はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

安部公房テイスト。お隣の部屋を覗く話 アンリ・バビュルス「地獄」

こんにちは。
絶版で入手困難なこちら。
個人的にはドラマ化してほしいくらい面白かった本です。
江戸川乱歩とか安部公房とか好きな人は絶対はまるやつ。


地獄 (岩波文庫 赤 561-1)

下宿宿でお隣の部屋を覗き見する話。
これだけで変な妄想をするにはもってこいの題材でしょう?

パリで働くことになった「ぼく」は、家が決まるまで下宿宿に泊まることにしたが、壁に小さな穴が空いていて、隣が覗けることがわかる。ぼくは、仕事に関する手続きをそっちのけで「のぞき」に夢中になる。

隣の部屋では、不倫の密会から、12,3歳の男女の初体験、出産、死など、様々なドラマが繰り広げられる。ひとつの小さな穴から覗いているにしては、おお、描写が丁寧じゃねーか、絶対他のところにも隠しカメラあるんだろ、とはなるんですが、そこはおいといて。枠小説的な一面もあり、それぞれのお隣さんの物語そのものも面白い。

そして、「のぞき」にドはまりする「ぼく」。最後にはとんでもないことに。その辺の描写は安部公房砂の女を彷彿とさせます。
お隣さんのいろんなドラマに胸打たれつつ、「ぼく」の異常な心理状態につられて自分も興奮します。
誰か!ドラマ化して!その前に再版して~!
埋もれた名作だと思います。

タイトル。なんで「地獄」かなぁ。と思いながら読んでいるのですが、ひとつに、部屋を覗く、人の人生を上から見下ろす、という「神の目」に掛けているのと、あとは単純に人生は地獄だ、ということも言っているのかと思います。

人は元来孤独であり、どれだけ近づいても他人と一体化することはできない。人は自分の持っていないものを望み、叶えられないまま一生を終えていく。一緒にいる男女も、結局別なことを考えている。幸せに生きていくのって難しい!そういうことを伝えたかったのだと。

愛とは、神とは、と、いろいろな問答が繰り広げられる。哲学的に考える本としても名著です。

おわり。