに行く

うちの息子、先月出ていったのよ~くらいのテンションで息子のことを語りますが、絶対20年くらいは経ってんだろうと思うわけです。息子がどんな理由で出ていったのかはわかりませんが、老親を放っておくなんて簡単にできない時代、孫の顔を見せに来てもおかしくないだろう…と考えるとすでに亡くなっている…?もしくは幻…?

 

実際のところは後半戦で。

後半戦につづく。

 

カズオ・イシグロの作品はこちら

 

dandelion-67513.hateblo.jp

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