はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

海外文学

幸せはバックミラーにしか映らない ガエル・ファイユ「小さな国で」

こんにちは。 最近は外出禁止ムードですが、いかがお過ごしでしょうか。 おうち大好きの私にとっては、スーパーに行く以外は全て不要不急の外出で、普段から誰に頼まれなくても家にこもっています。それならば、さぞ幸せな自粛生活だろうと思われがちですが…

人間やっぱり平等なんかじゃない。全ての心に深い傷を持つ人へ贈る物語 ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventures」

こんにちは。 ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventures」です。 冴えない童貞男(34)がひょんなことから79日間で恋人を見つけるのに挑戦する話です。出てくる人物みんなアレなところがあるし、下ネタ満載で乾いた笑いをもらしてしまうシーンもたくさ…

ダニエル・ウォレス「Extra-ordinary Adventure」① Day1 ー運命を変えるかもしれない電話ー

こんにちは。 以前、記事で本を取り上げ、「この人の本面白いのに…」とぼやいていたダニエル・ウォレス。未邦訳の本にチャレンジしてみることにしました。 チャレンジする本は、「Extra-ordinary Adventure」 海外の小説って大学受験英語で出てくるような、…

カラヴァル:負のエネルギーに満ちたディズニーランドで行われる騙し合い。半分まで面白いけど、尻すぼみ。 ステファニー・ガーバー「カラヴァル(Caraval)―深紅色の少女」

こんにちは。 2018年の本屋大賞の翻訳小説部門第一位。ステファニー・ガーバー「カラヴァル(Caraval)――深紅色の少女」。 一位ということで普通に期待していましたが、全体的に幼さがにじみ出ていて消化不良。 主人公はある帝国の属州トリスダ島で暮らすス…

謎の結社に絡む謎の出来事の秘密を暴く…「赤毛同盟」の詰め合わせ風味 チェスタトン「奇商クラブ」

こんにちは。 チェスタトン「奇商クラブ」 以前、とんでもないオチにやられたチェスタトン作品のリベンジ。「木曜日だった男」で受けた印象が最悪でしたから、「木曜日~の借りを返してもらいに来たぜ。次はないからな」という上から目線で読んでみました。 …

初めて「もし…」という言葉を使いたくなった歴史小説 ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」

こんにちは。 「女王陛下のユリシーズ号」を読んでいたせいかAmazonが推薦してきたこちら。ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」です。こちらはドイツ軍によるチャーチル誘拐作戦をつぶさに書いたルポ風小説。かっこいい男がたくさん出てくるという点では「…

冴えない人生×ホラ話×人生哲学…「ビッグフィッシュ」の前日譚 ダニエル・ウォレス「西瓜王」

こんにちは。 「ビッグフィッシュ」に続いて、ダニエル・ウォレス「西瓜王」です。 ビッグフィッシュの父エドワードの出身地アシュランドで起きたお話です。「ビッグフィッシュ」の中で触れながらも明快な答えを出せなかった、「なぜ人は自らを飾り立てずに…

面白みのない真実よりも、語り継ぎたくなる物語で彩る人生 ダニエル・ウォレス「ビッグフィッシュ」

こんにちは。 昨年読んだ「ミスター・セバスチャン~」の作者ダニエル・ウォレスの作品2つ。「ビッグフィッシュ」(と「西瓜王」) 一緒に紹介した理由は、「ビッグフィッシュ」と「西瓜王」がつながっているからです。「ビッグフィッシュ」の主人公の父エド…

世の中には一つとして「完全オリジナル」の小説は存在しない 「大学教授のように小説を読む方法」

こんにちは。 世界的に売れた本です。トーマス・C・フォスター「大学教授のように小説を読む方法」 世界的な文学作品の読み方を笑い転げながら理解できる本。今までのテクニックを試すためのテストと、巻末にオススメ本が難易度別に紹介されているのが素晴ら…

泣ける×いちいちかっこいい=やっぱりこういう小説はいい アステリア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」

こんにちは。 アステリア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」。映画化もされたようです。 ガンダムや銀英伝好きとしては、好きなジャンルの小説。ハッチとかタラップとかいう単語を聞いて、なんかかっこいい!と興奮する人にはたまりません。そして、泣…

「もうそこらへんでヤメにしたら?」と言ってくれるかけがえのない存在の欠如。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」

こんにちは。 カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」 後半戦、いっきまーす。 dandelion-67513.hateblo.jp 後半戦へ行く前に、前回どんな終わり方をしていたかっていうと。 カズオ・イシグロ作品の特徴として、主人公の回想の中に思い違いや嘘が混…

ほとんどが幻想? 今までと同じアプローチでは読み難い作品。カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」前半戦

こんにちは。 前回、前々回に勢いづいて、カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」。抒情的な作品が続いたということもあって、結構イケるじゃんと思っていたのも束の間。今回は少し毛色が違います。やっぱり、カズオ・イシグロは難しい。一筋縄では…

嫌いな人間の嫌いなところを挙げてみると、全部自分にあてはまったりする。カズオ・イシグロ「浮世の画家」後半戦

こんにちは。 後半戦、いっきまーす。 これまでのあらすじはこちら。 話は見合いの約半年後。1949年冬。 縁談がまとまった紀子は、斎藤Jr.(太郎)と結婚し、新生活を始めます。節子を伴って紀子の新居へ遊びに行く道中、節子がこんなことを言います。「紀子…

自分が失ったものをひとつひとつ数え上げながら、それでも自己正当化をやめない老人への冷徹な視線。カズオ・イシグロ「浮世の画家」前半戦

こんにちは。 「遠い山なみの光」に続いて一気に5作目。今回も川端康成テイストで面白い。1日で読み終えてしまいました。いろいろと浅い私のような人間は、やっぱりこれくらいシンプルなのがいいなぁ~と思うわけです。 本作品も終戦後の日本のお話で、「遠…

結局人は、他人と喋っているように見せて、他人のような何かと喋ってるだけなのだろう。 カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」

こんにちは。 久々のカズオ・イシグロ作品、4作目です。心のどこかでどんでん返しを期待していたのですが、今回は淡々と。 原題は「A pale view of hills」で、もともと「女たちの遠い夏」というタイトルだったとのこと。改題され、直訳の「遠い山なみ~」に…

続編ということもあって期待値が上がった?半端な試練の波状攻撃 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ハウス」

こんにちは。 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ハウス」。前回の「~ガーデン」の続編です。「~ガーデン」と続編の「~ハウス」は同時に購入していたのですが、ガーデン読了後に、続きを読みたい!という気持ちが全く起こらず、しばらく放置。「…

ノーと言える女はいい女。勝ち女になるための最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」後半戦

こんにちは。 つづき、いっきまーす。 物語のあらすじはこちらから。 dandelion-67513.hateblo.jp ③情に流されない 「一時の情に流されてはいけない、有利な条件を持ち出すことをいつも考えるべし」それが一度目の結婚(兄と弟のゴタゴタ)で得た教訓でした…

自分が幸せなら、他人から憎まれようが気にならない。勝ち女になる最強の掟。デフォー「モル・フランダーズ」前半戦

こんにちは。 デフォーっていう名前よりも、「ロビンソン・クルーソー」のほうが有名。「モル・フランダーズ」です。一言で言うと、「なんか応援できない女」モルの人生回顧録。ところどころでイラっとするし、「それでも幸せに暮らしました」という結末には…

絶対読み返したくない不快感。もしかして、同族嫌悪からきている? 新潮クレスト「ソーラー」

こんにちは。 毎度毎度、私の中に衝撃をもたらしていくイアン・マキューアン。4作目「ソーラー」 正直、「さわやかな読後感!」とは程遠く、読んだ後も「…」って気持ちになるし、4作品も読んでいながら「ファンです!」とは言いたくない”何か”がある著者なの…

自分のものだと思った相手には平気で不義理をはたらく モーパッサン「わたしたちの心」後半戦

こんにちは。 前半戦の続き、いっきまーす! dandelion-67513.hateblo.jp パリに戻り愛人関係となった二人は、秋、そして冬を迎えます。冷え切っていく心と季節の描写の対比が素晴らしい。 モーパッサンの自然の描写は本当に美しいです。絵を見ているよう。…

2019年に出会えてよかった本BEST10

こんにちは。 今年の総まとめに、2019年に出会えてよかったなーと感じている本を紹介します。2019年に”出会えて”なので、必ずしも2019年刊行ではありません(というかほとんど違うかも… 最も印象に残った本をもとに、連想ゲームのように紹介していこうかなと…

好きになっちゃダメだと思った時点で惚れているし、あの人のことが好きなのかしらと考える相手のことは好きじゃない。モーパッサン「われわれの心」前半戦

こんにちは。 モーパッサン「わたしたちの心」です。 4、5年前に一度読んだきりだったのですが、9月に新訳が出たので改めて。「女の一生」や「脂肪の塊」、「ベラミ」等は現在も入手可能ですが、「わたしたちの心」は入手困難だったため、新訳が出るのはすご…

マジかよ!こんなオチありかよ!!! チェスタトン「木曜日だった男」

こんにちは。 チェスタトン「木曜日だった男」です。タイトルに惹かれて手に取り、「この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩…それは、幾重にも張り巡らされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まり…日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結…

やっぱり作者は主人公を助けてしまうのか。救いの光ほとばしるラストがちょーーーっと微妙な「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~B面~(ネタバレ)

こんにちは。 前回、ベンの成長、ベンとエイミーの関係の修復という面からレビューした「ロボット・イン・ザ・ガーデン」A面。今日はB面です。(もはやA面/B面は死語でしょうか。私とてMD世代w でも、A面とB面以上にぴったりくる言葉が見つからない) dand…

結末は読めているんだけどページをめくる手が止まらない。英国版ドラえもんの実力やいかに? デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~A面~

こんにちは。 最近話題になっていて、本屋さんでも平積みされているコレ。 デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」です。英国版ドラえもんと書かれて絶賛されていましたが、さてさて。 舞台はイギリス。無職男のベンは、有能な弁護士である妻…

若い頃の熱狂が失われて用心深い私生活に入った中年男。実は氷の上に立っていた。新潮クレスト「アムステルダム」

こんにちは。 イアン・マキューアン(私の中で)3作目。新潮クレスト「アムステルダム」 一言でまとめると、物語の筋は星新一のショートショートを見ている感じで、無駄が少なくまとまりが良い。ちょいちょい老いることのエッセンスみたいなものを織り交ぜて…

どうしても戻りたい“あの時”がある人と、そうではない人 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」

こんにちは。 新潮クレスト「ファミリー・ライフ」 事故によって寝たきりになってしまった兄と崩壊する家族を、弟目線で描いた話。自分の体験に基づいた作品のようです。こういう救いのない系は、実はすごく苦手。得られる教訓も少なく、読後にやるせなさが…

知らないという恐怖。理由を失えば、それだけ恐怖は怪物的になる カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」後半戦です。息を吐くようにネタバレしていこうと思います。 前半戦はこちら。 dandelion-67513.hateblo.jp ウィスタン、エドウィンと旅をすることになった老夫婦は、ガウェイン卿なる老騎士と親しくなり、…

どうせお前ホラ語ってんだろという目線で読み解く カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」前半戦

こんにちは。 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」です。 カズオ・イシグロ作品は、「私を離さないで」、「日の名残り」に続き3作目。彼の作品は、文章が超絶難解というわけでも、世界観がぶっ飛んでいるというわけでもないのですが、何となく読みづらい。た…

照れやの女より恥ずかしがり屋の女のほうが100倍お得である コレット「青い麦」

こんにちは。 「シェリ」で有名なコレットの「青い麦」。新訳が出たので読んでみました。 「シェリ」は、元高級娼婦のレアと、シェリ(わたしのかわいい子)と呼ばれる青年フレッドの長い交際を描いたもので、心理描写や当時の風俗の描写が巧みで高い評価を…