はらぺこあおむしのぼうけん

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自分の価値を認めてくれる人のそばで生きたいというすごく単純なこと 万城目学「とっぴんぱらりの風太郎」

こんにちは。

 

久々の万城目学です。「プリンセス・トヨトミ」も待機中。実は、「バベル九朔」で受けた衝撃が忘れられず、「はずれだったらどうしよう、こんなページ数…」なんてヒヨっていましたが、こちらはアタリ!

ただ、めっちゃ長いのだけど…

万城目学とっぴんぱらりの風太郎」。風太郎は「ふうたろう」ではなく、「ぷうたろう」と読みます。つまり、ニートの物語。

とっぴんぱらりの風太郎(上) (文春文庫)とっぴんぱらりの風太郎(下) (文春文庫)

 

時代は、関ヶ原の戦いの後~大坂の陣の頃。大御所(徳川家康)の世になりましたが、依然豊臣家は大阪城で暮らして、力も金も(いくばくか)もっている。家康にとっては目の上のたんこぶ的な存在ですから、早めに始末したいんですね。でも、下手に暗殺やアンフェアなやり方で片付けてしまうとミソがついてしまうから派手には動けない…。戦で正々堂々?打倒したいと、うずうずしている家康でした。

主人公は風太郎。伊賀出身の元忍者です。彼は、捨て子が共同生活を送り一流の忍者を目指す「柘植屋敷」で育ちました。ただ、柘植屋敷、忍たま乱太郎とは比べ物にならないくらいめちゃめちゃ厳しく、生き残れるのは1人や2人くらいです。6歳や7歳の子にも容赦はなく、訓練の最中に亡くなったりする地獄。脱走はご法度で、問答無用で殺されます。数年前、柘植屋敷の火事に乗じて風太郎は命からがら逃げだしました。その後、伊賀を治めている御殿のもとで働き始めますが、風太郎は黒弓という南蛮出身の忍者のせいで大失敗をし、伊賀を追い出されます。そして都へ。

黒弓っていうキャラがこの物語のポイント。こいつが来るとろくなことが起こらない。吉田山のあばら家を訪ねてきた黒弓のせいで、彼はひょうたんの精?の因心居士なんていうのと出会います。しかも彼からの依頼も、黒弓のせいで失敗。因心居士に借りを作る形に…「時期が来たら、俺を大阪城まで連れて行け」という願いを聞く羽目になります。この願いは後々出てくるので置いといて。風太郎は、伊賀からのとりなしもあり、安寧坂のそばにある瓢六という瓢箪屋で働くことになります。(週3くらい勤務。フリーターに昇格していますね)

 

風太郎はずーっと、劣等感を抱えて生きてきました。柘植屋敷時代から、蝉左衛門や百市というエリート忍者に水をあけられ、馬鹿にされてきました。彼らほどの腕はなく、そして冷酷にもなれない。居場所がない。そして伊賀を追い出されてからも。

黒弓は商才がありましたから、伊賀からもらった手切れ金を元手に資産を増やしていき、忍者に未練はありません。瓢六では、この人ほんとに名門の柘植屋敷の生き残り?(通常、柘植屋敷の生き残りと言われれば、厳しい修行に耐え抜いたエリートを指す)という目で見られ、しんどい。

特にとりえのない人間は、どこかに所属することで一応の心の平静を得られますから、風太郎も伊賀忍への復帰を目指します。しかし、瓢六の仕事を斡旋されたのは、伊賀で世話になった儀左衛門の同情であったと知り、復帰は難しいと深く落ち込む風太郎でした。

 

さて、瓢六の仕事の中で、高台院様(ねね)との出会いが訪れます。ねねの依頼で、祇園祭の一日、常世という昔馴染みと黒弓の3人とで、ひさご様という高貴なお方の警護をすることに。(実はひさご様は豊臣秀頼。お忍びで京都見物をしたくて、高台院に依頼してこっそり見物させてもらっていた、というのは今は秘密)残菊という、吉沢亮風の傾奇者の恰好が似合って残忍な忍者(とにかくイケメン)に殺されかけ、犠牲を払いながらも何とか逃げおおせます。残菊は最後までねちっこく絡んできますから、お楽しみに。

 

「侍が犬なら忍は猫のようなもので、自分の技を高く買ってくれる人の元になつくだけさ」っていうのは銀魂の服部の言葉ですが、忍びには、自分の意志を持たないことが求められます。しかし、ねねやひさご様との出会いで、自分を一人の人間として扱ってくれる彼らへの愛情が生まれてきた風太郎でした。

しかし、豊臣家と徳川家の対立は避けられず大阪冬の陣が始まります。風太郎のもとに、伊賀からの仕事が降りてきました。それは、実働部隊の見通しをよくするために村を焼き払うこと。既に忍者というよりも、足軽のような仕事になってしまっていますが…風太郎は村人を殺し、幼子を殺し、人の心を失って帰京します。あんなに望んだ伊賀忍への復帰も嬉しくない…あばら屋に戻り引きこもり生活。

 

さて、話は因心居士に戻ります。すっかりなりを潜めていましたが、「時期が来たら大阪城へ連れて行く」という約束、覚えていました?「わしを装え」という命令に従って、綺麗に漆を塗ってもらい絵も描いてもらい、腰に携えいざ大阪城へ。時は奇しくも、大御所が再度、堀を埋められて丸裸になった大阪城を攻めようとしていた時でした。

この物語の見どころは、夏の陣真っただ中の大阪城に乗り込む風太郎と黒弓(と蝉)の獅子奮迅の戦いぶり、死を前にした秀頼から託された赤ちゃんを連れ帰るという極秘のミッションです。

 

話があっちこっちにいきましたが、ざっくりまとめると、「ニート忍者が失敗して伊賀から追放されプー太郎をする中で、高台院と秀頼に出会い、彼らに心を開いていく。一度は伊賀忍に戻るが自らの意志で高台院らの力になることを決め、決死の覚悟で大阪城に乗り込んでいく話」そしてそれを導くのが、ひょうたんの精である因心居士。と、こんな感じ。救いのない結末で、読んだあとにちょっと鬱になるの注意!

ページをめくる手が止まらず、総計7時間くらいがあっという間です。

 

とにかくトークが軽やかで面白いし、キャラの作り込みも良い。それぞれ闇を抱えながらも、自分の人生に向き合っている姿に頭が下がります。そんなことよりも、淡々とひたむきに生きる彼らがハタチにも満たないっていう事実に涙が…

 

続編であるプリンセストヨトミもセットに、夏のうちにどうぞ!

 

おわり。