はらぺこあおむしのぼうけん

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悪女には男の親戚が多い 鹿島茂「悪女入門」

個人的にかなりかなりかなりヒットしたのは、鹿島茂著のこちら。
鹿島茂氏は仏文の先生なのですが、切り口が独特で、百年以上前の作品からも、今を生きる人間に役立つヒントを見つけてくる天才です。

悪女入門 ファム・ファタル恋愛論 (講談社現代新書)


ファムファタールっていうのは運命の女。
結婚っていうのは一緒に幸せになることじゃなく、一緒に不幸になることだって言葉、知ってますか?
例えば収入とか家柄とか将来性とか云々、ある一定の基準でつけられた幸福度ランキングがあるとします。「あなたと1位を目指したい」じゃなくて、「たとえ最下位でもあなたと一緒なら笑っていられるわ」そういう人と結婚しなさい、ってことです。
まぁ、口で言うのは簡単だし、結婚するときはみんなそんな気分なんだけど、「いやぁー、友人の保証人になって数百万の借金負っちゃったよw」とかいわれたらふざけんな離婚だコラってなるのは必定なので、結婚する前に本当にこの人と一緒に地獄に行けるかは分かり得ないと思います。

ファムファタルは、
たとえば君がいるだけで(以下略)とか、貧乏でもいい、君がそばにいればなにも怖くない系の癒し系ではなくて、どちらかというと自分だけ地獄にレッツゴー系です。
愛し続けるには、お金も気力も体力も根性も必要系。たとえばそばにいるだけで心が強くなることはなくてどちらかというとざわざわするんですね。
そばにいない、または連絡が取れないときはもう禿げ上がるレベル。

あと、すごくどうでもいい話なんだけど、癒し系って便利な言葉で「女性としての魅力に欠ける」の言い換えだと思っています。きっと。
時々facebookとかで見かけませんか? いいニュースのときにはおめでとう、風邪ひきましたにはお大事に、落ち込んだニュースには長文コメントをする40がらみの女。投稿全てがポジティブで、「前を向いて生きよう」みたいなポエマー。たぶん彼女たちは、20代30代のときには個性があったと思うんです。二日酔いで他人の「風邪ひきました構ってください」投稿をスルーしたことも、批判的な投稿をしたこともあると思うんです。ただ、そろそろ結婚?と焦り、自らのキャラを再考した結果、とりあえずアンチも少ない癒し系に活路を見いだしたのです。
癒し系とか優しい系はキャラ作りが楽なんです。マメなリアクション、毒にも薬にもならないコメント、前向きな投稿、時々「ええ!ミセスワタナベって実在しないの??」とすっとぼけたコメントをすれば、天然癒し系の出来上がり。
実際私の周りはそんな女性が多くて、優しさは魔のトンマナだなぁ。ってなる。天然癒し系が乱立し、一部上場企業の妙齢男子のコメント欄が長文コメントの連投で大変なことになっています。癒し系妙齢女子が複数いる飲み会にいくと、自然突っ込み役に回らざるを得なくなり、クソ腹立つんですよね。

・・・熱くなってしまったw

さて。
そんな鬱々としてる女性におすすめする悪女化。癒し系はアンチも少ないけれどライバルが多いし、結婚後も癒し系で居続けるのは難しいです。逆に悪女は、結婚後に悪女的部分を捨てるだけで、「内助の功」「あげまん」になれる!

こんなことが書いてありました。
“本当に拒絶するつもりの女はただ『否(ノン)』というだけであり、いろいろ言い訳する女は口説かれたいのだ”と。
名言じゃないですか、コレ??
いい女って、ノーが言える女です。逆にノーが言えない女は、あまり良い恋愛に恵まれません。

著者は、クラブ通いする男性の生態を探るために銀座のクラブに顔を出すくらい、めちゃ勉強熱心。そんな研究の成果や、自身の経験が詰まっていて、720円以上の価値があります。「悪女には男の親戚が多い」には爆笑。つまり「弟なの」、「従兄弟です」は大概嘘ということ。
椿姫やナナ、カルメンなど、読んでいて心ざわざわする女子の魔性の秘密をとにかく暴いていく。
悪女に遊ばれたい、騙されたい男性が読むもよし、危ない女に溺れそうなとき、気を引き締めるために読むのもよし、女性が読むと、ああまぁそうだよねぇ、でもこんな女、いい男は相手にしないわよぉ。など酸っぱいブドウ的なことを言いながら頭に血がのぼるかもw
過去に痛い目を見た男子、もしくは寝取られ経験のある女子は、胸に苦いものがのぼってくるやつw 実際、有名な小説を紹介しているので、フランス文学の入門書としても有益です。

悪女は生まれたときから悪女ですので、読んだかといって本物の悪女になれるかというとそれは無理ですが、悪女っぽく振る舞って意中の男を落とすためには役立つかも。

悪女に生まれなかった女は、早めに結婚してしまうか、癒し系に活路を見出しましょうw

とはいえ、独身時代に出会いたかったと思わぬことはない本。

おわり。