はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

2020-01-01から1年間の記事一覧

無垢な頃の自分をどこかに見つけ出す短編群 トマス・カポーティ「誕生日の子どもたち」

こんにちは。 カポーティ「誕生日の子どもたち」です。 このブログで何度も触れていますが、私は村上春樹は苦手です。なんか好きになれない。作品というよりも、一部ファンのごり押し感が苦手。ハルキの複雑な世界観を理解できる自分マウントしてくる感があ…

自分が母親に捨てられた理由を、自然の法則に求めようとする少女の姿に泣く。ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」

こんにちは。 ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」 久々に、衝撃を受けた作品。本の紹介をしていると、結構軽々しく「衝撃の結末!」って言葉を使いがちなんですが、こちらはガチのやつ。残り1ページでこれかよ!!と読んで半日へこむレベル。20…

不条理だらけの時代に生まれた若者たちへ贈る ポール・オースター「サンセット・パーク」

こんにちは。 今年の3月に発売された、ポール・オースター「サンセット・パーク」です。 原著はリーマンショック後の2010年に発刊されましたが、日本で翻訳されるまでに約10年!!今の時代の若者の心を打つ文章の数々に、「もっと早く出会いたかったんですけ…

いったん資本主義社会の歯車の一部となったら最後、一人の人間が為せることはほとんどない ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」(下)

こんにちは。 ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」 上巻までのあらすじはこちら dandelion-67513.hateblo.jp カリフォルニアに到着したジョード一家は、テント村(同じように職を求めて西に向かった人々が寄り集まっている場所。少ないお金で利用でき、水…

資本主義社会の中で改めて問う、神とは。罪とは。世界的名作の面目躍如 スタインベック「怒りの葡萄」(上)

こんにちは。 ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」です。超有名な作品で、若い頃にチャレンジを試みた記憶があるんですが、文章が冗長だったのか自分がバカだったのか、目が滑る滑る…。このたび(何年も前だけど)ハヤカワepi文庫で新訳が出たので改めてチ…

ペストとは際限なく続く敗北である。そして繰り返す。 カミュ「ペスト」

こんにちは。 今話題になっている本のひとつ、カミュ「ペスト」。カミュは「異邦人」にあんまり入り込めなかったのですが、コレは傑作!!!久々に本読んで感動を味わった気がする~! 最大のウリは、この本を読むことで「疫病を経験した先人」の視点から今…

幸せはバックミラーにしか映らない ガエル・ファイユ「小さな国で」

こんにちは。 最近は外出禁止ムードですが、いかがお過ごしでしょうか。 おうち大好きの私にとっては、スーパーに行く以外は全て不要不急の外出で、普段から誰に頼まれなくても家にこもっています。それならば、さぞ幸せな自粛生活だろうと思われがちですが…

人間やっぱり平等なんかじゃない。全ての心に深い傷を持つ人へ贈る物語 ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventures」

こんにちは。 ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventures」です。 冴えない童貞男(34)がひょんなことから79日間で恋人を見つけるのに挑戦する話です。出てくる人物みんなアレなところがあるし、下ネタ満載で乾いた笑いをもらしてしまうシーンもたくさ…

ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventure」① Day1 ー運命を変えるかもしれない電話ー

こんにちは。 以前、記事で本を取り上げ、「この人の本面白いのに…」とぼやいていたダニエル・ウォレス。未邦訳の本にチャレンジしてみることにしました。 チャレンジする本は、「Extra-ordinary Adventure」 海外の小説って大学受験英語で出てくるような、…

#新大学生に勧めたい10冊 のダントツ1位 「英語のたくらみ、フランス語のたわむれ」斎藤兆史、野崎歓

こんにちは。 今、Twitter界隈で秘かに流行しているハッシュタグ #新大学生に勧めたい10冊 ですが、私のなかでダントツの1位はこちらです。 「英語のたくらみ、フランス語のたわむれ」。東大の英文学の助教授とフランス文学の助教授の対談(2004年当時)。「…

カラヴァル:負のエネルギーに満ちたディズニーランドで行われる騙し合い。半分まで面白いけど、尻すぼみ。 ステファニー・ガーバー「カラヴァル(Caraval)―深紅色の少女」

こんにちは。 2018年の本屋大賞の翻訳小説部門第一位。ステファニー・ガーバー「カラヴァル(Caraval)――深紅色の少女」。 一位ということで普通に期待していましたが、全体的に幼さがにじみ出ていて消化不良。 主人公はある帝国の属州トリスダ島で暮らすス…

謎の結社に絡む謎の出来事の秘密を暴く…「赤毛同盟」の詰め合わせ風味 チェスタトン「奇商クラブ」

こんにちは。 チェスタトン「奇商クラブ」 以前、とんでもないオチにやられたチェスタトン作品のリベンジ。「木曜日だった男」で受けた印象が最悪でしたから、「木曜日~の借りを返してもらいに来たぜ。次はないからな」という上から目線で読んでみました。 …

初めて「もし…」という言葉を使いたくなった歴史小説 ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」

こんにちは。 「女王陛下のユリシーズ号」を読んでいたせいかAmazonが推薦してきたこちら。ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」です。こちらはドイツ軍によるチャーチル誘拐作戦をつぶさに書いたルポ風小説。かっこいい男がたくさん出てくるという点では「…

冴えない人生×ホラ話×人生哲学…「ビッグフィッシュ」の前日譚 ダニエル・ウォレス「西瓜王」

こんにちは。 「ビッグフィッシュ」に続いて、ダニエル・ウォレス「西瓜王」です。 ビッグフィッシュの父エドワードの出身地アシュランドで起きたお話です。「ビッグフィッシュ」の中で触れながらも明快な答えを出せなかった、「なぜ人は自らを飾り立てずに…

面白みのない真実よりも、語り継ぎたくなる物語で彩る人生 ダニエル・ウォレス「ビッグフィッシュ」

こんにちは。 昨年読んだ「ミスター・セバスチャン~」の作者ダニエル・ウォレスの作品2つ。「ビッグフィッシュ」(と「西瓜王」) 一緒に紹介した理由は、「ビッグフィッシュ」と「西瓜王」がつながっているからです。「ビッグフィッシュ」の主人公の父エド…

世の中には一つとして「完全オリジナル」の小説は存在しない 「大学教授のように小説を読む方法」

こんにちは。 世界的に売れた本です。トーマス・C・フォスター「大学教授のように小説を読む方法」 世界的な文学作品の読み方を笑い転げながら理解できる本。今までのテクニックを試すためのテストと、巻末にオススメ本が難易度別に紹介されているのが素晴ら…

泣ける×いちいちかっこいい=やっぱりこういう小説はいい アステリア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」

こんにちは。 アステリア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」。映画化もされたようです。 ガンダムや銀英伝好きとしては、好きなジャンルの小説。ハッチとかタラップとかいう単語を聞いて、なんかかっこいい!と興奮する人にはたまりません。そして、泣…

感想はただ一言、「これが、若さか…」みずみずしさあふれる芥川賞(2002年)候補作 島崎理生「リトル・バイ・リトル」

こんにちは。 島崎理生「リトル・バイ・リトル」です。芥川賞候補にもなったので、結構有名な作品なのかしら。 久々に、出会いの妙を感じた本。運命の1冊になるようなこともないし、読み返すことも絶対ないけどw、ばったり昔の同級生と会って一晩語りあかし…

「もうそこらへんでヤメにしたら?」と言ってくれるかけがえのない存在の欠如。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」 後半戦、いっきまーす。 dandelion-67513.hateblo.jp 後半戦へ行く前に、前回どんな終わり方をしていたかっていうと。 カズオ・イシグロ作品の特徴として、主人公の回想の中に思い違いや嘘が混…

ほとんどが幻想? 今までと同じアプローチでは読み難い作品。カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」前半戦

こんにちは。 前回、前々回に勢いづいて、カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」。抒情的な作品が続いたということもあって、結構イケるじゃんと思っていたのも束の間。今回は少し毛色が違います。やっぱり、カズオ・イシグロは難しい。一筋縄では…

嫌いな人間の嫌いなところを挙げてみると、全部自分にあてはまったりする。カズオ・イシグロ「浮世の画家」後半戦

こんにちは。 後半戦、いっきまーす。 これまでのあらすじはこちら。 話は見合いの約半年後。1949年冬。 縁談がまとまった紀子は、斎藤Jr.(太郎)と結婚し、新生活を始めます。節子を伴って紀子の新居へ遊びに行く道中、節子がこんなことを言います。「紀子…

自分が失ったものをひとつひとつ数え上げながら、それでも自己正当化をやめない老人への冷徹な視線。カズオ・イシグロ「浮世の画家」前半戦

こんにちは。 「遠い山なみの光」に続いて一気に5作目。今回も川端康成テイストで面白い。1日で読み終えてしまいました。いろいろと浅い私のような人間は、やっぱりこれくらいシンプルなのがいいなぁ~と思うわけです。 本作品も終戦後の日本のお話で、「遠…

結局人は、他人と喋っているように見せて、他人のような何かと喋ってるだけなのだろう。 カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」

こんにちは。 久々のカズオ・イシグロ作品、4作目です。心のどこかでどんでん返しを期待していたのですが、今回は淡々と。 原題は「A pale view of hills」で、もともと「女たちの遠い夏」というタイトルだったとのこと。改題され、直訳の「遠い山なみ~」に…

続編ということもあって期待値が上がった?半端な試練の波状攻撃 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ハウス」

こんにちは。 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ハウス」。前回の「~ガーデン」の続編です。「~ガーデン」と続編の「~ハウス」は同時に購入していたのですが、ガーデン読了後に、続きを読みたい!という気持ちが全く起こらず、しばらく放置。「…

ノーと言える女はいい女。勝ち女になるための最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」後半戦

こんにちは。 つづき、いっきまーす。 物語のあらすじはこちらから。 dandelion-67513.hateblo.jp ③情に流されない 「一時の情に流されてはいけない、有利な条件を持ち出すことをいつも考えるべし」それが一度目の結婚(兄と弟のゴタゴタ)で得た教訓でした…

自分が幸せなら、他人から憎まれようが気にならない。勝ち女になる最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」前半戦

こんにちは。 デフォーっていう名前よりも、「ロビンソン・クルーソー」のほうが有名。「モル・フランダーズ」です。一言で言うと、「なんか応援できない女」モルの人生回顧録。ところどころでイラっとするし、「それでも幸せに暮らしました」という結末には…

絶対読み返したくない不快感。もしかして、同族嫌悪からきている? 新潮クレスト「ソーラー」

こんにちは。 毎度毎度、私の中に衝撃をもたらしていくイアン・マキューアン。4作目「ソーラー」 正直、「さわやかな読後感!」とは程遠く、読んだ後も「…」って気持ちになるし、4作品も読んでいながら「ファンです!」とは言いたくない”何か”がある著者なの…

人に好かれたい、人に認められたいという根源的な欲望からは絶対に逃げられない 佐藤多佳子「しゃべれども しゃべれども」

明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。 2020年1冊目。佐藤多佳子「しゃべれども しゃべれども」。落語家が主人公の話です。以前、「昭和元禄落語心中」っていうアニメを見て、面白い!って思っていたので、丁度良かったです。 平成…