はらぺこあおむしのぼうけん

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マジかよ!こんなオチありかよ!!! チェスタトン「木曜日だった男」

こんにちは。

チェスタトン「木曜日だった男」です。タイトルに惹かれて手に取り、「この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩…それは、幾重にも張り巡らされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まり…日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結社とは」という煽り文句にやられ、即ご購入。

頭の中には、ハラハラドキドキの冒険譚「新アラビア夜話」や、あなたは月曜日、私は金曜日と各曜日を担当する神がワイワイやる「有頂天家族」のイメージ。絶対面白そう!と一気読みを期待しますが、そうは問屋が卸さない。

 

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

 

序盤は難しい詩から哲学的な問答が続き、あ、これはキツいかも…ってなります。一旦解説を読んでみると、読者の興味を削ぐから内容は書きません~なんて書かれ、のらりくらりとかわされ続け、ぜんっぜん理解の助けにならない。それどころか、「解説から先に読んでしまう皆さん!どうぞ物語をお読みください!」なんて言葉で締められるもんですから、負けてたまるか!と読んでみて、ああそういうことかと納得。とにかくこの小説、ネタバレ厳禁。おそらくオチを知ってしまうと、読む気がなくなると思います。

 

舞台はイギリス。奇妙なくらい真っ赤な夕焼け空の下、グレゴリーという男とサイムという男が出会います。互いに「今から知ったことを警察には言わない」という約束を交わしたのち、「楽しい夜」を過ごすためにグレゴリーはサイムを怪しいお店の地下に連れて行きます。サイムが葉巻をくゆらせていると、天井がぐるぐる回って床が落ち、気付いた時には「無政府主義中央評議会」なる会合に参加していました。

無政府主義中央評議会は、月曜日~日曜日の7名から構成される秘密結社。ちょうど木曜日の席に、不慮の事故(っていうのすごく怪しいよねぇ)で空きがでたため、グレゴリーが木曜日に推薦される予定でした。しかし、実はサイムは警察官なんです。しかも、無政府主義者を特別に取り締まる哲人警察官と呼ばれる特別職。この機に乗じていっちょ潜入捜査をしてやろうと、木曜日の座をぶんどったサイム。

物語は、警察官と無政府主義者の攻防がメイン。一人ぼっちだと思っていたサイムでしたが、評議会の中には同志が。彼らと共に、評議会の本質や評議会のトップである日曜日の正体に迫ろうとします。

 

今回は2段階にネタバレしていこうと思います。

まずはオチに触れない程度で。

サイム(木曜日)以外のメンバーは、

・眼鏡の下に煌めく目を持つブル博士(土曜日)

・「…アルヨ」レベルの片言を話すポーランドゴーゴリ(火曜日)

・ぷるぷる震える老教授ド・ウォルムス(金曜日)

・日曜日の腹心?最も日曜日に近い書記(月曜日)

・近々予定されている爆弾テロの実行犯。ボマーの侯爵(水曜日)です。

サイムが初めて会合に参加した日、「この中に裏切り者がいる!」と言った日曜日。サイムははっとして拳銃を握りますが、裏切り者は火曜日でした。火曜日のポケットの中からは青いカードが出てきます。冷や汗をぬぐいながら、「アレ、俺が持っているのと同じじゃん…」とサイム。青いカードは、哲人警察官の証なんですね。

帰り道、プルプル老教授が後を付けてきて、二人とも青いカードを持っていることを確認します。その後、ブル博士、侯爵も同じカードを持っていた。最後は書記が「この印籠が(意訳です)…」と例のカードを取り出そうとした瞬間、老教授「ああ、もういらんいらん!!そのカードはトランプできるくらい持ってるわ!!!」とめんどくさそうに手を振ります。なんだよ、日曜日以外全員スパイじゃねぇか!!

疑心暗鬼の評議会活動から一転、同期研修の雰囲気になった5人(ゴーゴリは出てきません)、内定者研修で未来の同期が集まると、いっとう先に「採用面接」の話になりますよね。彼らも例にもれず、面接で出会った「謎の男」の話に。彼ら哲人警察官は、公務員試験を受けるような正規ルートではなく(当時公務員試験があったかどうかは知らんけど)、町でいきなりスカウトされ、真っ暗な部屋で謎の男と面接した結果になることができる職業です。「謎の男ってどんな人だった?」、「暗い部屋だからわかんねぇよ」なんて話をしているうちに、日曜日との対決が迫ります。そして、日曜日と謎の男が同一人物という事実が発覚。ラストは、日曜日と対面し、「あなたは誰ですか?」と問うサイム。

 

冒険活劇のエッセンスは30%くらい、あとは「無政府主義」とか自分の政治的思想の問答が50%。残りはオチを読んでからの再読用お楽しみ小道具20%の構成比の物語。実のところ、政治とか主義主張のところが退屈なんです、ただ、日曜日の正体が気になるから、それだけのために読み続けるんですね。

 

そして第二段階のネタバレ。

本当にいいですか?

 

 

 

 

 

これ、夢オチなんです。

日曜日と哲学的な問答をしたサイム。「あなたは苦しんだことがあるんですか?」という問いかけに、「汝らは我が飲む杯より飲み得るや?」という聖句を返した日曜日。その後…

あ、寝てたわ。で終了。これは、許せんッ!!!!!!

さっきも書いたように、話も難しくて、よくわかんねぇってなりながら読み進める。それはひとえに、哲人警察官を任命した謎の男と、無政府主義中央評議会のドンが同一人物たという話の結末が見たいからなんですよね。それが消化不良のまま夢オチとは…許せんッ!!!!不思議の国のアリス的に、夢の中でのストーリーがある程度面白ければまだ良いけど、ここまで尻切れトンボなのはちょっと…。

 

一通り憤慨した後、夢オチ小説という観点で読み返してみます。

まずは、不思議な雰囲気ただよう描写。印象的な真っ赤な夕焼けの夜だったり、グレゴリーの妹と2、3分会話しただけなのに、そのうちにガーデンパーティーがお開きになって自分たちだけになっていたというような不可思議な流れ。あと、「(飲んでいないのに)シャンパンを飲んでいるような気分」というサイムの言葉…どこから夢だったのかな~?なんて。

次に、人間を越えたデカさの人が数人出てくるところ。最初は、恐怖でそういうふうに思い込んでいるのかな?なんて思いましたが、夢オチと聞いて納得。

最後に、日曜日の真の姿の話。採用面接の謎の男もそうだけど、日曜日の顔をみんなで思い出そうとすると、皆全然言うことが違う。顔を思い返そうとすると、どんどん姿は曖昧になっていき、キーンと頭が痛くなってくる。朝起きてすぐに、昨晩の夢を思い出すとこういう気分になりますよね。

とまぁ、こんな具合。

 

他に気に入ったポイントは、会話。日曜日が悪玉っぽくてかっこいい。例えば序盤にスパイとして放られたゴーゴリに「君が拷問されて殺されれば、僕は2分半は不愉快になる。君が誰かにココの話をすれば、僕は2分半の不愉快を忍ばねばなくなる。君の不愉快は知らん。お気をつけてお帰りください」という日曜日。好き。個人的に好みのセリフ。

 

チェスタトンは初めて読んだんですが、解説を読むと「ブラウン神父シリーズ」という有名な作品があるそうですね。日曜日みたいなゴッドファザー的悪玉が出てくることを祈りながら、いつかチャレンジしてみたいと思います。

おわり。