はらぺこあおむしのぼうけん

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ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventure」① Day1 ー運命を変えるかもしれない電話ー

こんにちは。

以前、記事で本を取り上げ、「この人の本面白いのに…」とぼやいていたダニエル・ウォレス。未邦訳の本にチャレンジしてみることにしました。

チャレンジする本は、「Extra-ordinary Adventure」

 

海外の小説って大学受験英語で出てくるような、構文が何個も入れ子になっているような難解な文章は少なくて、読める…読める…!ってなるんだけど、ジョークとかたとえ話とか、文脈から判断してもちょっとしかわかんない言葉がたくさん出てくる。特に会話。これって一週間考えても理解しきれないものだし、それを思うと、翻訳を生業にしている人はすごいな、と頭が下がる思いです。

私は中学英語も高校英語も普通の人間でしたが、使われている言葉も平易で、なかなか読みやすい。as ifとかso thatとか忘れているレベルだったけど、自分、結構イケるのでは…??なんて思ってしまいました。

 

簡単に言えば、冴えない中年男(34歳、おそらく童貞?)が79日間でパートナーを探そうとする物語。ひとつひとつ訳すのが面倒だから英語そのままもってきているので、ルー大柴風の紹介になってしまいました。笑

Extraordinary Adventures: A Novel (English Edition)

 

冴えない中年男Edisel Bronfman。彼のところにExtra-ordinary Adventureという組織のオペレーターを名乗る女性Carlaから電話がかかってきます。内容は、フロリダのリゾート地Destinにあるコンドミニアムを無料で使用できる権利が当たりました。というもの。”Free! Complimentaly Free!”でContinental breakfastも含まれている、だと??

10億円当たりましたというスパムメール並みの怪しい連絡に、普通の人なら「やめときます。すいません~どこからこの連絡先知りました?リストから消しといてください」となるところ、自己肯定感の低いBronfmanはCarlaの”You won!”という言葉にすっかりのぼせ上ってしまい、続きを聞こうとします。

そもそもこの連絡が来たのは、時々行くデリの名刺入れるとこ(=jar、よく映画に出てくるけどあれなんて訳すの?)に名刺を入れたから。その中から偶然に選ばれたそうです。といっても、電話口からは、Carlaの後ろで多くのオペレーターが電話をかけまくっている様子が伺えるので、自分だけというわけではないみたい。しかしBronfmanは、34年間の人生の中で、何かに成功したどころかチャレンジしたこともない…と回顧し、それでも、"somethingi he had accomplished just by being alive"と、ただ生きているだけで何かを成し遂げたのってすごくね??と舞い上がってしまいます。ただの運だったとしても、名刺の山のなかから自分の名刺が選ばれた!!他の人のは選ばれなかったのに…!と完全にハイになっているBronfman。

乗り気になったBronfmanは、「他に条件とかないですよね?」と一応尋ねます。Carlaからはありません、という答えが得られたものの、その後のやり取りの中で、companion(連れ)が必要であることが明らかになります。jarに名刺を入れた時に完全に見落とされていたこの前提。Carlaは「連れていけそうな人はいないんですか?候補は?」と、さも恋人を作るのなんて簡単でしょうという言い方をするので、companionが必要であるという情報を後出しにされた(と感じた)ことと相まって、Bronfmanは人生の中で一二を争うくらい激しく(心の中で)怒ります。Carlaに対して、「僕に今から、6フィートの身長のある、金髪巻き毛の男になれというのか!?」と静かにキレるなど。(問題はそこなのか?w)

まるでモテない外見の上、女性と交際したことすらない(デートは人生の中で3回しかないし、最後のデートは数時間で終了した)Bronfmanにとって、リゾート地に連れて行けるような女性を見つけるなんていうのは至難の業。彼だって恋人を作るための努力をしてきた。しかし努力とその実績が比例しなかったんです。

ショックを受けているBronfmanにCarlaは2つのことを提案します。

一つ目は「嘘をつきますか?」ということ。Destinに行って、今日は彼女は風邪をひいていますとでも言えばいいんじゃないですか?と。お前がそんな提案する?と思うんですが、所詮雇われオペレーター、別に誰でもいいわけです(ノルマがあるわけでもないし)。それに対するBronfmanの答えはノー。そこまでして権利を得るわけにはいかない、と断ります。

二つ目は「79日で相手を見つける」ということ。彼の権利は6/26まで受け取りの猶予があります。つまり4月の今日から計算してあと79日もある。「79日ですよ?ほぼ3か月。79日もあれば何でもできるでしょう?」と言うのです。怪訝な声を出すBronfmanにCarlaは”You have to open yourself up to your life. Face your greatest fears. Discover what it means to be alive in the world.” という言葉をかけます。そして、companionが必要であることをstrings(しばり)ととらえるのではなく、lifeline(頼みの綱)ととらえましょうよ、と。

Extra-ordinary Adventureからの電話は自分にとって大きな意味を持つかもしれない、そう思ったBronfmanは、Destinに誰かと行くことを胸に誓い、電話を切ったのでした。

 

ここまでがDay1

Day1はほとんどがCarlaとの会話なのですが、その会話の中でBronfmanは自分の人生に思いを馳せます。

例えば彼の今住んでいる家。高速道路の側でいつもうるさい。トラックがビュンと通るたびにびっくりするほど。治安も悪く、事件が絶えない。野良犬の収容所が近くにあって、夜になると遠吠えが聞こえてくるという不気味な場所。こんな場所だからこそ「1か月家賃はタダ!」と、いつも住人を募集している。そのうたい文句につられて住み始めてそろそろ1か月。近くにはちょっと頭がおかしい母が住んでいて、それが心配の種。おそらく認知症が緩やかに進行中。口を開けば「いつ帰ってくるの?」

Bronfmanは、自分の人生はAからB、BからC、CからAの三角形を描くような毎日だと疲れ切っています。言うまでもなく、ABCとは自宅、母の家、会社でしょう。そして自分はこの世界にmisplace(置き間違い)された存在だと孤独を感じている。

彼の特技は「最悪な状況のシミュレーションをすること」。Carlaから電話がかかってきて、「Edisel Bronfmanさんですか?」聞かれた瞬間、母に何かあったか、クビになるか、それとも先月の検診で何か見つかったか…etc... 自分に起こりえる悪いことを羅列します。子どものころからこういう思考回路にならざるを得なかった人生。そして、それが大いに役立ってきた人生。ということから、Bronfmanの34年間は推して計るべきでしょう。

 

本を読みながら思い出されたのは、「LIFE!」という映画。恋愛を契機に自分のreal lifeと向き合っていくような話です。

海外の務め人といったら、バリバリのイメージがありますが、これは働きアリのような生活になじんでる疲れたサラリーマン風。それもLIFE!と似ている。結末は読めるんだけど、この映画はオススメ!

LIFE!/ライフ オリジナル版 (字幕版)

 

自己肯定感も低く、女性経験のないBronfmanは、79日間で何かを変えようとと試みます。Day2以降にそれは描かれるんですが、ただ単に彼女を作ろうというのではなく、まずは人と関わっていくことから始めようと奮起する。いきなり出会い系アプリに登録しないあたり好感が持てるw

Carlaは、Bronfmanとの会話を総合評価し「あなたはいい人ね」と言います。オペレーターとしてたくさんの人と話してきた経験から、Bronfmanの素直さに感銘を受け、彼は自己評価するほどダメな人間ではないのではないか?と見抜きます。この言葉が今後のストーリーを暗示しているという見方ができて、実はBronfmanは全然ダメじゃないんですよ。それはこれからのお楽しみ。

あとは、Extra-ordinary Adventureってどんな組織なのかなぁ、というのもお楽しみに。

 

Day2に

つづく。

 

dandelion-67513.hateblo.jp

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