はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

沖田の死、近藤の死、そしてお雪 「燃えよ剣」

燃えよ剣」、遂に下巻を読み終わりました。
本を読んだ途端、個人的ヒット!を予感し、読了を待たずに筆を執り、だらだら感想を垂れ流してきましたが、これにて最終回です。

意外と、読了を待たずに書く→読む→書くの繰り返しって、あとからしっかり振り返るよりも記憶に残る気がしていて、これからも面白い本は読んでる途中にレビューしていこうかな、なんて思っています。

燃えよ剣(下) (新潮文庫)

さて、ご存知の通り沖田は結核で亡くなります。近藤さんは偽名を使って転戦するのですが、志半ばで投降し斬首されます。
その後土方は、北上を続け遂に五稜郭へ。近藤の死後は北征編と題されます。

今回は、燃えよ剣の裏テーマである土方の恋愛について。バラガキ時代の土方は女は嫌い、セックスは人並み。幸いイケメンですから女に苦労することはなく、行商先で高貴な女を狙っては食いまくっています。

こんな場面が忘れられません。
行商先の寺で、特に話すこともないので「娘さんは元気ですか」と聞く土方。寺の主人はかくかくしかじかと答えます。それを聞きながら娘が食われているのも知らず呑気なもんだぜ、思う土方。
ほんと、トシ最低w


土方は京都で、雪という未亡人に出会います。武家の出で、多摩から京都に嫁ぎ、夫に死なれてからも江戸に戻る気が起きずぶらぶらしています。土方は雪に夢中になり家を訪ねるようになりますが、あくまでもプラトニック。

お雪に会う前、土方はサエという女に恋心に近いものを抱いていました。彼女は、土方がまだ多摩にいた頃の女で、京に嫁いでいました。京で再会しすぐにサエを抱いた土方は、自分が恋心だと思っていたものはなにか違うものだったと幻滅するんです。そこで、更に女を嫌いになります。

お雪を大切にしたのは、そういう経験からというのもありましたが、いろいろ「初めて」と思うことがあったからともいえます。

はじめて、自分の話を聞いてもらいたいと思う相手
はじめて、元夫に嫉妬を覚えた相手
まるではじめてのキスのように、「キスしていいですか?」と聞いてしまうような相手

泣く子も黙る鬼の副長、そして、女嫌いで色男の土方を、お雪の前ではまるで童貞のようにしてしまうことで、土方にとってお雪は特別な相手であると表現しています。

うーん、個人的にはちょっと綺麗すぎる展開だなぁと思い、背中がもぞもぞしてしまいましたw
恋愛初期に、これははじめての恋かもしれない!と思うのは結構ありがちで、付き合ってみると別にそうでもなかったというのも日常茶飯事です。夢から覚めた後が本番の愛ですほんとに。

自分の体験からいうと、「初めて」を乱発する人をあまり信用していません。「初めて」という感想は相手に対するおべっかのことが多く、「あれは初めての経験だった」と人に語って聞かせるときは、過去の自分を否定している場合が多い。

お雪というのは、燃えよ剣のオリジナルキャラクターです。オリジナルだからこそ自由に動かすことができるのですが、実在した人物と比較して、ふわふわしていて実態がつかめません。周りが放っておかない系の美人なのかわからないし、どうやって生計立てていたのかはっきりしない。土方の恋人ということで、病床にある沖田や、土方に恩義がある人が気にかけていたようですが、生活感がなく浮世離れしているんですね。いい作品だっただけに、こういうとこでちょいイラ。

お雪と土方が逢瀬をするのは三度。新選組絶頂期に京都で、鳥羽伏見の戦いで敗れた後の大阪で、そして死にに行く決心をしている函館で。個人的には京都の思いを胸に、鳥羽伏見、五稜郭と戦っていくもんだと思っていましたから、100歩譲って大阪は良いけど、北征編に出てきたのは現実味がなく評価が分かれそうです。

函館でのお雪再登場シーン。
横浜から土方を訪ねてきた男が「お雪さんを連れてきました」って言うんですね。それを聞いた土方が「だれからその名を聞いたか知らんけど、悪い冗談はよせ。そういう冗談は俺は嫌いなんだよ(怒)」とぶちギレ。ほんと私も、おぉぉお雪再登場と? マジで私も、そういう冗談は嫌いだわw ってなりました。

とはいえ、作中、土方が自分語りをすることがないので、お雪は土方の心を語らせるために必要なキャラクターなんですが。

北征編は、新選組を支えてきた皆との別れの連続。敗戦を予感し死に場所を探し始めた土方は、斎藤一や鉄など古くからの仲間を故郷に返します。死の前日は、近藤さん、沖田、山崎の亡霊を見、その後元新選組の仲間を集めて酒盛りをします。
強がりながらも、もう戻れない日のことを夢見ている土方の寂しい後ろ姿が目に浮かぶようでした。

幕末でなければ存在し得なかった新選組。時代の徒花ではありますが、自分の信念のために命を削った男たちがたくさんいました。序盤は思ってたより土方が嫌なやつで感情移入できませんでしたが、読み進めるにつれて、胸に迫るものが。

私は幕末にあんまり詳しくなくて。北海道に国を作ろうとしたんですか? そうなんですか? 初耳ですが。 みたいな本当にド素人ですが、ちょっと興味湧いたのでいろいろ読んでみたいと思います!

もうちょっと語りたい気持ちですがこの辺で。

おわり。