はらぺこあおむしのぼうけん

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人生には、背を向けて立ち去るべき時がいくつかある。その時を見誤るとどうなるか「解錠師」スティーヴ・ハミルトン

こんにちは。

 

エドガー賞受賞作。

「解錠師」スティーヴ・ハミルトン

解錠師 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ある事件がきっかけで話すことができなくなった少年マイクルが、刑務所で半生を振り返る。金庫破りになるまで、ある少女との出会い、そして今まで無効にしてきた数々の鍵たち。

ミステリーというよりはボーイミーツガール系の小説です。

 

ストーリーの進め方は大変教科書的で、大きなトラウマになるような事故に遭ったこと、それにより両親を失ったこと、アメリアという女性に会い(おそらく)恋をしたことが序盤で示されます。彼のトラウマとは何なのか、アメリアとの恋はどうなるのか。金庫破りをしている今のエピソードに、金庫破りになるまでの過去のエピソードが追いついていき、全ての謎が明らかになるという構成。マイクルに襲いかかった悲劇…、これが気になって、次々ページをめくってしまいます。

 

この仕事がなかったら餓死していただろうと回想するマイクル。両親を失い、貧しく、自分の殻に閉じこもり喋ろうとしない男に、輝かしい人生が用意されるとは思えません。その上金庫破りの素質ありとなれば、よっぽど注意しない限り悪い人間に利用されるのは必定です。

ただ、育ての親(叔父)や唯一の親友など、彼を良い道に導いてくれる存在は側にいるんだけど、その有り難さには結局最後まで気づくことはなく、相次いで選択をミスってしまいます。若さ故なのかな?それともバカなのかな?なんて思ってしまうほどほど、無鉄砲でやけっぱち。

 

おそらく多くの読者がマイクルを応援したくなることでしょう。

ぶっきらぼうで人をイライラさせずにはおかない態度を、ハラハラしながら見守ることに。それ以上に、彼の”仕事ぶり”に手に汗握ります。ゴーストという悪の親玉との対峙も面白い。

 

ただ、読み終えた感想は一言、

わーすごい、びっくりするほどつまらない

という感じ。これがエドガー賞なのが一番のミステリー。読んだ時間が無駄に思える作品です。笑

切なくて息苦しくなるような真相もなければ、犯罪者の少年と金持ちの美しい少女の恋物語と聞けば悲恋の予感がするけれども、驚くほど幸せな結末。10代後半で抱いた恋心、三十路過ぎまで、しかも刑務所の壁に隔てられてもなお持ち続ける姿を見せつけるという少女漫画な展開に涙が出てくる。

 

グチついでに裏表紙の作品紹介へも文句を。

「ひょんなことから解錠師に弟子入りした」と書かれているけど、中身読まずに書いただろ、ってなる。「ひょんなことから」じゃなく、「のっぴきらなねぇ事情から」ですよ。「ひょんなことから金庫破りに!?」っていうノリは同人誌みたいでマイクル可哀想です。

 

最近ちょっとハズレが続いていて寂しい。次こそは…!!

 

おわり。