はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

普通の生活を取り戻すための哀しき戦い 伊坂幸太郎「フーガはユーガ」

こんにちは。

本屋大賞の予想は当たりましたか?

私は、伊坂幸太郎の「フーガはユーガ」、森見登美彦の「熱帯」は既読だったので、どちらかが獲ってくれたらいいなと思いながらも、「まぁ、ツイッター等々の評価を見る限り、残念ながら『ベルリン(は晴れているか)』一択だな」…と歴戦の勇者顔していましたが、予想が全て外れるなどしました。

 

直木賞もそうでしたが、難しいです。

ちなみに日本翻訳大賞は「タコ」(タコの心身問題)か、「エブリデイ」がいい線いくかもな…と、本屋大賞の時と同じように歴戦の勇者顔していましたが、最終選考にも残りませんでした。私もまだまだです。

 

「フーガはユーガ」伊坂幸太郎

 

双子の男の子、フーガとユーガは不思議な能力を持っています。誕生日にだけ2時間中身が入れ替わる、という能力。 

伊坂幸太郎作品には決まって、敵役となる悪いやつが出てくるのはご存知だと思いますが、今回はダブル主人公体制ということで悪もてんこ盛り。出てくる大人が揃いも揃って腐れ外道です。

彼らは、あまり幸せではない子どもです。父親がDV野郎で、もちろん被虐待児。貧しく、いじめられたりしますが、いじめよりも家庭のほうが悲惨なので、いじめられても2人は飄々としています。辛い生活ながらも、助け合ってなんとかやっています。

 

青年になった彼らは、父親の暴力に耐えながらも自活の道を探ります。そんなとき、フーガに彼女(小玉ちゃん)ができます。彼女は叔父さんに壮絶な仕打ちを受けているんですが、事情があって逃れられないんですね。二人の能力で小玉を救えないか? そう考えた二人は、その特殊能力を初めて利用し、小玉を救います。

ただ、彼らには、ろくでなしの叔父さんだけでなく、ユーガの好きな人に手を出そうとする父親や、小玉を救ったことで繋がりができてしまったちょっと危ない人たちなど、様々な敵がいて、その能力でもって何とか抗おうとします。

 

結末からいうと、悪いやつらに確かに一矢報いることはできるのですが、代償は大きすぎて、ただ普通の生活をするためになんでこんな犠牲を払わなければないのだろうと悲しい気持ちに。

 

そう、彼らは、ただ普通に生活したい、それだけのために不要な戦いをしているんですね。生まれる国や親の選択はガチャみたいなものですから、ろくでもないところに生まれてしまうと、普通の子どもがする必要のない無用の戦いを強いられます。

 

子どもの悲しみは見たくない。

本筋とは全く関係ないのですが、忘れられない場面がこれ。

昔の話をしていた時、同級生のムカつくいじめっ子のことを思い出すんですね。フーガとユーガは「あいつ、リンスしてるらしいぜ、調子乗ってんな」って悪口を言っていました。でも、小学生がリンスをするのは当たり前で、リンスをしていない自分たちのほうが珍しかったってことに後から気づいたんだよな。と、自分たちの小学生時代を回想するんです。

 

子どもが現在進行形で不幸なのは、もちろん耐え難いです。しかし、子どもが物悲しい思い出をたくさん持っているっていうのも、同じくらい耐えられないものです。子どもはいつでも、生まれてからずっと、笑っていてほしい。辛い思い出なんか持ってなくていい。

小学生時代を思い出した時に、「リンスしていなかったのって自分だけだったな」っていう悲しい思い出はいりません。「夏休みは麦茶飲んでクーラー効いてる部屋で寝てばっかりいたらお母さんに怒られたなぁ」って、そんな思い出ばっかりでいいんです。

 

とまぁ、哀しいお話でした。

もちろん伊坂幸太郎作品ですので、伏線の回収、ドキドキ感、スピード感、読者を騙していくスタイル、小さな約束が思いもよらぬ形で果たされるエピソードなどは一級品。

テーマは重めですが、面白さは請け合いますので、ぜひ。

 

おわり。

人は過去の自分を幸せにしながら生きている 映画「ビッグフィッシュ」

「私は英国王に給仕した」というホラ話で思い出した、映画「ビッグフィッシュ」のレビュー。
結構有名な映画で、何度も見たのですが、若い頃はあんまり好きな話ではありませんでした。
なんかこう、哀しげというか、共感できねぇなぁという。

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主人公はウィルという男性。彼の父は作り話の天才で、いつも人々をそのおとぎ話で魅了しています。小さい頃のウィルは父親を自慢に思っていましたが、成長するにつれ、いい年して妄想話ばかりを語って聞かせる父親に不快感を示します。そしてウィルの結婚式、巨大な魚(ビッグフィッシュ)の話を列席者に聞かせる父。それ以来、ウィルと父は断絶状態となります。
ある時母親から、父親はもう長くはないと聞かされたウィルは父と向き合うことに。「お父さんの本当の話を聞きたい。本当のお父さんの人生を教えて」ウィルは、父にそう問いかけます。

この映画、話の展開よりも、父親の作り話を見て楽しむのがメインです。
父親の回想という形で、北欧神話のように巨人が出てくる話や、色鮮やかなサーカス団の話など、大人のおとぎ話を堪能できます。ロードオブザリングやディズニー映画を細切れに見ていくような感覚。とにかく美しい映像に引き込まれます。

さて、なぜ父は嘘をつくのでしょうか?
病床の父は、何を聞いてもおとぎ話ではぐらかしてばかりで、最後まで見ても、この答えははっきりとは明かされません。でも一つだけ確かなのは、父の物語の中にも真実があったということです。嘘にまみれた人生かと思っていたら、その嘘の中に真実を見つける。そして父の過去を知る人物を通じて、ウィルは父の人生を想います。「その先を聞かせて」ウィルは父のおとぎ話を最後まで聞きます。
父の葬式には、架空の存在と思われた物語の登場人物が参列していました。湖に入った父はビッグフィッシュとなり、自然に帰ってゆきます。

若い頃は息子のほうへ感情移入していましたから、現実から目を背けて妄想の中に生きる父親は理解できず、許せねぇ、かっこ悪い、という気持ちでした。ただ、今見ると父親の気持ちもわかる気がするのです。お父さんは、自分がくだらない話をしているということは認識しています。久々に対面した息子に、「子どもに馬鹿げた話を聞かせても、立派な大人になってしまうなぁ」と感慨深げに声をかけます。このシーンが寂しげで印象的でした。


人間の頭には、「忘れる」という重要な機能が備わっています。それは今を、そして明日を生きるため。嫌なことをどんどん捨て去り、今の自分を幸せにしようとします。とても動物的な一面ですね。同時に人間は、過去の自分に支えられて生きています。昔の自分はこうだった、だから自分はまだできる、と。

「思い出補正」という言葉があるように、昔を思い返すと意外と幸せな思い出が出てくるものです。人は、人に愛された、必要とされた、認められた思い出を大切にしています。そういう思い出がなければ、人は簡単に折れてしまい、前を向いて生きていけません。

そんな思い出はだいたい、事実と妄想がない交ぜになったもの。
過去の喜びを何度も何度も思い出し、小さな綻びは妄想の力を借りて埋め、過去の自分を褒める。過去の悲しみから目をそらし、妄想で包んで綺麗な思い出に作り変え、過去の自分を慰める。そうやって素晴らしかった過去の自分に支えられ、今を生きる糧にする。
人間、こういう一面が誰にでもあると思います。

ただ、昔の武勇伝を語りまくる老人は大っっっっっっ嫌いですw 過去の自分を妄想で慰めるのは結構ですが、それを面白い話に昇華できないなら、心の中だけにとどめておけよチェリーども。
ウィル父が愛されたのは、武勇伝ではなくおとぎ話だったからなんでしょう。

ただ、映画に出てきたお父さんに対して思うのは、子どもは幸せにしてあげてほしい、子どもの思いには応えてほしい。死に際に息子を幸せにしても、自分の生き方が無意識に息子を傷つけてきた過去が全て清算されるわけではないですから。なんて、複雑な気持ちになります。


人は現実と向き合うために妄想の力を借りる
そして、
人は過去の自分を幸せにしながら生きてゆく生き物である

この映画を見ると、こんな小さな悪癖を含めて、人間というのは愛すべき存在なんだろうと感じます。

おわり。

沖田の死、近藤の死、そしてお雪 「燃えよ剣」

燃えよ剣」、遂に下巻を読み終わりました。
本を読んだ途端、個人的ヒット!を予感し、読了を待たずに筆を執り、だらだら感想を垂れ流してきましたが、これにて最終回です。

意外と、読了を待たずに書く→読む→書くの繰り返しって、あとからしっかり振り返るよりも記憶に残る気がしていて、これからも面白い本は読んでる途中にレビューしていこうかな、なんて思っています。

燃えよ剣(下) (新潮文庫)

さて、ご存知の通り沖田は結核で亡くなります。近藤さんは偽名を使って転戦するのですが、志半ばで投降し斬首されます。
その後土方は、北上を続け遂に五稜郭へ。近藤の死後は北征編と題されます。

今回は、燃えよ剣の裏テーマである土方の恋愛について。バラガキ時代の土方は女は嫌い、セックスは人並み。幸いイケメンですから女に苦労することはなく、行商先で高貴な女を狙っては食いまくっています。

こんな場面が忘れられません。
行商先の寺で、特に話すこともないので「娘さんは元気ですか」と聞く土方。寺の主人はかくかくしかじかと答えます。それを聞きながら娘が食われているのも知らず呑気なもんだぜ、思う土方。
ほんと、トシ最低w


土方は京都で、雪という未亡人に出会います。武家の出で、多摩から京都に嫁ぎ、夫に死なれてからも江戸に戻る気が起きずぶらぶらしています。土方は雪に夢中になり家を訪ねるようになりますが、あくまでもプラトニック。

お雪に会う前、土方はサエという女に恋心に近いものを抱いていました。彼女は、土方がまだ多摩にいた頃の女で、京に嫁いでいました。京で再会しすぐにサエを抱いた土方は、自分が恋心だと思っていたものはなにか違うものだったと幻滅するんです。そこで、更に女を嫌いになります。

お雪を大切にしたのは、そういう経験からというのもありましたが、いろいろ「初めて」と思うことがあったからともいえます。

はじめて、自分の話を聞いてもらいたいと思う相手
はじめて、元夫に嫉妬を覚えた相手
まるではじめてのキスのように、「キスしていいですか?」と聞いてしまうような相手

泣く子も黙る鬼の副長、そして、女嫌いで色男の土方を、お雪の前ではまるで童貞のようにしてしまうことで、土方にとってお雪は特別な相手であると表現しています。

うーん、個人的にはちょっと綺麗すぎる展開だなぁと思い、背中がもぞもぞしてしまいましたw
恋愛初期に、これははじめての恋かもしれない!と思うのは結構ありがちで、付き合ってみると別にそうでもなかったというのも日常茶飯事です。夢から覚めた後が本番の愛ですほんとに。

自分の体験からいうと、「初めて」を乱発する人をあまり信用していません。「初めて」という感想は相手に対するおべっかのことが多く、「あれは初めての経験だった」と人に語って聞かせるときは、過去の自分を否定している場合が多い。

お雪というのは、燃えよ剣のオリジナルキャラクターです。オリジナルだからこそ自由に動かすことができるのですが、実在した人物と比較して、ふわふわしていて実態がつかめません。周りが放っておかない系の美人なのかわからないし、どうやって生計立てていたのかはっきりしない。土方の恋人ということで、病床にある沖田や、土方に恩義がある人が気にかけていたようですが、生活感がなく浮世離れしているんですね。いい作品だっただけに、こういうとこでちょいイラ。

お雪と土方が逢瀬をするのは三度。新選組絶頂期に京都で、鳥羽伏見の戦いで敗れた後の大阪で、そして死にに行く決心をしている函館で。個人的には京都の思いを胸に、鳥羽伏見、五稜郭と戦っていくもんだと思っていましたから、100歩譲って大阪は良いけど、北征編に出てきたのは現実味がなく評価が分かれそうです。

函館でのお雪再登場シーン。
横浜から土方を訪ねてきた男が「お雪さんを連れてきました」って言うんですね。それを聞いた土方が「だれからその名を聞いたか知らんけど、悪い冗談はよせ。そういう冗談は俺は嫌いなんだよ(怒)」とぶちギレ。ほんと私も、おぉぉお雪再登場と? マジで私も、そういう冗談は嫌いだわw ってなりました。

とはいえ、作中、土方が自分語りをすることがないので、お雪は土方の心を語らせるために必要なキャラクターなんですが。

北征編は、新選組を支えてきた皆との別れの連続。敗戦を予感し死に場所を探し始めた土方は、斎藤一や鉄など古くからの仲間を故郷に返します。死の前日は、近藤さん、沖田、山崎の亡霊を見、その後元新選組の仲間を集めて酒盛りをします。
強がりながらも、もう戻れない日のことを夢見ている土方の寂しい後ろ姿が目に浮かぶようでした。

幕末でなければ存在し得なかった新選組。時代の徒花ではありますが、自分の信念のために命を削った男たちがたくさんいました。序盤は思ってたより土方が嫌なやつで感情移入できませんでしたが、読み進めるにつれて、胸に迫るものが。

私は幕末にあんまり詳しくなくて。北海道に国を作ろうとしたんですか? そうなんですか? 初耳ですが。 みたいな本当にド素人ですが、ちょっと興味湧いたのでいろいろ読んでみたいと思います!

もうちょっと語りたい気持ちですがこの辺で。

おわり。

悪女には男の親戚が多い 鹿島茂「悪女入門」

個人的にかなりかなりかなりヒットしたのは、鹿島茂著のこちら。
鹿島茂氏は仏文の先生なのですが、切り口が独特で、百年以上前の作品からも、今を生きる人間に役立つヒントを見つけてくる天才です。

悪女入門 ファム・ファタル恋愛論 (講談社現代新書)


ファムファタールっていうのは運命の女。
結婚っていうのは一緒に幸せになることじゃなく、一緒に不幸になることだって言葉、知ってますか?
例えば収入とか家柄とか将来性とか云々、ある一定の基準でつけられた幸福度ランキングがあるとします。「あなたと1位を目指したい」じゃなくて、「たとえ最下位でもあなたと一緒なら笑っていられるわ」そういう人と結婚しなさい、ってことです。
まぁ、口で言うのは簡単だし、結婚するときはみんなそんな気分なんだけど、「いやぁー、友人の保証人になって数百万の借金負っちゃったよw」とかいわれたらふざけんな離婚だコラってなるのは必定なので、結婚する前に本当にこの人と一緒に地獄に行けるかは分かり得ないと思います。

ファムファタルは、
たとえば君がいるだけで(以下略)とか、貧乏でもいい、君がそばにいればなにも怖くない系の癒し系ではなくて、どちらかというと自分だけ地獄にレッツゴー系です。
愛し続けるには、お金も気力も体力も根性も必要系。たとえばそばにいるだけで心が強くなることはなくてどちらかというとざわざわするんですね。
そばにいない、または連絡が取れないときはもう禿げ上がるレベル。

あと、すごくどうでもいい話なんだけど、癒し系って便利な言葉で「女性としての魅力に欠ける」の言い換えだと思っています。きっと。
時々facebookとかで見かけませんか? いいニュースのときにはおめでとう、風邪ひきましたにはお大事に、落ち込んだニュースには長文コメントをする40がらみの女。投稿全てがポジティブで、「前を向いて生きよう」みたいなポエマー。たぶん彼女たちは、20代30代のときには個性があったと思うんです。二日酔いで他人の「風邪ひきました構ってください」投稿をスルーしたことも、批判的な投稿をしたこともあると思うんです。ただ、そろそろ結婚?と焦り、自らのキャラを再考した結果、とりあえずアンチも少ない癒し系に活路を見いだしたのです。
癒し系とか優しい系はキャラ作りが楽なんです。マメなリアクション、毒にも薬にもならないコメント、前向きな投稿、時々「ええ!ミセスワタナベって実在しないの??」とすっとぼけたコメントをすれば、天然癒し系の出来上がり。
実際私の周りはそんな女性が多くて、優しさは魔のトンマナだなぁ。ってなる。天然癒し系が乱立し、一部上場企業の妙齢男子のコメント欄が長文コメントの連投で大変なことになっています。癒し系妙齢女子が複数いる飲み会にいくと、自然突っ込み役に回らざるを得なくなり、クソ腹立つんですよね。

・・・熱くなってしまったw

さて。
そんな鬱々としてる女性におすすめする悪女化。癒し系はアンチも少ないけれどライバルが多いし、結婚後も癒し系で居続けるのは難しいです。逆に悪女は、結婚後に悪女的部分を捨てるだけで、「内助の功」「あげまん」になれる!

こんなことが書いてありました。
“本当に拒絶するつもりの女はただ『否(ノン)』というだけであり、いろいろ言い訳する女は口説かれたいのだ”と。
名言じゃないですか、コレ??
いい女って、ノーが言える女です。逆にノーが言えない女は、あまり良い恋愛に恵まれません。

著者は、クラブ通いする男性の生態を探るために銀座のクラブに顔を出すくらい、めちゃ勉強熱心。そんな研究の成果や、自身の経験が詰まっていて、720円以上の価値があります。「悪女には男の親戚が多い」には爆笑。つまり「弟なの」、「従兄弟です」は大概嘘ということ。
椿姫やナナ、カルメンなど、読んでいて心ざわざわする女子の魔性の秘密をとにかく暴いていく。
悪女に遊ばれたい、騙されたい男性が読むもよし、危ない女に溺れそうなとき、気を引き締めるために読むのもよし、女性が読むと、ああまぁそうだよねぇ、でもこんな女、いい男は相手にしないわよぉ。など酸っぱいブドウ的なことを言いながら頭に血がのぼるかもw
過去に痛い目を見た男子、もしくは寝取られ経験のある女子は、胸に苦いものがのぼってくるやつw 実際、有名な小説を紹介しているので、フランス文学の入門書としても有益です。

悪女は生まれたときから悪女ですので、読んだかといって本物の悪女になれるかというとそれは無理ですが、悪女っぽく振る舞って意中の男を落とすためには役立つかも。

悪女に生まれなかった女は、早めに結婚してしまうか、癒し系に活路を見出しましょうw

とはいえ、独身時代に出会いたかったと思わぬことはない本。

おわり。

大学生活を思い出したいときに読む本。恩田陸「ブラザー・サン シスター・ムーン」

恩田陸といえば、ミステリー、ファンタジー、ノスタルジーの三本柱で独特の物語を紡ぐ天才だと思っています。彼女の本を読むときは、とにかくハラハラドキドキしたい!みんなが疑心暗鬼になるやつください!という下心がありますw

 

さて、その中で結構異質に思える作品はこちら。「ブラザー・サン シスター・ムーン

青春小説ですね。恩田陸のデビュー前の作品の焼き直し???と真剣に疑っていますw 謎らしい謎も、大きな展開もなくて、読後感もあっけなさすぎ。賞レース用に書いたきれいな作品?と思えるほど、拍子抜けします。

 

ブラザー・サン シスター・ムーン (河出文庫)

 

楡崎さん、戸崎くん、箱崎くんのそれぞれの大学時代と、高校時代の共通の思い出がテーマ。楡崎さん、戸崎くん、箱崎くんのザキザキトリオは(ネーミングセンスw)、高校の課外活動で一緒になり、その道中不思議な体験をします。同じ大学に進学。進学後はほとんど接点がなくなりますが、お互いのことを時々思い出したりはしています。女子は比較的マメなので、楡崎さんは戸崎くん、箱崎くんともに交流がありますが、男子二人はほとんどありません。

この3人をつないでいるのはきっとこの「不思議な体験」で、たぶんこれがあったからこそ連帯感が生まれて交流が続いているんだろうなと思います。

 

楡崎さんは、大学時代のいろんな経験の中で、自分には書くことが向いていると気づきます。書く/書かないでなはく、書いてしまうというのが小説家の性分のようです。

戸崎くんはバンド一色。箱崎くんは学生時代は映画研究会に入り、卒業後は金融関係に就職。脱サラし映画監督になります。

 

テーマらしいテーマや教訓はない作品ですが、大学時代を回顧した時に多くの人が感じる気持ちが素直に、本当に率直に書かれていることが大きなポイントで、なんか大切なことを学生時代に忘れてしまったのではないかと胸を締め付けられるような気持ちになります。

 

 

無為さ、愚かさ、平凡さ、

自意識過剰なのにコンプレックスの塊。やっとプライバシーを手に入れたのに人恋しい。何者かになりたくてたまらないのに、足を踏み出すのはおそろしい。

学生時代の時間はサラサラ流れていく、何か大事なものが脇を流れていっても、そうとは気づかないうちに、

 

というような言葉。これ、共感しませんか? 

楡崎パートには全面的に共感できたのですが、戸崎くん、箱崎くんは遠い存在すぎて、正直共感できる部分がなく、ほぉ・・・。っていう感じでした。

戸崎くんはなんだかんだ言って根が明るいし要領がいいので、「あー、こんな子いたなー」で終了。箱崎くんはイケメンできっちりしていて成績優秀、きっと同級生にいたら叶わぬ恋をしていただろうなぁと、「ほえー」で終了。箱崎くんは行動や発言が、MAJORのトシくんに似通っていて、振り払っても振り払っても彼の顔がちらついて離れないw

 

学生時代はよかったなーっていうような大人になりたくはないなぁと思っていますが、やっぱり時々、大きな忘れ物したような気持ちになり、自分が大学生だったころの夢を見ると、あー嬉しい!となります。

 

ということで、学生時代のごちゃごちゃを思い出したい方は是非!

 

おわり。

 

 

 

 

トシ&近藤バッテリーの崩壊「燃えよ剣」

さて、燃えよ剣上巻も終わりです。

 

 

燃えよ剣(上) (新潮文庫)

 

ここでは近藤さんについて。銀魂の近藤さんは男にもてるタイプですね。男気があって、懐も深くて好きです。

普段はお妙のストーカーしてますが、燃えよ剣では所帯を持っていて、娘もいます。でも、奥さんはガサツで愛想もなく、土方は彼女が苦手。料理下手という設定があって、何を作ってもダークマターになってしまうお妙を彷彿とさせますw

 

ご存知の通り、土方と近藤は手を組んで、新選組のトップにのぼりつめます。その道は暗殺に次ぐ暗殺ですが、土方はうまく近藤さんを担ぎ、自分が憎まれ役を一手に引き受け、新選組を切り盛りしていきます。土方は近藤さんの恋女房。

近藤さんは良くも悪くも素直。そして、影響されやすい。土方が毎度毎度叱咤激励して舵をとっています。結成当初は周りが味方なんだか敵なんだかよくわかりませんから、土方と同門の少数の仲間と一緒に慎重に行動します。「トシ、どうすべぇ」とか、「トシ、どう思う?」とか、「なぁ、トシー?」とか、銀魂そのもの。

しかし近藤さん、新選組トップになりいろんな人におだてられ、政治方面に明るい人たちと交わるようになってから、田舎育ちのコンプレックスもあるのか、急に自分を大きく見せようとし始めます。大名の格好をしたりいい馬に乗ったり、妾を3人も囲ったり。また、学がないのを補うように手習いを始め、いろんな本を読んだり偉い人の話を聞いたりして、議論好きになってきます。新選組の地位が上がっていくのに伴って、自分もすごい人間になっていると錯覚するんですね。まぁ新選組局長だから十分偉いんだけど。

 

天下の新選組といっても幕府そのものが危ういご時世ですから、あまりにも身の丈に合わないことばかりしていると、いつか足元を掬われるだろう懸念する土方は、浮き足立つな、兜の緒を締めよと忠告します。しかし、なかなか聞き入れない。

 

そして伊東甲子太郎登場。伊東鴨太郎のモデルですね。色白イケメン男児。それに賢い、政治方面に明るいときている、土方がもっとも嫌う存在w 彼は新選組を乗っ取るつもりで入隊してきます。

 

近藤は伊東を先生、先生と呼び、完全に崇拝しきっています。九州まで一緒に出かけて志士たちと交わり、そして聞きかじったことを披露して、新選組をただの警察ではなくて政治集団にしようとします。

土方は新選組がもともと喧嘩屋の集まりなのを百も承知ですから、そんなことは俺たちには無理だと主張し、ここでぶつかるわけです。

時勢に合わせて新選組は変わっていくべきか、それとも大義を忘れず初志貫徹するか。変わるほうを選べば当然伊東が局長になりますから、土方としても近藤としても勿論ノーです。それならば早めに法度にかけて切ったりすればいいのですが、なかなか近藤は決断できず、最悪の形で袂を分かつことに。

 

土方は土方でいろいろ欠点がありますから、それを近藤さんが補ってよいバランスを保っていましたが、だんだんその二人三脚が成立しなくなるんですね。伊東の策略で土方が除け者にされていき、新選組が割れかけます。そんな頃、土方が暗殺されかけて…

まさに新選組動乱篇…!

 

さて、下巻へ。

伊東は暗殺しましたが、大政奉還から鳥羽伏見の戦いが始まります、開戦前から新選組はガタガタに。まず、土方の反対を押しきり、出陣の前夜に隊士を家に帰したせいで隊士の多くが脱走します。また、「軍備増強を嘆願する」と勝手に隊を外れた近藤さんは伊東の元監察篠原に討たれ重症を追い、戦線離脱。

 

土方は、近藤さんは凧のような人と評します。風向きがいいときはどこまでも昇っていけるけど、風向きが悪くなるとダメになる。ピンチのときにどう振る舞うべきかがわからなくて浮き足だってしまうんです。

おいー!!トシの言うことを聞いておけば…!となります 沖田も結核が悪化し一旦戦線離脱、近藤と大阪に療養へ。

しばらくはトシの孤独な戦いが始まります。

 

おわり。

 

 

 

 

伊坂幸太郎「シーソーモンスター」 後半戦

さて、シーソーモンスターの後半戦。

dandelion-67513.hateblo.jp

次の舞台は近未来、「スピンモンスター」というタイトルの作品です。

シーソーモンスター (単行本)


主人公は水戸というフリーの運び屋の男。運び屋といっても危ないやつではなく、紙の文書を運んでいます。
近未来は、国民全員がスイカのようなカード(パスカ)を持ち、それがないと何もできない。メッセージのやり取りやネットの閲覧履歴などが全て個人に紐づけられてログをとられます。利便性やセキュリティレベルを上げるためにペーパーレス化したのに、ウェブを介したやり取りはどこで誰に見られているかわからない。だから、重要な情報は紙で手渡しにするという、時代が逆戻りします。
ちなみに検索屋というのもいて、なにかを調べたいとき、そのページを見たのが自分だとわからないようにするため、一時的にパスカを貸して検索させてくれます。

さて、水戸が新幹線に乗っていると、隣に座った眼鏡の男から手紙を手渡されます。「昔の同級生に届けてほしい」と。水戸は仕事の途中でしたが、仙台の青葉城址まで手紙を届けることに。そこにいたのは中尊寺という男。眼鏡の男と一緒に人工知能の開発をしていた男です。

水戸は半ば巻き込まれる形で、人工知能の暴走を止めるために中尊寺と行動を共にすることに。近未来の監視社会の恐ろしさは、彼の他作品、マリアビートルや魔王、モダンタイムスなどを彷彿とさせます。

そこでこんな言葉が。
カメラでどこかしこも監視することには、当初賛成の声が多かった。ほとんど国民は、自分が加害者になることは想定していない。と。
そしてその監視はAIがやるわけです。

私も、監視カメラデータを元にした個人識別や、DNA情報の管理には肯定的な意見を持っています。
とりあえず直近は、マイナンバーと保険証の紐付けをマストにしてほしい。残薬とか、何個かの病院を回って薬もらいまくる老人の多いこと多いこと。医療費は次世代へのツケになっていますから、ぶちギレそうw

それはおいといて。
犯罪の抑止力になってほしい。犯罪が起きたときには犯罪者をすぐに特定してほしい、と思いますよね。そのための監視カメラです。監視カメラがあることで、いつなんどき起こるかわからない緊急事態から守られている気持ちになります。しかし、何かの手違いでAIに犯罪者と認定されたとき、一転、監視カメラは恐ろしいものに。
一旦AIに追われる立場になったら、弁明もできないまま逃げるために微罪を重ね、捕まったときには立派な犯罪者の出来上がりです。

敵をハメるのも簡単。
実は監視社会って怖いんですよね。
という。

彼らは人工知能を止めることが出来るのか?
結末は衝撃的です。

伊坂幸太郎作品の好きなところは、非現実の世界ながら、結構シビアな結末を迎えるところです。主人公が犠牲になったりするのもありますよね。巨悪はやっぱり巨悪であり、小説で取り上げたところで、一市民には何もできなかった、という作品、読後感は微妙ですが、現実的で好きです。
主人公が人間業を超えた大活躍をして悪を一網打尽するっていうのもいいけど、現実はそうじゃありませんから。勧善懲悪が良かったら池井戸潤を読むべし!

ということで、スピンモンスターは☆5です。

早く次の作品出ないかなー!
おわり。