はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

【6月映画公開】魅力的な人間は過去に支えられている「ガラスの城の約束」

6月に映画公開するこちら。「ガラスの城の約束」ノンフィクション作品です。

ガラスの城の約束 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

さて、「魅力的な人間は過去に支えられている」これ、私が考えたわけではなく、謝辞っていうんですか、一番最初に出てくる挨拶みたいなの、あれに書かれていました。「BIG FISH」に続いてこんなお話。

dandelion-67513.hateblo.jp

 主人公のジャネットは、ニューヨークで暮らす成功者。あるときゴミ箱をあさる浮浪者の母をみかけます。ジャネットは、父母、姉、弟、末妹の6人家族で育ちました。トレーラーハウスとやらに住んでいる極貧家庭です。父は新しいエネルギーを開発してエネルギー王になる的なことを言っていて、母は、私画家になる、ピカソも昔は不遇だったとか言ってしまう、どっちも一発当ててやる系父母。犯罪まがいのこともしますし、税金など滞納をしているので、常に追われる生活。いつもいつも、夜逃げばかり。

ケガをしたときに呪術医に見せたりする、といえばだいたいお察しいただけると思いますが、育児放棄に正当な理由をつけて自分をごまかしている母。こういう父母のもとに生まれた3人の兄弟が、力強く行きていく様子と、大人になるまでの葛藤。そして大人になってからの親との微妙な関係を描いた作品です。

 

親って、好きですか? 「好き!」と即答できる人、それはとっても幸せな人か、洗脳されている人かの二択だと思いますw 好きだし、好き以上の感情はあるけれども、割り切れないものも持っている、そういう人も多いのではないのでしょうか。

 

ジャネットも、被虐待児と言っても過言ではありません。両親の浪費のせいでごはんがまともに食べられない、喧嘩ばかり、叶わぬ夢を見ていて子どもの意見なんて聞きやしません。しかし、子どもながらに幸せを確かに感じるているんですね。「お前は天才だ」って言われたこと。「お前は自慢の娘だ」って言われたこと。そんなことを時々思い出しては、心を慰めている。

そして、年齢を重ねて自分の親を客観的に判断できるようになり、自分の親がダメ親だと知ってしまった後でも、どこかで親を慕い続け、親が苦しんでいる姿を想像しては、呼吸が上手にできなくなるほど胸を締め付けられています。

 

普通に考えて、ジャネットが父母に抱く感情や父母への行為と、父母から子どものときに受けた行為とは、到底ペイできるものではないんです。赤の他人が見たら、「そんな親捨ててしまえ」となるわけです。でも、できない。できるわけがない。

子どもって、すごいんですね。なぜか親が大好きなんです。親との悲惨な思い出を美しい思い出に転換する。苦しい出来事も、自分を悪者にすることで父母を良き存在として解釈し続ける。確かに愛されていたという思い出が、子どもの心を鷲掴みにして離さない。無償の愛というのは、親が子どもに与えるものではなくて、子が親に対して持っているものなんだろうと思います。

それが冒頭の「過去に支えられる」ということを指します。

 

親はずるい。気まぐれに示した愛の一つや二つで、生涯の子どもからの愛を獲得できる。そして、今まで子どもにかけた苦労や心につけた傷は、死ぬ前の「ごめんね」で水に流してもらえる。「毒親」という言葉が知られるようになって、親と子のこういったいびつな関係が浮き彫りになってきたように感じますが、古くからこういうことはあっただろうと思います。

 

親目線で。そして娘目線ではっとさせられることも多々ありますし、身を切られるような情景も浮かんだり。これがこの家族の答えか、と腑に落ちない部分もあったり。

どのように描かれるか、映画公開が楽しみです。

 

おわり。