はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

穏やかに見えるけど、怪しい人間がうろつく「狂気の森」で起きる失踪事件が暴く人の闇。「娘を吞んだ道」スティーナ・ジャクソン

こんにちは。

 

最近は海外ミステリにどっぷり浸かり、面白そうな本を探しては読みあさっています。ある事件を通して、社会の構造的な問題や、人間の底を垣間見るような作品が好き。海外ミステリはファンが多い分、ガイドブックなんかも充実しているのが嬉しい。最近は暇さえあれば「このミス2021年度版」で次読む本に目星をつけています。

古典作品ばっかり読んでいた頃は、レビューもガイドブックもなく、「読書ってこんなに孤独な行為だったなんて…!」とか思ったりしましたが、海外ミステリ沼に落ちてからはそんな切なさとは無縁です☆イエイ!

 

2021年度のランキングからは悔しくも漏れてしまいましたが、自然・風景描写が大変素晴らしく、独特な雰囲気にのみ込まれてしまうのがこちら。

 

「娘を吞んだ道」スティーナ・ジャクソン

娘を呑んだ道 (小学館文庫)

舞台はスウェーデン。3年前にリナという少女が失踪しました。父親のレレは、リナのことを夜な夜な探し回っている高校教師。ある時、レレの働く高校に、メイヤという女子が転校してきました。メイヤの母は、男のもとに転がりこんでは別れ、を繰り返しているダメ女。妻にも捨てられ孤独なレレと、家に居場所のないメイヤには通じ合うものがあるようで、メイヤは次第にリナの事件に興味を持ち始めます。

その夏、リナが失踪した場所からそう遠くない場所で、ハンナという少女がまた失踪します。ハンナの失踪をきっかけに、三年間止まっていた時がついに動き出す…!

 

北欧はいいところと言われるけれど、北欧の小説はその片鱗すらなかった。笑 自然は美しいかもしれないけど、気候は最悪。夏なのにムシムシしてて、すっきり晴れることがほとんどありません。そして一日中太陽が沈まない白夜。夜になっても外が明るいなんて、まるで眠れやしないし、次第に変な気分になってくる気がします。まるで満月の夜のオオカミみたいに。レレの住む村も、一見穏やかに見えるけど、怪しい人間がうろつく「狂気の森」という印象。

 

そんな狂気の森に身を潜めるのは、戦争の経験から人の世を倦み山に引っ込んだ男や、若い頃に犯した罪を隠し、ひっそりと暮らす男。しかもだいたい銃を携帯しているという恐ろしさ。

リナの失踪当初、レレはそんな怪しい男の家をしらみつぶしに捜索していました。罵声を浴びせられたこともあれば、コーヒーに誘われたことだってあるけど、捜索の中で見つけたものはそれぞれの男の”孤独”だけだった。という言葉が印象的。

レレのまわりにはそんな哀しい男がたくさんいます。世の中の出来事と折り合いがつけられず、森にしか居場所がない男たち。

 

メイヤを取り囲む男も例外ではありません。メイヤの母の彼氏であるトルビョルンは、(陰で)ポルノビョルンの愛称で親しまれるポルノ蒐集家。怪しい小屋も持っている。

メイヤの彼氏は、世界の終末に備えるサバイバリストの一家の末の弟。彼氏はイイヤツだけど、彼氏の父と兄はちょっと気持ち悪い。「国に監視されている!!」という理由でスマホも禁止のおうち。

 

こういう事件における捜査の鉄則は「まずは関係者を疑え」ということで、情緒不安定なリナの彼氏も容疑者にラインアップされているし、読者としては、物語の語り手である酒浸りのレレも完全に白ではない?という印象。また、リナの同級生に言わせると、リナは優等生風の外見をした「クソビッチ」らしく、リナの正体もつかめない。事実、こんなクソみたいな村から出て行こうとする若者も少なくなくて、事件なのか家出なのか、それすらわからないまま、レレは娘を探し続けます。

 

唯一同じ痛みを共有できるはずの元妻アネッテは、娘はいなくなったものとして前を向こうとしていて、娘を探す努力をしているレレとは逆方向。娘を探すレレに対して、「あんまり変なコトしないでよねっ!!もうそういう恥ずかしいコトはやめてっ!!」となじる。アネッテはFacebookで悲劇のヒロインになりきり、それっぽいpostを繰り返して若干気持ちよくなっている節あり。リナが失踪して3年目にあたる日に彼氏のトマスと企画したイベントはまるで追悼式典のよう。しかもその後に「リナ、妹か弟ができたのよ」とトマスとの間にできた赤ちゃんのエコー画像をpostするなどするので、「ああ、こういう自己顕示欲の強い母親を持つと苦労しそうだな…」と、リナの家出説も現実味を帯びてきたり。

レレ曰く「トマスはセラピストとして、あそこをびんびんにして準備万端アネッテを受け入れた」(!!)とのことで、アネッテを睡眠薬と鎮静剤漬けにした上、折に触れて元夫に張り合おうとするトマスもなんか気持ち悪いということで、トマスも怪しい男リストに加えておく。笑

 

美しい森だけど、その中には”なにか”が身を潜めている。娘を見つけることを諦めないレレが、ひっそりとした森の中のコミュニティで積極的に波風を立てることで、事件の真相が明らかになります。辛い道のりを歩むレレの心の支えはきっと、メイヤの存在。レレにとってメイヤは「まだ自分は誰かを助けられるかもしれない」と思わせてくれる大切な存在だったのでしょう。

支え合う二人の未来に一筋の光が射し込む良い感じのエンディング。

 

 

ただ、心理描写や切なさ、ハラハラ感は良いけれど、ミステリとしてはもう一歩という感じがします。犯人当て要素は薄め。伏線の回収もいまいち。リナがクソビッチと噂された件についても真相は語られなかったので、本当にただ救いようのないビッチだった説すら出てくる。しかも、私が苦手な、さいごに長い自白で種明かしする系。いきなり犯人がべらべらしゃべり出し、「お、おまえ…無口やなかったんか…!?」ってなるのは結構興ざめしませんか。笑

 

前半怪しいヤツをたくさん出すのは良いけど、後半は犯人しか出てこないので、既定路線というか、もうこいつしかいないんだろうなぁ~ってなります。コナンのように、容疑者全員に一度は怪しいアクションをさせるくらいのサービス精神があってもいい。暗い森に迷い込んだ先で真実にたどり着くような他のミステリとは違い、中盤から犯人判明までは、周りに何もないハイウェイをひた走っているような印象。

犯人まであとは一本道です!!

ってそれでいいのか、ってなる。笑

 

途中までは面白かったのに、中盤以降の展開で最初に醸した怪しい雰囲気をダメにしてしまった感があってちょっとだけ惜しいので、次頑張りま賞ということで。笑

 

おわり。

 

このミステリーがすごい! 2021年版

このミステリーがすごい! 2021年版

  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: 単行本