はらぺこあおむしのぼうけん

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祝!本屋大賞翻訳小説部門2位!「神さまの貨物」ジャン=クロード・グランベール

こんにちは。

本屋大賞が発表されました!

 

本屋だからこそできる本との出会いに価値を見い出し、本屋を盛り上げようというこの企画自体は大賛成ですが、国内作品については、販売開始してから其処此処で話題になっているような人気作ばかりこぞってチョイスされるのがちょっと意味がわからない。

そもそも、ノミネート作を見ると、書店員というブランドそのものが曖昧になってきます。既に売れていて「なんかほっこりあったまるいい話」や「ちょいミステリー」などを激推してくるライトな読書家が多いなら、そんな書店員のチョイスをアホみたいにありがたがるのはどうなのだろうか…?と。

ただ、こういう本は、出張の時に手持ちの本が切れたとき、どこでも手に入る上面白いという大変力強い相棒であるので、文句たれながら結局読むんだけど。笑

 

実は本屋大賞は、自分好みの本をてめぇで選べないようなバカ共には、自分に本当に刺さった本なんて教えてやらねぇ。どうせ大して内容を理解できないんだからライトなやつから始めとけよ?という書店員の皮肉なのかも…。「オススメ本なんですかぁ?」ってヨダレ垂らしながら聞く愚民共を書店員がこぞって馬鹿にする裏テーマがあったり…、と、そんな妄想をするのです。

 

さて、前置きが長くなりましたが、本屋大賞翻訳部門!

1位はおおかたの予想通り「ザリガニの鳴くところ」。2位は「神さまの貨物」と3位は「あの本は読まれているか」でした。個人的には海外文学を盛り上げるために、翻訳部門も10位までランキングして欲しい!

 

「神さまの貨物」ジャン・クロード=グランベール

神さまの貨物

むかしむかし、から始まる昔ばなし。ただ、語られるのはホロコーストの恐ろしいお話。

木こりの夫婦は、厳しい寒さと飢えの中、何とか食いつないでいました。幸い、食べさせるべき子どもがいないため、飢えた子どもを抱える他の家に比べるとまだマシなほう。自分たちに子を授けなかった神の采配に感謝する夫でしたが、妻はその反対のことを思っていました。食べさせる子どもがいないということは、愛すべき子どももいないことだから。

 

妻は、森を歩いているときに、変わった列車を見かけます。その列車を眺めながら、飢えからも寒さからも解放された、旅する自分を夢見たのです。手を振ると、時々手を振り返してくれることもあれば、何か書いた紙を投げられることもある、不思議な電車。彼女の生活は、列車を待つこと中心の生活になっていきました。

 

さて、その列車とは何のための列車だったのか。

それは、ユダヤ人を強制収容所に連行するための列車でした。

 

ここで物語は、元医学生で床屋の男の家族の話に移ります。男は、妻と双子の子どもと4人で、列車に乗ってどこかに向かっていました。乗っているのは、老人、目の不自由な人、子どもたち…こんな”用なし”の人間に待っている運命は容易に想像がつきます。自分が家族を守らなければ、と、刻々と悪くなる状況の中で考え続ける男。

双子にあげる乳も尽きた頃、男は子どもの1人を取り上げ、窓から木こりの妻に渡したのでした。

 

木こりの妻と、神さまからの贈り物である娘の苦しい暮らしと、男の収容所暮らしを交互に見せられ、陰鬱とした気分になる小説。救いも無し。

もしかしたら著者はハッピーエンドを描いたつもりかもしれないけど、こっちからしてみたら、あんなにあがいて苦しんで泣いて得られたのがこんなちっぽけな幸せって…、こんなのハッピーエンドじゃない!ってなる。

 

戦争は、猛烈な嵐のようなもので、民衆は耐え、逃げ惑い、過ぎるのを待つしかありません。終わった後も、「災難でしたね」で済まされてしまう。天災でなく人災のはずなのに、いつも天災扱いで事後処理されます。生き残るためになりふり構わず突き進む戦時中、失ったものを数える戦後…。

戦争ものは、登場人物に降りかかる災いを誰のせいにできないので、救いがなくて読むのが辛いですね。「あのときあんなことしなければ…」という過去の一地点にも遡れない。やりきれない。

 

収容所で祖父と父を亡くした著者が伝えたかったことは「エピローグ」にあります。

今までの口調と打って変わって、反語を多用した著者の生の言葉は、読者に何かを迫るよう。童話のような仕上がりに若干物足りなさを感じていましたが、エピローグの最後4行に全部持って行かれる。ああ…これを伝えるための物語だったのか…!!と。

そしてもっと驚きなのが、「覚え書き」。実際に、生後28日の双子が移送されたという事実か明かされます。おそらくこの事実に着想を得た物語なのではないかと思います。

 

実際の人生でも物語のなかでも、ほんとうにあってほしいもの、それは、愛だ。

 

持つ者が持たざる者に与えることすら難しいのに、持たざる者がより持たざる者に自分の全てを与えたこの愛の物語に、息が苦しくなるほどたくさんの思いが渦巻きます。

普遍的な「愛」をテーマにした物語ですが、「心が温かくなりました!」程度の感想では済ませたくない。凄惨なホロコーストの現実を伝えたかったという著者の思いを汲んで、「夜と霧」をもう一度。

 

2022年にアニメ映画化予定とのこと。

あと、この作品、2019年のフランス本屋大賞(Le Prix des Libraries)で審査委員会特別賞を受賞したそうです。フランスにも本屋大賞あるんだ!!笑

 

本屋大賞1位・3位のレビューはこちら

 

dandelion-67513.hateblo.jp

 

 

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